ルールを原始的に。 ルディー和子さんと、お金と性と消費の話。
 
第2回 ミラーニューロンと共感性。
ルディー マーケティングって基本的には、
人間を研究することだと思っているので、
相手の人間の立場にすぐになれるというのが、
やっぱりいちばん大事だと思うんです。
自分は受験生でもないし、
専業主婦じゃないとしても、
その立場になれること。
糸井 ああ、共感性ですよね。
イエスの方舟っていう事件があったの、
憶えてらっしゃいますか。
ルディー はい。
糸井 「おっちゃん」って呼ばれてた人は、
それこそ、教祖であり、
おっちゃんって呼ばれる存在で、
あの人と、吉本隆明さんは会ってるんですけど、
宗教家っていうと、やっぱり、
いちばん理想的な形はあの人だと思う、
って言うんですね。
崇められてることと、
虐げられてるっていうか、
下に見られてるっていうことは、
どっちがどっちでもないわけで。
ルディー はい。
糸井 あのおっちゃんは信者の女の人たちから、
わたしは死にたいって言われたりすると、
そうか、一緒に死ぬよ、って言うんですって。
要するに、超共感性で、
本気で思っちゃうらしいんですね。
音叉がこっちの音叉鳴らすみたいな。
ルディー はい。
糸井 吉本さんが、宗教家の資質っていうのは、
そこなんじゃないかっていう言い方を
しているのを聞いたことがあって。
かなりそれって女性的な感性にも思えるんです。
もらい泣き、ですよね。
ルディー もらい泣き。はい。
糸井 で、自分に、その要素があるもんですから、
どうやって解決しようかって言いながらも、
ベースにあるのは、共感性だなぁと思ってて。
たぶん自分が仕事を選んできたときに、
そこのところに、
ずっといたっていう気がするんですね。
ルディー 最近、ミラーニューロン(*)っていう。

*動作や感情をコピーすることができる神経細胞で、
 動物だけでなく、
 ヒトにもあるという学説が、近年、提唱されている。

糸井 はいはい。
ルディー ほんとにヒトにあるのかどうかは、
いろいろ議論があるんですけど。
糸井 仮説とも言えるんですよね。
ルディー はい。それがほんとうにあるとして、
相手がペンを持っているのを見ていると、
こちらの頭の中でも
ペンを持っているかのように
神経細胞が活動している。
この考えにもとづくと、
ミラーニューロンがある人は、
共感性が強い。
そして、ない人は、空気読めない人という
ことになってしまう。
糸井 ああー。
ルディー ただ、それを言っちゃうと‥‥
DNAがすべてを決めるってことになる。
わりと最近、アメリカの雑誌なんかでは
言っちゃったりしてますけどね。
糸井 言っちゃったりしてますね。
ルディー 気持ちとしては、
みんな一所懸命努力すれば
他人に共感できるんだよ、
って言うじゃないですか。
でも、やっぱり、それはないんじゃないかな、
ダメな人はダメ。
糸井 たぶん、一回きっかけがあって、
もらい泣きみたいなことが起こると、
また次のもらい泣きの引き金が引かれやすくなる、
ってことも、たぶん、
あるような気がするんですね。
ルディー はい。
糸井 我慢して、そこをしないようにしてる、
っていうのが社会のルールで。
つまり、死にたいっていう人に
一緒に死のうかっていちいち言ってたら、
もう人生はそこで終わりになっちゃうわけで。
それをしなくてもいい方法を考えるのが
一方で人類の文化だった、とも言えるから。
その共感性がないから出世した人って、
山ほどいると思うんですよ。
ルディー うんうん。
糸井 バランスの問題なんだけれど、
ほんとに消費社会がきたとき、
主役が消費になったときに
そのミラーニューロン的な
共感性っていうのが、
はじめて役に立つと言われている特性なのかな、
って、ぼくは感じてるんですね。
ルディー はい。
糸井 よく例えで言うんですけど、
偉い人が自分の靴一足買うのに、
下手すると「誰か買ってきてよ」って言う。
ちょうどいい、オレに合うサイズのを、
「おまえセンスいいから買って来いよ」
──それは、履いてたら、
いい靴ですね、って言われるから、
一応、満足なわけです。
だけど、例えばOLやってる子が、
新しい靴を買いたいっていうときに、
5軒の店回って、買わないで戻ってきて、
また行った、というほうが、
「いま」だと思うんですね。
ルディー うんうんうん。
糸井 5軒、骨惜しみせずに
靴を見て回れる人が、
時代を作ってるんだというふうに、
いまぼくは思ってるんですよ。
まったくそこが
チェンジしちゃったんじゃないかなぁ、
という辺りのことを思ってるときに、
ルディーさんのこの本と出会った。
たぶん、そうとう近いところを歩いているんだ、
エスティ ローダーにいた人が、
こういうことに気づくんだぁ、
っていうことが、ちょっとね、
やったぁーと思った(笑)。
ルディー わたしは、糸井さんに紹介していただいて、
やったぁー! と思いましたけど(笑)。
糸井 そうですか(笑)。
どっちにしても、
昔から、男はそれどころじゃないんだ、
という言い方がありますよね。
ルディーさんも、
「オレは男だ」という人たちに、
責任を持って、なにか教えなきゃ
ならないときがあると思います。
「どうやったら儲かりますか」
「どうやったらうまくいきますか」
と、男は、生産の側に立ってるロジックで
説明を受けたがるんですよね。
ルディー わたしは、たぶん、
そっち側であまりきちんと説明できなかったので、
コンサルティングの仕事はあまり来なくって(笑)。
それで、本書いたりとか、講演したりとか、
大学で教えたりとか、そんなふうに
なったんだと思いますよ。
糸井 ああー、スピンアウトした。
ルディー はい。
商品を企画してるときも、
その商品を買う人間の側から物を言うんです。
「それダメなんじゃないか」と。
会社側は、そういう言い方が、
たぶん気に入らなかったと思います。
糸井 でも、責任ある立場に
上げられちゃってたんですよね。
ルディー 会社で社員として働いていたときは、そうですね。
糸井 どんなに遠慮がちに言っても
位置は位置ですから。
ルディー そうですね。
会社ではよかったんですけど、
会社を辞めて独立してから、
ちょっと悪いですね(笑)。
糸井 そうですか。
会社ではそれは、
「きみはそういうことできるね」
って思われてたわけですよね。
ルディー そうですね。
会社ではわりと、好き勝手にやっていました。
糸井 そのときのロジックっていうのが、
きっとあったと思うんですよ。
ルディー エスティ ローダーは基本的に、
本社が世界中のマーケティングの方針を
決めていたので、
日本で変えるってことはあんまりないんです。
せいぜい、販促、店舗の販促とかで。
──化粧品会社のマーケティングって
営業の人といかに人間関係をスムーズにして
説得するかが大事なんですね。
けれどもわたしはまだ若かったので、
あんまり上手に説得できませんでした。
糸井 へぇー。
ルディー いまだったらできると思いますけど(笑)。
若いときはダメです。
やっぱり、生意気ですからね。
糸井 ぼくは、社内での考え方っていうのは、
それこそ、女性的な消費を軸にして考えないと、
すべてはうまくいかないっていうことを、
もう、過剰なまでに言っているんです。
それで鍛えてるんですね、逆に言うと。
ルディー はい。
糸井 だから、たのしくなかったら伝わらない、
とかっていうのは、もうほんとに、
その練習さえさせるぐらい鍛えてる。
ルディー はい。
糸井 けれども、社会の中で、そのことを、
「変わり者だと思ってるからまあいいや」
じゃなくて、
「ほんとにそっちなんだから!」
と伝えたいときの言葉が、
探しきれていないんですよ。
そこで、ぼくはいま、けっこう、
どうすればいいんだろう‥‥と。
悩んでるわけじゃなくて、
もうちょっとで、できそうなんだけどなぁ、
って思ってるんです。

(つづきます)
2010-07-13-TUE
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