『ディア・ドクター』の  すてきな曖昧。 糸井重里×西川美和監督
第10回 「夜が暗いな」
糸井 刑事役の人で、
背の高い方の‥‥松重豊さん。
西川 はい。
糸井 あの方も、
「その役は俺が引き受けます」
って感じの役者さんですよね。

※左が松重豊さん  (C)2009『Dear Doctor』製作委員会
西川 うん、うん。
糸井 あの人はむずかしいことを
実によく引き受けていました。
もう、「語りべ」に近いような。
西川 そうなんです。
書いているときも、いちばんむずかしい
キャラクターだったんですよ。
糸井 だからもう、
役者さんの肉体に任せるしかない。
西川 そうなんです。
彼をどういうタイプの刑事にするか、
設定がとても難しくて。
語りべだから、
個性的すぎるとついていけなくなっちゃうし、
かといって、じゃあ、
ティピカル(典型的)すぎる刑事だと
それもつまらないし‥‥。
糸井 あれはぼくも、
ちょっとむずかしいと思ったものだから、
「あの役は何?」ってカミさんに聞いたんです。
そしたら「あの人はうまい人なんだよ」って。
西川 うまいですね。
糸井 「あのうまい人をあそこに置いてるから、
 なんとかなるのよねえ」って。
西川 うん、おっしゃるとおりです。
糸井 ‥‥そういうさ、
現場のそういう話はうらやましいのよ。
西川 え?
糸井 「あの人うまいからやってくれたんだ」
っていうのをチームでわかり合ってるのは、
野球選手同士の話を
聞いているときと同じなんです。
「おまえら、うらやましいな!」って。
西川 はい、それはありがたいと思ってます。
松重さんなんかは、
いろんなちっちゃい引き出しをたくさん、
「Aの8列」みたいな感じでもってる人なので、
微調整がすごくきくんですよ。
糸井 ちっちゃい引き出しがいっぱい。
漢方の薬箪笥みたいな(笑)。
西川 そうそうそう、小引き出しが(笑)。
糸井 (笑)
西川 「漢方薬の小引き出し」って、
いいキャッチフレーズですね。
糸井 あの引き出しの多さは、しびれるよねえ。
でも、プロってそういうことですよね。
西川 もっとざっくりと、
大振りする俳優にもしびれるし(笑)。
糸井 ああ、いいですよね、大振り。
西川 それはそれで。
糸井 岩松了さんとか。
西川 あ、岩松さん。

※右が岩松了さん  (C)2009『Dear Doctor』製作委員会
糸井 演出家をやってるときの岩松さんは
あんなに細かいのに、
自分の芝居は大振りですから(笑)。
西川 (笑)
糸井 それが、ぼくは好きで。
岩松さんが出てくると、なんていうか、
ある世界観が満足するんですよ。
西川 現場では大振りかな? って思うんですけど、
ラッシュ(未編集の映像)をみると、
「あ、この振りでよかったんだ」っていう(笑)。
糸井 あの、ほら、
『ディア・ドクター』の最初のほうでさ、
岩松さんが外を眺めて言うセリフ、
「夜が暗いな」(笑)。
西川 あの言い方がまた(笑)。
糸井 あれには、もう、
夫婦そろって大ウケでした。
西川 本当ですか。
糸井 だって岩松さんのセリフで、
ちょっとドキュメンタリータッチで、
「夜が暗いな」って(笑)。
あれでもう、ツカミはOKでしたね。
西川 よかった(笑)。
糸井 あれも脚本ですよね?
西川 そうです。
糸井 いいセリフだなあ。
たまんないでしょ、自分で。
西川 いやいや、そんなことは。
糸井 いや、あれ以上はないでしょう、
あんないいセリフは。
西川 冒頭4分の1くらいまでは、
いかに短いセンテンスで
設定を把握させるかっていうことに尽きるので、
酔ってる場合でもないんですけど。
糸井 酔える、酔える。
西川 そうですか(笑)。
糸井 「夜が暗いな」……。
しかも、岩松さんのあの役柄って、
あの地方の夜を知らないわけじゃないですよね。
西川 その通りです。
糸井 わかってるんだけど、
外を見る意味もほとんどないんだけど、
あそこでは外を見るしかないんですよ。
で、見て、
言うセリフもとくにないのに‥‥
「夜が暗いな」(笑)。
あれは、夜に対して、
自分が同じ大きさになってますよね。
西川 そうですね(笑)。
糸井 あのシーンは、大好きです。
西川 ありがとうございます。
糸井 ああいうセリフを役者はね、
言ってみたいと思うみたい、どうやら。
西川 えー、そうですかー。
糸井 うらやましいなあ‥‥。
そのセリフを言ったら、こう、
「はい、カット」
とかやってるわけでしょう? 大勢で。
西川 そうですね。
糸井 たまんないよね、おもしろくて(笑)。

(つづきます)

2009-09-14-MON


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