無理がモロ見えのカスハガは 僕の民俗学の入口になりました。



カスハガとは、
カスのような絵ハガキのことだそうです。
旅先の友人からこんなハガキが送られてきたら、
みなさんは、どうお感じになるでしょうか。






おばあさんがビッチリ入っている温泉の
絵ハガキなんですよ。
奥のほうには、中国のトウショウヘイに似た方も
見受けられます。
このように、もはや性別を失っていらっしゃる
おばあさんまでが温泉につかっている、
そんな絵ハガキです。




旅先で、「ハガキでも出そうかな」と
ふと売店でこれを見つけたら、度肝を抜かれますね。
売る側の立場になって考察しますと、これは、
この温泉を絵ハガキにするということになった折りに、
撮影するなら人が入っていたほうがいいだろう、
集まるのはご年配だ、
じゃ、たくさん入っていただこう、
みなさんにこっちを向いていただこう、はいチーズ、
ということだったのかもしれませんね。
「自分発信」という旅先特有の欲求に目をつけ
みごと産業化されたのが、
10枚組または20枚組で販売されている
絵ハガキセットですが、
そのなかに無理矢理混入されたような
どうしようもないカスハガが1〜2枚、
発見されることがあるのだそうです。




各観光地は、とにかく
「うちは10以上、見せどころがある!」
と言いたいんでしょう。
無理しているということがモロ見えになってしまう、
それがカスハガ、というわけなんです。




無理感、虚無感があぶり出ることになっても
「うちは、盛り上がってる!」
ということを言いたいんですね。







これも、そうとう、どうかと思うよね。
裸の女性と、ミルクを飲んでるくまが
いっしょの温泉に入っている絵ハガキなんですよ。





ミルクのくま、ということは、
赤ちゃんであるよ、ということを
言いたいのでしょうか。
それとも飼いならされているペット‥‥?




いや、これはですね、もっと漠然と
「何があるかわからない」という
サファリ的なところを
アピールしているんだと思うんですよ。
しかしはっきり言って、
まっぴらごめんですよ、そんなとこ。
あぶないじゃないですか、くまがいちゃ。
くまの毛とかも、温泉に流れてしまうだろうし。




‥‥嫌ですね。
くまのいる里で、いで湯もあるよ、
ということを、一枚で表現したかったんでしょう。




ウリを必死で見つけてしまった、
その結果がこの一枚なんです。
さて、次に、これはベトナムの絵ハガキなんだけど、
よくわかんないものが写ってるでしょ。






こ、これは‥‥?




ね? わかんないでしょ。
これは何か、ここに置いてあるものなんですか?
なんなんですか?
わかんないでしょ?
わかんないんです。
わかろうとすると、こういうキャラが
歩いているように見えるでしょう。






うははははは。
ほんとですね。




こうなると、何を言いたいのかも、
もう、さっぱりです。




この「つぶろさし祭り」も、
「これでにぎわってる」というところを
見せたかったんでしょうか。






でも、だったらさ、
実際の、お祭りのときの写真を
絵ハガキにすればいいじゃん?
絵ハガキのためにわざわざ神社の片隅に、
夕暮れどきに集まることないよ。




そうですね。



きっと、このハガキをつくった方の頭には
「絵ハガキをつくんなきゃいけない!」
ということがあったんでしょうね。
で、つぶろさし祭りの人たちを
祭りでもない日に、呼んだんでしょう。
セッティングとかしているあいだに
なんだか夕暮れになっちゃって、
結局、不気味な絵ハガキになっちゃった、
ということなんでしょう。
カスハガには
何か事情が
隠されているんです。





うはははは。




じつは、昨今「メール」というものの登場で、
カスハガの世界も、絶滅に近づいています。
ですから僕は、こういう形で残せてよかったな、と
思っているんです。




「わたくしはいま、こういうところにいます」
というアピールは、いまや
ケータイメールでも、できるようになりました。
それにつけても、このドジョウすくいの人は、
糸井に似ています。






俺は、気づかなかったんだよねぇ。
あ、俺はいまでも似てると思ってないよ、もちろん!






アップで撮るともっと似てるなあ。






だめだよ!




どちらかというと、
いまの糸井に似ていますね。




いまもむかしもないよ、似てないよ!!




ぜんぜん水のない場所で、
なぜドジョウすくいをしているのか。
なぜ温泉にくまが、
おばあさんが多量に、入っているのか。
カスハガを撮影した現場の思いつき、
ご当地を愛する力を思うと、頭がクラクラします。
ここからみうらさんは、とんまつりの世界に
いざなわれることになったそうですが、
それはまた、別の回を設けることにいたしましょう。
郷土をアピールする無理な力が込められたカスハガに、
みうらさんの、36個めの恩返しでした。





長い期間黙認されてきたカスハガという存在。
みうらさん著の、表紙が例のドジョウすくいの、
『カスハガの世界』はこちらで購入できます。


カスハガ
あまり名物のない地方の、絵ハガキセットに見られる、
出したくも出されたくもない、
カスみたいな絵ハガキのこと。
気を確かにして眺めると、10枚セットのうち1〜2枚に
「なんじゃあ、こりゃあ」というような絵ハガキが、
混入されていることがある。



2005-04-25 その1 みうらさん、その服‥‥
2005-04-26 その2 糸井さんに、入口がちがうぞ、と言われ。
2005-04-27 その3 DTは、まあすなわち、
人間スポンジといわれている状態です。
2005-04-28 その4 おかん、それは、よせ。
2005-05-02 その5 スタンプ好きは、もともと朱印帳から。
2005-05-06 その6 情報不足の功罪。
2005-05-09 その7 どんぶりな、ごり押し。
2005-05-10 その8 世の中はB&T(ボケとツッコミ)で、できている。
2005-05-11 その9

土着が、いやおうなしに混じってる。

2005-05-12 その10

奈良や平安はもういい。昭和を大切に。

2005-05-13 その11

学校でヒゲオヤジの偉業を教えてください。

2005-05-16 その12

個性はカテゴリーで浮き彫りに。

2005-05-17 その13

糸井さんと「いやげ物」は同じ。

2005-05-18 その14

いてもいいよ、と言ってくれる時代。

2005-05-19 その15 もう若くないことに気づくまで。
2005-05-20 その16 プレイバック京都。
2005-05-23 その17 糸井重里という人は。
2005-05-24 お知らせ 愛知万博におじゃまします。
2005-05-26 恩返し1

いちばん最初に恩返し。
年末恒例、「大脱走」。

2005-05-27 恩返し2

もう一度ドラマはみんな
「ウルトラQ」に戻るべきだ。

2005-05-30 恩返し3 土門拳と饗庭葦穂の、ふたりの鬼才。
仏像に恩返しです。
2005-05-31 恩返し4 爪につまった泥を
落としてくれた、切手。
2005-06-01 恩返し5 この人だけはダメと親に言われた
奥村チヨさんに恩返し。
2005-06-02 恩返し6

みうらさんのベースは
吉本新喜劇にあり。

2005-06-03 恩返し7

「巨人の星」のおかげで
目に焼きつけることができたもの。

2005-06-06 恩返し8 小川ローザは半端じゃなかった。
2005-06-07 恩返し9 笑福亭仁鶴さんは
ビートルズみたいだったんだよ。
2005-06-08 恩返し10 大伴昌司さんは
とんでもないことをしていました。
2005-06-09 恩返し11 真夏の夜のテレビで出会ったハマーフィルム。
2005-06-10 恩返し12 僕の長髪は、何を隠そう、
吉田拓郎さんの真似なんです。
2005-06-13 恩返し13 カセットテープが
僕のファーストアルバムです。
2005-06-14 恩返し14 僕はイラストレーターですが、
横尾忠則さんになりたかったんです。
2005-06-15 恩返し15 何でも無理矢理かっこよくする
ジョン・レノン。
2005-06-16 恩返し16 男桜満開だった、
チャールズ・ブロンソン。
2005-06-17 恩返し17 浅間山荘事件のおかげで
僕はいま、鉄球騒ぎを起こしています。
2005-06-20 恩返し18 にせもののマカロニ・ウエスタンが
いろんなもののルーツになった。
2005-06-21 恩返し19

レインボーマンを見直すと、
きっと見えてくるよ、何かが。

2005-06-22 恩返し20

好きになるまでやめるもんか。
そしてボブ・ディランは神様になった。

2005-06-23

恩返し21

いまなら言える。縛りが似合う女
谷ナオミが大好き大好きでした。

2005-06-28

恩返し22

漫画家デビューに導いてくれた
ウシに恩返し。

2005-06-30

恩返し23

外国人を除いて、いまでも
いちばん怖い、糸井重里さん。

2005-07-05

恩返し24

「ガロにしか載らない」そんなふうに
人びとに言わしめた雑誌。

2005-07-07

恩返し25

ハニワは横に転がって動く。
もとはそれだけで描いた漫画でした。

2005-07-12

恩返し26

大人がふたり、買うにも捨てるにも、
勇気をふりしぼったペットふとん。

2005-07-14

恩返し27

ビートたけしさんのような人がいると
僕は落ち込むんです。

2005-07-19

恩返し28

バッテリーの熱で卵が焼ける。
それほどファミコンにハマりました。

2005-07-21

恩返し29

ゲーム界を背負ってひた走った
働き者のマリオに恩返し。

2005-07-26

恩返し30

宮本茂さんに賞をあげない
ノーベル賞は、意味がないです。

2005-07-28

恩返し31

バカレコードを買いあさった僕は
確実に不審人物でした。

2005-08-02

恩返し32

どの時代のどの街にも似つかわしい、
桐箱に入った国宝、桂米朝師匠。

2005-08-04

恩返し33

わしは見とるぞ、見とるぞ!
ほら、松本清張さんの声が聞こえます。

2005-08-09

恩返し34

カエルには、
恩返しされた 経験があるんです。

2005-08-11

恩返し35

ジャンルを得ることで、
らくがおは、 たくさんのヒーローを生みました。


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「DTF[童貞編]」に続く、
みうらじゅん=MJの青春ソング集第2弾。
MJが学生時代に作曲したフォークソングから
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みうらじゅんさんの活動が随時紹介されているHPはこちら
2005-08-16 TUE
(c) Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005