いきものの先生 野村潤一郎
最終回 いきものとして。
野村 僕ね、5日ぐらい睡眠なしで、
連続で勤労できるんですよ
ほぼ日 5日ですか?!
野村 限界は5日。
それ以上になると、幻覚を見ます。
ほぼ日 はああ。
いつも移動するときは
ダッシュなさってると聞きましたが。
野村 うん。A地点からB地点へ移動するときは、
必ず全速力で走ります。
ほぼ日 全速力で。
野村 まあ、物を持っていることがあるので、
そんなスピードは出ませんけどね。
メシもそうです。
だいたい5分以内で終わります。

ほぼ日 !!!
野村 だってね、ガソリンを給油するときに
そんな1時間も2時間も
長ったらしくポンプ使っている人、
いないでしょ?
F1なんかすごいよね、
圧縮空気で1秒でシャーって入っちゃう。
あれでいいんですよ。
そんなことに時間かけてもしょうがないもん。
ほぼ日 そういえば、
そんなに時間かけて食べる動物って、
あまりいないですね。
野村 いない。ババッと食べたら「さぁ行こう」。
もちろん摂食は生きるために必要なんですが、
生きるために必要なことって、
たのしいことなんですよ。
だから交尾もたのしいし、
睡眠もたのしいし、食べることもたのしいわけ。
ほぼ日 人間が大好きなことばかりですね。
野村 だからといって、
必要以上に寝てたら人生の損失だし
必要以上に摂食に時間をかけるのも、
時間の無駄です。
ほぼ日 ゆっくり食べるのも、
ゆっくり寝るのも人間だけですか?
野村 そうだね。生きるのに必要な、
DNAを未来へ存続させるために必要な行為が、
すべてお遊びになっちゃってるんですよ。
ほぼ日 でも睡眠はお遊びじゃない感じが
するんですが。
野村 そうでもないですよ。
例えばリラクゼーションなんていうのも、
ひとつの睡眠ですからね。
たいして疲れてもいないのに
「私はストレスフルな毎日を送ってるんだ」
ほぼ日 先生にそう言われると、確かに
たいして疲れてないですね(笑)。
野村 たいして疲れてないですよ、
動物たちに比べれば。
動物たちは全力ですからね。いつも全力。

全力でエサを取り、全力でメスを探し、
全力でオスを待つ。
もう、たまったもんじゃないですよ。
孔雀だって、羽根を広げているけど、
あれはやばいよ? 目立ちすぎだよ。

ほぼ日 そうだ、危ないですね。
野村 敵にやられますよ。
でも、敵にやられるのを躊躇して
羽根をたたんだり
羽根を発達させないようなオスは、
「たかがそんだけ」です。
あれをやるってことは、
敵に襲われても
やっつけ返す自信があるということです。
メスはその余裕の力を見てるんだろうな。

ところが人間は、生きるための殺し合いを
お遊びにしちゃって、
代償行動としてのゲームやスポーツに
夢中になっています。

ほぼ日 スポーツもですか。
野村 人間がスポーツを発明したのは
自分が殺されるのが嫌だからです。
とりあえず殺戮は禁止にする、
そこから生まれたんでしょう。
ほぼ日 ルールの成り立ちのおおもとは
「自分がされると嫌なこと」
と言われますが‥‥。
野村 そのへんはちょっと
いきものの世界と違うんだよなぁ。

まず、科学は絶対です。
女性のみなさんは
「絶対にそれはない」と言いながら、
彼を裏切ってほかの男と寝ちゃったりするけども。

ほぼ日 いや、しないです(笑)。
野村 いいえ、やるときはやるんです。
ところが自然界は、絶対です。
太陽は東から昇る、西に沈む。
月が昇る、沈む、三日月になる。
物から手を離せば落ちる。
自然界のしくみについては
「なぜ?」を考えちゃいけない。
絶対というのはそういうことなんです。

この世に絶対があるとしたら、
それしかないんです。
それだけが、ルールなんですよ。
そのルールに基づいたものが、
私たちの良心や、人間らしさだったりすると、
僕は思っています。

ほぼ日 自然界のしくみに合ったものが
実は、倫理にも結びついていく‥‥。
野村 そうなんだけど、
人間の「らしさ」が、いまはもう、
むちゃくちゃになっちゃっていると思います。
自分たちで作った法律さえ守っていれば
何をやっても文句はないなんて、
そんなわけはないんです。
自由と無軌道は違うでしょ?
ほぼ日 「ならぬものはならぬ」が
通らなくなってきていますね。
野村 誰かが傷つく自己満足だったら、
だれも傷つかない自己満足のほうがいいですし、
できれば誰かがハッピーになったほうがいい。
それをいまの人間は考えないから
むかっ腹が立つわけ。
ほぼ日 むかっ腹が。
野村 つまり、立小便をしたら軽犯罪法違反ですが、
友情を裏切っても犯罪にはならないんですよ。
でも、いったいどちらが
「いきものとして重罪」なんだろうか、と。
ほぼ日 「自分がされたら嫌なこと」ではなく
「いきものとして嫌なこと」を軸にしたら。
野村 結婚をしたい女の人に近づいて
結婚の二文字をちらつかせ、欲望を満たして、
そのあとの将来的展望を
まったく考えない男がいるとします。
これが、罪になるかっていったら?
ほぼ日 なりませんね。
野村 でもね、「いきものとしてどうよ?」と、
そのことを、僕は言いたいんです。
「自分の若気の至り」なんて、
言葉をきれいにつくろっているだけ。
‥‥あいつ、あと10発ぐらい、
頭叩いとくべきだったな!
私はいろんな相談を受けるんですよ。

ほぼ日 ‥‥実際にそういうことが(笑)。
でも、確かに
そういう恋愛問題や、友情のひどい仕打ちを
取り締まる法律はないですね。
だから、罪の意識もそんなに感じない。
野村 それは、立小便よりはるかに重罪だと思うな。
そういう裏切りや仕打ちを、自分がやられたら、
自分の奥さんが、自分のだんなが、
自分の娘や息子がやられたら、どうなんだ。
やられたら嫌なことを防ぐのが
法律だったとしたら、
そのあたりもちゃんとやってくれ、と言いたい。
法律を作る側は
その間、保身するしかないから、
だれもそこに加担しようとしないだろうけど。
ほぼ日 人間のいきものとしてのすばらしさを
いかしたルールを
実現していけたらいいですね。
野村 そうできるといいよね。
自然科学あってこその人間である、と
自覚を持って
生命の真理に近づいていくと──ま、
たまにはこういうことを考えるのも
いいんじゃないかな? と思いまして、
ここまでお話をいたしました。
これでちゃんと、
コンテンツになったかな(笑)?
でもね、
人間の作った上っ面だけの規則を
守っていさえすれば善人だなんて思って、
生まれて生きて死んでいくより、
こういうことをたまには
考えてほしい、と思います。
ほぼ日 はい。ほんとうに、
そのとおりだと思います。
野村 でしょ?
ほぼ日 はい。今日はたくさんのお話を
ありがとうございました。
野村 ありがとうございました。
 
  これで、野村潤一郎先生の連載はおしまいです。
ご愛読、ありがとうございました。
ご感想など、よろしければどうぞ
postman@1101.com までお寄せください。
2008-05-19-MON
前へ 最新のページへ