『ディア・ドクター』の  すてきな曖昧。 糸井重里×西川美和監督
第2回 だって鶴瓶さんの映画なんだから。
西川 なんだか、褒めていただいてばかりなので、
批判したいところがあれば
言っていただきたいんですけど‥‥。
糸井 批判したいところ。
人々が批判したいところは、わかっています。
それは監督もわかってて
わざとそのままにした部分だと思うんですが、
いちばん大きいのは最後ですよね、きっと。
西川 ラストシーン。
糸井 主人公が‥‥まあ鶴瓶さんが、
最後にもう一度出てくるシーン。
「あれはないほうがよかった」
と言いたがる人がいるのはわかるんです。
西川 はい。
糸井 しかもそれは最後の最後に、
いつでもカットできる部分に入ってるでしょう。
エンディングの、あんな大事なところに。
西川 そうですね、最後です。
糸井 「文句を言う人がいるんだったらどうぞ」
「カットできる場所だけどカットしません」
っていう、監督のその度胸がねぇ、
その度胸は、あなた強すぎるっていう(笑)。
いや、結局これも褒めてるんですよ?
西川 強いかどうかは、わからないですが(笑)。
糸井 迷ってしたことじゃないな、
というのはわかるんです。
カットできる場所に入ってますからね。
いつでも取れる場所に。
で、ゴーしちゃったわけだから、すごいですよ。
西川 うーん‥‥あの‥‥
こんなことを観てくれた人に言うのは、
あまり、あれなんですけど‥‥
そんなに思い入れがあるわけじゃないんです、
あのラストに。
糸井 うん、ぼくもまったくそう思う。
そういう映画じゃないんだから。
「そのことをわかれよ」っていうのが
ぼくの気持ちなんです。
でも、人からああだこうだ言われることに
耐えるつもりがある監督っていうのは、
そりゃあえらいなぁと思って。
西川 聞かないんです、だから。
だいたい、右から左に流してるというか。
観た人がどう考えるかについて、
私が答える義務もないと思いますし。
糸井 うん。
西川 ラストについては前回の作品でも、
解釈をめぐっていろいろ言われたんですけど‥‥
糸井 あ、前回もそうだったね。
『ゆれる』のラストシーン。
主人公たちはどうなるんだろう、で終わってる。
でもあっちのラストには、
テーマに近い部分が入ってましたよね。
西川 はい、それは、そうでしたね。
『ゆれる』のほうが、
ラストを大事にはしていました。
糸井 でも『ディア・ドクター』は、ねえ?
ラストにテーマはないんです。
西川 ぜんぜん、ないんです。
あれはもう、
「これは映画ですよ」
ていうのを言うためのラストですから。
糸井 あー、なるほどそうか、
リアルに描いているけれども、
「これは映画ですよ」と。
西川 そうです。
糸井 ぼくはね、
「あのラストはないほうがいい」って言った人に、
「鶴瓶さんの話だから、あっていいじゃない」
って言ったの。
西川 ああ(笑)。
糸井 ぼくが監督のかわりに言う必要もないんだけど、
「だって主人公は鶴瓶さんなんだから、
 鶴瓶さんで終わっていいじゃない」って(笑)。
西川 でも、そうですね、本当に。
糸井 そうじゃないと、村の映画になっちゃう。
西川 そう、そうなんですよ。
糸井 村の映画にしたら、
西川さんの撮りたいことじゃなくなるでしょ。
西川 別に村じゃなくてもよかったんですよ。
糸井 そうですよね。
人のほうにウエイトがあるんだから。
「村のいい環境が‥‥」
とかってすぐに言われそうな危険が
いつでもある映画ですからね。
西川 それ、もうけっこう言われてます(笑)。
糸井 言われてるんですか。
日本の古き良きナントカ、みたいに。
西川 それはそれで否定はしないんですが。
糸井 「過疎の村には不便もあるけれど、
 忘れられた良いところもある」とか、
「人情とは何かをもう一回考えさせられた」
みたいな(笑)。
そっちへ行くのに決まってそうなところで、
「いやいや、これは村じゃなくて
 鶴瓶さんを観てほしいんです」
っていうことを、監督は言ってるわけですよね。
西川 はい、もう、そうです。
糸井 そこまで含めて、
ぼくはものすごく好きだったんです。
西川 ありがとうございます。
糸井 その、なんだろう‥‥
危ない橋も渡りつつ、
かならずそこを抜けてきてね。
西川 危ない橋でした、今回は。
糸井 危ない橋ですよ(笑)。
西川 はい。
糸井 『ゆれる』を撮ってるときには
そんなに危ない橋はなかったでしょ。
西川 あっちのほうがぜんぜんラクですね。
あの、もう、なんて言うのかな‥‥
「優等生より不良のほうがラク」
みたいなことってありますよね。
糸井 うん、うん。
西川 そういう意味では、
今回は優等生的なパッケージだったんで。
糸井 品質保証みたいなところがあって。
西川 そうそう。
糸井 いや、それはぼくらの仕事でも
やっぱり同じようなことがあるんです。
「いい子っぽい文字面」のところで
勝負を決めるときは、むずかしいですよねえ。
西川 そうですよねぇ‥‥。
糸井 あ、あれですよ、
「いい人」と言われながら生きていくのは
ほんとに大変だと思うっていうのは、
それって、もう、
鶴瓶さんそのものじゃないですか(笑)。
西川 ほんとだ(笑)。
糸井 鶴瓶さんですよ。
西川 そうですね(笑)。
そういうパッケージだったんですね、これ。

(つづきます)

2009-09-02-WED


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