いきものの先生 野村潤一郎
第2回 ハエと人間、何が違うの?
ほぼ日 そもそも本日、
野村先生のところにうかがったのは、
いきものの「睡眠」についておうかがいしたいと
思いまして。
野村 そうでしたそうでした。
動物も人間も、みんな欲があります。
性欲、食欲、睡眠欲です。
これらはつまり、
「生存欲」というものを満たしているんですよ。
ほぼ日 ああ、なるほど。
野村 人間も動物ですから、
性欲と食欲と睡眠欲がなかったら、
男は働かないし、女は化粧をやめます。
そうしたら、何の楽しみもありません。
こういう「欲」が
生存欲につながるからこそ、
いきものは生きているんですよ。
ほぼ日 睡眠欲が生存欲だということはつまり、
いきものはすべて眠るんでしょうか。
野村 よっぽどの下等動物じゃない限り、睡眠は
ほとんどの種類のいきものが
必要としている生理現象です。
ほぼ日 ‥‥魚も、ですか?
野村 つい10年か20年ぐらい前までは、
魚は寝ないといわれていましたが、寝ます。
僕は子どものときから
いろんな動物を飼っているんですが、
「どうみてもこれ、寝てるな」
っていうシチュエーションがありましたよ。
ほぼ日 見てわかるんですか?
野村 うん。魚って、
まぶたがないからわかりにくいけど、
目を開けたまんま
ぼ〜んやりしているときがあります。
エサをやってもしばらく気がつかない。
そういう様子をずっと観察していて
「魚って寝るんだな」と思ったのが、
子どものとき。
ほぼ日 でも、当時の科学者たちは
「寝ない」と言ってたんですよね?
野村 そう。僕は子どもの頃から、
大好きな動物たちの世界を
点ではなく面でとらえたほうが
いいんじゃないかな、と思っていました。
人から教えられた点の知識は
いくら打っても面にならない。
ところが面というのは、見方を変えれば
中に点がいっぱいあるんですよね。

問題を端的に追うのではなく、
分野を超えて、いろんな角度からつなげて
とらえていくんです。

いきものが好きだったから、
真理を追いかけようと、一生懸命でした。
すると、どうしても
自然科学、地質学、宇宙の知識、
いろんなものについて
知らなきゃいけないことになりました。
そうやって、面を埋めるようにして
考えつづけていたら、
「魚は寝ない」ということについて
「うそぉ!」と結論したんです。

ほぼ日 子どもが「うそぉ!」と。
野村 「寝るよ、どう考えても!」
そうしたら、20年ぐらい前になってやっと
魚に0.7秒のレム睡眠が確認されました。
ほぼ日 0.7秒ですか?
野村 レム睡眠のひとつの周期が0.7秒というのは
魚にとって決して短くはないですよ。
魚にはベッドがないから、
泳いでいないと流されちゃいます。
ですから、そんなに長い時間は
睡眠を取れないんです。
じゃあ次は、昆虫はどうだ?
ってことになるよね。
ほぼ日 昆虫は‥‥寝るのでしょうか?
野村 昆虫‥‥ま、節足動物ってことにしましょうか。
これも、寝てるとしか思えないときがあります。
ほぼ日 ありますか(笑)。
野村 あるなあ。

ほぼ日 ハエとかもですか?
野村 うん、ハエも寝てるんじゃないかな。
そもそも睡眠というのは、
単に体を休めるだけの行為ではありません。
脳みそがあったら、
睡眠は絶対必要なはずなんですよ。
なぜならば睡眠は、未来の予行演習であり、
過去のデフラグ
(分離された記憶データを整理し直すこと)
でもある。要するに「整理」です。
ですから、脳があるからには、
これは、絶対行わなくてはいけなくて。
ほぼ日 脳って、みんなにあるんですか?
野村 ハハハ、ある、ある、ある。
ほぼ日 じゃあ、魚から虫から、
脳があるいきものは、睡眠は、
野村 みんなやっているはずです。
ほぼ日 やっている‥‥
野村 みなさんだって、ハエだって、
セックスするでしょ?
ほぼ日 なるほど、
睡眠も交尾も同じですね。
野村 同じですよ。
口から食べて、おしりの穴から排泄するでしょ?
ほぼ日 はい。
野村 で、生まれて生きて、死ぬでしょ?
どこが違うの? ハエと人間と。
ほぼ日 同じですね。
野村 蚊も人間もミミズもDNAを持っていて、
そのDNAは
アデニン、シトシン、グアニン、チミン、
この4つの塩基配列の繰り返しで
設計図が描かれている。
そうである以上は、
分子レベルのことまで一緒なわけです。

ちなみに、ピグミーチンパンジーと
人間の遺伝子の差は、
ある学者によると1.25%、
別の学者によると1%未満といわれています。
どちらにしても、
チンパンジーと人間の違いは
ほとんどありません。
人間は、自分たちが人間だから、
人間をよく思いたいでしょ?
だって、そのほうが楽だもの。
例えば「人間の町にクマがおりてきたら射殺」と、
当然だと思ってることに対して
疑いを持つようになったらしんどいでしょう。
その理論が成り立つんだったら、
人間が山に入ったら、本当は
クマに殺されなきゃいけないよ。

どの動物も、同士を保護します。
ですから、クマを殺すのも、
クマがこちらを襲うのも、
「仲間を守るため」ということなら
そうするんです。
もしも蚊が頭がよくて
「人間と、仲間のメスの蚊と、どっちを殺す?」
ってことになったら、人間を殺すと思います。

  (つづきます!)
2008-05-09-FRI
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