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樹

 NINTENDO64ソフト
「ポケモンスナップ」
 制作した「ジャックアンドビーンズ」の
 開発秘話を満載してお届けしている、
 今回の「樹の上の秘密基地」です。

 


連載第4回は、空中分解の危機を乗り越えてスタッフが
結束していき、チームが完成への手応えを掴んだ
最終段階のお話と、見届けた宮本さんと岩田さんの胸中を、
同時にお伝えしていきます。


(第5回の4)
「 結果を出すことが大事だったんです。」


岩田聡さん:(以下岩田)
実はわたし、途中4回くらいかな、
「これをやってダメだったら、
いよいよプロジェクトをたたむしか
ないかな」って思ったことがあった
んですよ。

今までさまざまなソフトを開発してきたけど
「ほんとうにダメかもしれない」って
思ったことは、これまでほとんど
なかったんですが。

編集部:
どんなときにそう思われたのですか?

岩田:
チームのなかでも、非常に重要な
キーマンとなっていたメンバーが
途中で脱退してしまったり、
チームのメンバーの多くが
自分の分担の殻に閉じこもり、
ネガティヴ思考になって、
あまり手を動かさなくなってしまったり、
目標としていた期限が
間近に迫ってきているにもかかわらず、
いっこうに全体のペースが
上がらなかったり。
そういうときです。
これでこのチームは
空中分解してしまうのかと、
私自身も覚悟を決めたときが、
この3年半のあいだに
4回ほどあったということです。
自分としては、そのときそのときに、
自分が考え得るなかで
「もうこれしかない」っていう手を
打ってきて、
その結果がなんとかいい方向に、
その問題を解決に導く方に出て、
そのとき抱えていたものを打開することが
できたので、結果として、
今、ゴールに来ることが
出来たのですけれどもね。
まあ、よう、綱渡ったもんや!
という感じがしてますね。

ほとんど全員に言えることなんですが、
一度は開発意欲を失いそうになったり、
いろんな形で不健康な状態になったり
していましたから。
チームのなかで励ましあったり、
外のちからも借りて、何かしたり、ね。
そうやって、なんとかゴールまで。





宮本茂さん (以下宮本):
本当の苦労をしたと思うんですよ、
現場のひとたちは。
だから伸びるわけでね。


山本洋一 (やまもとよういち)
ディレクター

実際に、モノがぐっと良くなって
きたのは、去年の9、10、11月
くらいですか。
そこからちょっとずつ足りないものを
足していって、12月、1月にかけて
小さいものをたくさん詰め込んで
いったんです。
そこでやっと、文化的にも価値のある
商品、と呼べるクオリティーまで、
中身をひき上げることが出来たと
思います。

それまで「写真を撮る」ということを
遊びのテーマに選びつつも、
クリアできない問題があったんです。
写真って、撮るだけじゃなくて、
撮って、お店に持っていって、
プリントが返ってきて1サイクルの
楽しみ
、なんじゃないかと
思っていたんですね。
でも最初は、プリントアウトする
システムがなかった
んです。
あくまでもパッケージのなかに、
「こんな写真を撮ったよ」という
ものが記録されていくだけだった。
撮った写真を見せたかったら、
「うちに見に来てください」って
言うしかなかったんですよ。
それだと「プレイヤー間の中での
拡がり」に大きな壁が出来てしまう。
なんとかプリントできないかって
すごく考えていました。
そのシステムを作ってくれたのは、
ハル研の山梨のシステム開発課の
人たちです。
作り始めてから実質2ヶ月くらいで
実現にこぎつけてるんですよ

その後でローソンにお話を持って
いったときにも、
「いや、こういう話を我々のところに
持ってきてくださったのは、
とても嬉しいです。
嬉しいんですけど、この時期に
なってからはないでしょう」
なんてことを言われまして(笑)。
私たちも正直に
「我々の間で決まったのが
こないだなんですよ」とお話しして
わかっていただきましたけど。
プリントシステムが実現したことで、
さらに最後に、大どんでん返し、
逆転満塁ホームランが、生まれた
わけです。

知り合いの小学生にモニターを
してもらったことがあります。
私の子供の友だちのお兄ちゃんが
小学校5年生なんですけど、
その子に来てもらって、
ゲームをやってもらいました。
そのとき「やってみてどうだった?」
と感想を聞いたんです。
僕らは「ポケモンがたくさん撮れて
面白かった」っていうような答えを
予想してたんです。
でも、彼はこう言ったんです。
「カメラは、ふだんお父さんから
さわっちゃダメだと言われてるから
カメラをさわれた気持ちになって
うれしかったよ」って。
僕らもすごい嬉しかったですね。
「えらい!それだよ。」って。


岩田:
ほんとにチームが大変だったときに
中心となって支えた何人かのメンバーは、
ものすごく貴重な経験が出来て、
今後、大きく活躍できる力を
身に付けたのではないかと思いますよ。

竹嶋 章(たけしま あきら)
ディレクター

僕らが手応えを感じたのは、去年の
11月、子供たちにモニターをとった
とき。反響がよかったんですよ。
いい反応をしてくれたし、途中で
やめる子も1人しかいなかったし、
休憩時間のときまでやり続けていた
くらい

それを見ただけでも、かなり励みに
なって、これならいけると。
開発速度も急に上がりましたから。

宮本:
そうそう。
みんなね、結果的には
「自分自身、よくやった」と思えると
思いますよ。
それはすごく大事なことでね。
どこかから外人部隊がやってきて、
それまでのデータとか資料を
よそへ持っていって、よそで仕上げた、
っていうんじゃなくて、
結局は最後まで、自分たちの手で固めて
完成できたのでね。
かなり理想に近いかたちで終われたと
思うんですよ。
ぼくは、やっぱりどうあってもいいから
完成して欲しかったんですよ

荒削りでもいいから。
完成しないかもわからないという状態が
長かっただけにね。
僕からチームには、これといって何か、
具体的なサポートが出来たわけじゃ
ないんで、僕らに出来ることっていうのは
唯一、「完成する手応えというものを
見せてあげたい、味わわせてあげたい」と
いうことで、それ以外は出来ないんですよ

だから、ほんと、完成してほしかった。
「ほんとにみんな、よくがんばって
 くれたな」と思いました。


岩田:
宮本さんが「完成してほしかった」と
おっしゃるのは、よくわかります。
実は任天堂のソフトのなかにも、
日の目をみることの出来なかったソフトが
ないわけじゃないんですよね。
このソフトが、そのなかのひとつになって
しまっても、何ら不思議はない状況が
幾度となくあったわけですから。

ただ、このソフトが、
そうじゃない終わり方をすることだけが、
これに参画した人たちが
参画した時間を徒労に終わらせない、
唯一の手段でしょう。
いや、もちろん、ほんとの意味では
徒労にはならないんだけど。
それはその、ある経験値は得られた
わけだからね。
でも、同じ3年半を費やしても、
結果として完成させるかさせないかでは、
得られるものがまったく違うはずなんで。



宮本:
やっぱり、商品にして、売って、売れて、
売れることで癒される傷って、
あるじゃないですか。ね?

僕は、ゲームをプロデュースするときに、
自分でやってる部分に関して言えば、
けっこう厳しいことを言ったりってことが
あるんですよ。
でもね、結果として売って、それによって
みんなが満足してる、というのを
今までに何度も経験してるんです。
開発期間中はすごくいい人なんだけれども、
結果の出ない人、というのには、
僕はなりたくないんです。
開発中はいい人でなくても、
発売後「売る」ことに責任を持ちたいし、
その結果によって、皆が報われることが
大事です

ほんまにそうや、と思ってますよ。
「次、やれる」っていう原点も、
そこにあるんで。

町田武幸(まちだ たけゆき)
デザイナー

チームがいい方向に回り始めたのが、
ポケモンスナップになってしばらく
してからだったでしょうか。
みんなが同じ土俵に上がって、
どんなもんを作るか、ワイワイ
やりました。
ポケモンの配置だとか、ゲーム性に
関わってくる部分についても、
僕の担当していた地形デザインの
側から、ここに置きたい、という
提案をけっこうしましたし。
逆に、「ここにポケモンを置きたい
から、地形はそれに合ったデザインに
作り替えてくれ」と言われることも
あって、意味のあるやりとりが
ようやく出来ました。

ジャックのスタイルってこれかな、
と最後になって思いましたね

初めからこうだったらよかったなって
いう感じでした。

テクスチャーで見てほしいところは、
継ぎ目をなるべく見せないように
苦心したところです。

海と砂の継ぎ目とか、砂と線路の
継ぎ目とか。けっこう上手く
出来ていると思うんですが、
どうでしょうか。

スタッフ間の意思の疎通を円滑にする
ものとして、地形デザインのスケッチ
を何枚か描いています
ので、
それも、よかったら見てください。

スケッチ1

スケッチ2

スケッチ3

 

山本正宣 (やまもとまさのぶ)
デザイナー

例えばディズニーランドとかでも
そうなんだけど、ライドものに乗って
いるときに、次に何を見せるかって
いうのは、「コース設計」がすべて
なんですよね。
目立たない仕事なんだけど、
こう見せたり、ああ見せたりと
考えることが、やってていちばん
面白いんじゃないかな、と自分では
思った。
で、地形デザインをやり始めました。

見てほしいところは、ですかね。
「川」って、それまでの常識でいえば
半透明を使うものだったんですよ。
でも、画面の半分を占めている川に
半透明を使うと、処理がすごく重く
なるんですよ。あれこれ試して、
3ヵ月くらいは水ばっかりやって
ました。
ようやくできたのが海や川です。
海がいちばん気に入ってます

オーキド博士が点数をつけてくれる、
ということで、初めてゲームとして
成立しましたね。
あの要素が入った瞬間に、
がぜん面白くなりましたよね。
点数で評価されるとなると、逆に
「評価されなくても面白い写真」も
有りになるし、
「こういう写真もいいじゃん」って
いう発想が、生まれてきましたから。

いったん波に乗り始めた時からは、
シールプリントだとか、評価システム
だとか、TVコマーシャルだとか、
いろんなことがどんどん良いほうに
転がっていって。
いろんな人に助けられてると思ったし、
これもみんなで頑張ったからなのかなって
思いました。

岩田:
お客さんとキャッチボールしている
わけじゃないですか、開発者って。
「球を投げたんだけれど、誰もその球を
 投げ返してくれなかった。」
それって、読者のいない「ほぼ日」に
毎日の更新が続くわけないのと同じように、
僕らが球を投げたんだけれども、
誰も受けてくれなかったら、
誰も球を投げ返してはくれなかったら、
次へのエネルギーって出ませんからね。

だから、結果を出すことっていうのは
単に「経営が成り立つ」っていうこと
だけじゃなくて、それはもちろん
大切なことなんだけれども、
それだけじゃない、すごく大事なことが
あったんですよね。
公募制でひとを集めて、集まったけれど
なかなかひとつにまとまらなくて、
そのうえ作ってるものは新しいことへの
チャレンジで、ということから、
とても時間がかかってしまった。
時間がかかるほど、いろんな問題が
こじれてしまいますからね。
でも、それを癒す唯一の方法が、
ものが完成し、結果が出ることだ、と
信じてやってきたんです。

昨日、まさに昨日なんですが、
「ロム出し」したんですよ。
(編集部註:インタビューが行なわれる前日)
デバッグ完了して、ロム出しして、
今から工場に入れて生産に入りますよ、
っていうときに、
スタッフの頭のなかで、経験値が入る音が
「チャリンチャリン」って聞こえた

という話を聞きまして。
「あ、これが、ソフトを完成させるという
 ことなのだ、と実感できました」って
彼らは私に言ったんです。
しかもそれが、「新しい遊び」づくりに
チャレンジして、途中で投げ出さずに
最後までがんばって、そして成し遂げられた
結果である、ということに、
彼らが得たものの価値があるんだと、
私は思ってるんですよ。

 

画面スナップ

川瀬シゲゾー(かわせしげぞー)
デザイナー

キャラクターがポケモンに変わったときが
このゲームの大きな転換のときでした。
それまで僕は、「写真を撮るだけじゃ
駆け引きがないよな」
と思っていた。
僕は「駆け引き」が存在しなければ
ゲームとして成り立たない、と
考えてる人間なんで、
その成り立たないアイディアを
持ってこられると、
とまどってしまうんですよね。

宮本さんの作るゲームだって、
確かに原っぱを走り回ってるだけで
楽しいっていう感覚はあるけれど、
絶対にそれだけじゃないでしょう。
それだけでは終わらせない、という
ところがいいじゃないですか。

じゃあ、何で写真を撮るのか?って
いったら、これを撮りたい、と
思わせるものがあるからなんで、
だったら、黙っててもみんなに
「写真を撮りたい」と思わせるもの、
それが「ポケモン」という
キャラクターだったんです。

これなら駆け引きがうまく作れるん
じゃないか、って思えた。
ポケモンが企画の手助けになるんじゃ
ないか、と。

関森一紀(せきもりかずき)
プログラマー

僕が入った後からちょうどゴールが
見えてきたかな、という段階では
あったんです。
僕は、客観的にものを見るのが
へたくそなんですが、ひょっとしたら
いちばん客観的にこのチームのことを
見られたかもしれない。
でもね、ほんとは僕が来なくても
ぜんぜん大丈夫だった(笑)。

篠原さん 
プログラマー

私も助っ人でこのチームに来ました。
「オーキド博士の研究所」の画面構成など
を担当しました。
コースを選んだり、ゲーム上の
ある条件を満たしたときに
「アイテムをもらったよ」という
メッセージを出したり、
新しいコースを開いたり、ゲーム
全体の分岐点のような部分ですね。

全面的な作り直しということが
途中に何回もありましたんで、
大変は大変だったんですけど、
ゲーム作りってそんなものだし、
それでもっと良くなるのなら、
これは作るしかないな、と。



3年半の歳月をかけて完成した「ポケモンスナップ」、
開発の最後まであきらめずに粘り続けたスタッフたちには、
大きな拍手を送りたいと思います。
次回はいよいよ 「宮本・岩田」対談にダーリン糸井も
加わっての、 夢の座談会をお届けします。
ものをつくるとは何か? お見逃しなく!


1999-6-8-TUE


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