染五郎 『朧の森に棲む鬼』副音声ということで、
今日はスペシャルなゲストをお呼びしております。
糸井重里さんです。
よろしくお願いします。

糸井 こんにちは。よろしくお願いします。
染五郎 もうこの舞台は見ていただいて、
ずいぶんそれこそ「ほぼ日」にも
いろいろ書いていただいたりして(笑)。
糸井 はい、「面白かったー!」って
書いた覚えがあります。
染五郎 ありがとうございます。
またDVDになるとだいぶ印象も違ったりしますので、
そのへんも見ながらお話ししたいと思います。
相変わらずいのうえひでのりさんの演出はド派手で、
ちょっと今までとは多少違うような感じで、
“ちょっと大人な新感線”の
始まりみたいなことを
いのうえさん言っておられて、
そういう意味では、またこれからの
新感線の第一歩みたいな作品に
なったのではないかと思うんです。
糸井 大人なっていう感じは
確かにあったような気がしますね。
これ見てると、ゲキ×シネになってしか
見られないものが加わるじゃないですか。
染五郎 そうですね。今回は15台ですかね、
カメラが、撮影が。
糸井 15台!
染五郎 はい、入りまして、もちろん舞台の
一番後方にも何台もありますし、
舞台面といいますかね、
舞台の一番前にも無人のカメラがあって、
それはもう遠隔操作でクルクルクルクル
回っていたりして。
糸井 それはあれですか、
客席みたいな場所にも混じり込んでるんですか。
染五郎 混じり込んでるというよりも、
お客さんより主張してるような感じで(笑)。
糸井 あ、そうですか(笑)。
それは、出演者は、わかってるんだ。
染五郎 いやもう、どこを見ても
カメラみたいな感じの中でやるんで、
撮影日というのは覚悟してやってます。
今までのDVDになった作品もそうだったんで、
だいぶ慣れてはきました。
糸井 カメラがあるってことを知ってる日と、
ないって知ってる日は違うんですか。
染五郎 やっぱり舞台はもちろん毎日のことなんで、
もう用意ドンで止めることができない、
失敗できないっていうスリルは
もちろん毎日あるんですけど、
カメラが入るとなおさらこう‥‥
失敗できないというか、
残ってしまうんだというプレッシャーは
やっぱりありますね。
糸井 始めたら忘れちゃう? そうでもない?(笑)
染五郎 いや、忘れる頃にフッと目線にカメラが、
どでかい太鼓のようなカメラが
ボンと見えたりするんで、
意識しないではできないですね。
糸井 昔の新感線のDVDとか、僕、持ってるんですよ。
そうすると、こんな品質よくないんですよ。
どこかから圧倒的によくなってるんですよね。
染五郎 そうですねえ。
こだわりにこだわってますね。
糸井 これだってライティングは
映像を撮る用のライティングじゃないわけでしょう?
染五郎 じゃないですからね。
明るく鮮明に見えるように
映像の手は加わってると思いますね。
ただ、出来上がったものがやはり
こうやってこだわってる作品なんで、
もう最近は
どういうふうにDVDで映像を
作ってくれるんだろうって
楽しみになってますね。
糸井 出演者が観客になれる唯一の機会ですもんね。
染五郎 そうですね。で、当たり前なんですけど、
自分が出てるときは場面は見られなかったりするんで、
それがどう映ってるんだろうというのは
非常に楽しみにして。
糸井 当たり前のように殺陣をやってますけど、
新感線の殺陣というのは特別なんですか。
染五郎 特別ですねえ。
糸井 ひどいですよね。ひどいっていうと‥‥
染五郎 ひどいですね、ええ。
糸井 ねえ。怪我しないかなって思うときが
よく、僕、あるんですよ。
染五郎 いや、だから、けっこう今日できても
明日できるかなっていう恐怖の中で
毎日やってますね。
糸井 あ、そう!(笑)
染五郎 もう本当に、肉体的にも息があがるので、
そういう意味ではそういうスリルはありますね。
で、今の最初の殺陣ですが、
僕は今までの作品よりも
はるかに殺陣の量が少ないんですよ。
1幕も正直言ってこれだけなんです。
なんですけど、このド頭の殺陣っていうのは、
もうかなり息があがりますね。
糸井 緊張感がある?
染五郎 緊張感も加味されて、
肉体的にもやっぱり息があがります。
本当はもうゼイゼイゼイゼイしてるんです。
糸井 あ、そうですか(笑)。
ライ(染五郎さんが演じた主人公の名前)って
強くないんですもんね。
強くないから、殺陣が最初から
うまいはずがないっていう役を
しなきゃなんないんですよね。
染五郎 本当にいっぱいいっぱいでやってますけど、
強いほうが逆に体は楽なんですよね。
糸井 ああ。じゃ、一番大変だった(笑)?
染五郎 殴られたり斬られたり
逃げたりするっていう殺陣が
動きに入ってると、
けっこうきついんですよね。
阿部サダヲさんがキンタって役でね、
僕のきょうだい分の役なんですけど。
糸井 この人は強いはずなんですよね。
染五郎 この人はもう腕っ節で。
で、(阿部さんは)もともと
野球をやっておられた方なので、
もうかなりスポーツマンですので。
糸井 阿部サダヲさんって、
殺陣が上手なんですね、もともと。
染五郎 そう。でも、殺陣はそれこそ
新感線の以前の作品でやって以来、
ということは言っておられたんですけど、
やっぱり運動神経と共通するとこがあるので、
すごくシャープな殺陣をされてますね。
糸井 殺陣師っていう人が専属でいるんですか。
染五郎 劇団☆新感線の方ではないんですけど、
アクションクラブっていう殺陣専門の人たちが
ここのとこはずっと新感線の殺陣を
つけておられるんですけどね。
糸井 しつこいじゃないですか、殺陣が。
ああしてこうしてで終わらないで、
こうして、さらにこうしてみたいな。
あのしつこさって
練習のときから大変ですね(笑)。
染五郎 殺陣を作る稽古っていうのは時間もかかって、
まずどういうシチュエーションかみたいな
演出が決まらないと。
今この状況で2人やる場合は、
どっちが強くてどっちが弱いかとか。
例えばそこで手傷を負ってることもあったり、
気持ち的に向かっていくっていう気持ちだったり、
殺陣はするけど抜かないっていうことを
こだわってたりするみたいな、
そんなような演出がまず決まって、
その演出に即して
その場でつけていくんです、殺陣師の方が。
糸井 あ、じゃあ、ドラマとしてできてるところに
殺陣をはめていくわけだ、‥‥うわあ。
染五郎 そうですね。
演出的に最終的にこの位置になりたいという
いのうえさんの指示のもと、
最初はここで始まり、ここで終わるっていう
居所を決めて、
そのあいだを埋めていくっていいますかね。
糸井 しかも、広いところの芝居が多いですよね。
だから、稽古場もその広さ必要ですよね。
金のかかる練習ですね(笑)。

染五郎 かかりますけどもねえ、かけてますね。
もう本当にこの舞台が組めるところで
稽古してるんです。
段があったりするだけで、
もう本当に動きがかわってきてしまいますからね。
今回は最初のところで雨が降るんで、
いわゆる水を使ってる舞台の上で
殺陣をするというのは、
普通の動きにしても
かなり制約があるんですよね。
糸井 大変だねえ。滑るっていう。
染五郎 また舞台のスタッフもすごいもんで、
まったく滑んないんですよ。
糸井 この舞台だと?
染五郎 ええ。それはもう床の質というのも
散々、調べて研究して。
糸井 履き物も?
染五郎 ええ、履き物も含めて。
だから、稽古場はもちろん水までは使えませんから、
稽古場でやってた動きが舞台行って
そのままできるというのは、
ちょっとやっぱりビックリしましたね。
糸井 それはすごいことですね。




2008-01-02-WED

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN