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03 (第24回の3)
宮本茂と糸井重里「ピクミンをめぐる対談」その3
ピクミンは生きているのだから。
 
 
darlingと、任天堂の宮本茂さんの対談の第三回目です。
宮本茂さんがピクミンを作るにあたって
スタッフに課した「制約」とは?
制作現場のことを、darlingが詳しく訊いてきましたよ!

 
 
糸井:
ピクミンの話を聞いていて、ぼくが去年つくった
ディズニーDVDプレイヤーのことを思い出しました。
ミッキーの形をしたリモコンのついた、
「かんたんかわいい」というコンセプトのものなんですが
これ、最初、誰も売れないと言ったんです。
大きな小売店が、10台ずつしか仕入れないと言うほどに。
ところがモックアップ(実物大模型)ができて、
それを見せて営業してくうちに、
注文が増えていきました。
さらに日産自動車がプレミアムとして使ってくれた。
この話、ピクミンと一緒だなと思ったんです。
最初に、絶対にいいに決まっている、
というものを作ると、
周りの人はまず反対する。
そして、成功したあとに、
何もかかわっていなかった人たちが
「これは私が作らせました」
と言いだしたりするんです(笑)。

 
宮本:
(笑)そういうのは多いほうがいいんですよ。
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糸井:
アメリカ人が、
「日本を実験市場にして、私がやらせた」って(笑)。
最終的にどうなるかわからないけれど、
僕はそれがゲームだと思ってるんです。
コントローラーを動かさずに、
体当たりで動いていったほうが、
ゲームとしてはフクザツですよね。
そんなふうに宮本さんも
ピクミンをつくっていたわけですね。
「閉じていないゲーム」というのかな、
まあ、30日という時間は、
閉じているといえば閉じているんだけれど、
そこから先の「人間を動かす」ことを考ているかぎり、
閉じていないということなんですよ。

 
宮本:
ええ。
糸井:
「いいものをつくったら、売れる」
というけれども、いいものを作ったときに、
じかにコンシューマーや、
隣のおねえちゃんの気持ちはわかっても、
間に入っている問屋さんがどう動くのかとか
いろんな人がいいとか悪いとか言っているとか
そういうことを総合して「売れる」という現象が起こる。
ほかの人たちは何を考えているのか、
っていうのをまとめる「総合力」が必要なんです。

 
宮本:
でもね、プレビューで、雑誌社に集まってもらったとき
ゲーム評価の点数が厳しいんですね。
育ったときに勇気をもって「俺は10点つけたよ」
って言うチャンスなのに、
マスコミがもっと動かなあかんよね(笑)。
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糸井:
宮本さん、そこは僕の方が大人です(笑)。
息とめて10点つけるやつがいると
かえってめんどくさくなるんです。
何年か後に、ピクミンが違う市場を広げていたら、
「俺だけなんだよ、最初に10点をつけたのは」
って、そのとき10点なんかつけなかった人が
みんな、言いますよ。
だからね、そこは、最初からは、ムリなんです。
血盟団じゃないんだから(笑)。

 
宮本:
なるほど、そうですね。

 
糸井:
宮崎さんが「千と千尋」の初号が上がったとき
はじめて「できた」と思ったっていう話があります。
いままでの作品はその段階でも自信がなかったけれど、
今回はじめて、初号が上がった段階で自信がついた、
と言うんです。
宮本さんの「ピクミン」にも
それに近いような匂いを感じるんですが。
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宮本:
これ、作り方が、珍しかったんです。
作っている途中で仕様書を変える、
ということは、よくあることなんですけれど、
いつもはできあがってくるまでわからないものなのに、
ピクミンは、仕様書ができあがってきて、
その内容をいくつか
プログラム組んだ段階で、
──その期間が二ヶ月くらいなんですけれど──
そこでけっこう「できた!」と思ったんです。
ゼルダとかは全く逆で、
「どうも、できてるはずなんやけど」ってやってきた。
ところがピクミンは、
大きく外れないという確信があったんです。
その段階では、すごく良くなるかどうかはわからないですよ。
ただ、「心に直接響く」ものが多いので、
まとまりが悪かったらそれはバランスが悪いだけや、
なんとかなるやろう、って。
30日で星を脱出する、とかっていうのは
ほんとうにテクニックの部分で、
そうじゃなくてもいいんですが、
そのほうが作りやすかろう、
というような作り方をしてきたんです。

 
糸井:
一日のリアル時間の長さを決めるとか、ね。
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宮本:
それも後で調整すればいい。
「できるな」と思ったのは、こういう瞬間でした。
ピクミンを投げますよね? これは、
投げたピクミンが敵にダメージを与えたり、
そのまま当たって下に落ちる、というのでは、
「ただの弾」なんですね。たしかに、
仕様としては「ピクミンを投げたら敵を攻撃する」
という一言で済むんですけれど、
そのままだと、これが、
どう見てもピクミンに見えへん、
というのが僕にすごくあったんです。ただの弾。
生きものなんだから、やっぱり
「投げつけられた、おまえ、食いつくだろう?」
というので、仕様を変えたんです。
プログラム的にはたいへんなんですよ、
背中に食いつく、というのは。
今までのゲームではやってないことです。
「ヒット」に、へばりつくという処理はないんです。
だからそれをつくった。それから、
敵がピクミンを倒す、というのでも、
それは「食う」わけやから、
「ばくばくと口で食う」というのをつくった。
ところがバグがでて、口の周りにひっかかったまま
ずっと歩いていたりする。
それを見たときに「これはいける、とにかく」
と思ったんです。
つまり、ピクミンをどう見せるか、を
もっともっと作り込んでいけば、大丈夫だ、と思ったんです。
ゲームはあとから考えるから、というところに
絞り込んだところで、けっこう、
なんとかなるかな、と思ったんです。
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糸井:
そうか、「弾」の扱いに、
いったん、仕様的には、なってるわけだ。

 
宮本:
なるんです。どうしても。
最初はけっこう、崇高なことを考えていたんですけれど。
ディレクターは
「アダムとイブという生物がいて、
 それは豆からできた生物で
 それが暮らしていく営みを
 ずっと観察していくゲームをつくりたい」と。
それはええよね、って、作り始めたら、
やってるうちにどんどん俗っぽくなっていって、
何が作りたかったのかわからなくなって(笑)。
最初はゲームシステムじゃなくてコンセプトなんですね。
それが面白い保証はないんですよ。
焦ってくるとどんどん「ゲーム」にしようとする。
ゲームにしようとすればするほど
意味のないものを付け足すようになっていく。
悪循環を繰り返していて。
そのなかで、けっこう、突破口になったんです。
糸井:
動きをオーバーにする効果が
アタマのてっぺんの植物で
すごくうまくできましたよね。
食いつくだとかなんとかを
ちっちゃいまま表現するんじゃなくて
上に葉っぱやつぼみや花がついてることで
オーバーアクションというか
表現が、すごくラクになりましたよね。
あのへんを、宮本さん、
マリオのときから人に感心されていたけれど
ちっちゃいキャラを食いつかせる、
目を引きつける、というのは、
宮本さんの歴史と伝統だよな、と思います。
いままで練習してきたものが
ぜんぶこの中に入っていて。
……そうか、「敵にくっつく」のは
俺達、当たり前のように見ていたけれど
じつは異様なことだね。
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宮本:
プログラム的にはけっこう
たいへんなことをしているんですよ。
「みんなで持つ」とかね。
最初から「みんなで持つ」ようになんて
プログラマに言ったら
「できない!」って言われるのわかっていたから
最初、円いドロップをつくってもらったんです。
それを持てるようにした。
「これが持てるようになったんだから
 このような形のものなら持てるよね?」
っていうふうに、現場を進めたんです。
そういう意味では
既成概念を除くのが大変だった。
いちばん大変やったのが
「ゲーム業界用語を使うな!」ということなんですが(笑)。

 
糸井:
ええっ!?(笑) いいねえ……!
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宮本:
その制限をかけると、
自分自身で仕様書を書いていても、
可笑しくなるくらいですよ。
自分が「敵を倒す」って書いてしまうんですよね。
人の仕様書にダメ出ししながら
ゲーム業界用語には便利な言葉がいっぱいあるのに気づく。
「この言葉しかないよなあ」というものが。
けど、その便利な言葉に、
あまりにみんながはまっているのを
なんとかしたかったんです。
また、これがゲーム業界の特殊なところで
少し「俺達はゲームなんかしてるダメなやつ」
なんていうコンプレックスがあるんですね。
プログラムや技術の人たちは
学歴が高くて勉強ができる。
私のようにデザインの人間は、美大行ってても、
勉強できなかったから、なんていう
コンプレックスがあるので
つい、えらい言葉を使うんですよ。
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糸井:
暴走族が漢字を使う、っていうように(笑)?

 
宮本:
日本語としてこんな言葉使わないだろう?
というものが、ゲーム業界に蔓延していて。
プログラマのなかでは
ランダムを使ったり、計算式があったりするから
専門用語を使うこともあるんですけれど
文章を書いたり、絵を描いたりしている人間が
「ランダムに物が発生する」なんて言わないでしょう?
ところがゲームの仕様書にはそういう言葉が
いっぱい使われている。
それを添削していって。
「外せ、こういう言葉を!」って。
敵とか味方とかいう言葉、
戦う、という言葉、そういうものを
使わずにゲームを作ろう。
ピクミンは「暮らしている」わけだから。
それを徹底しようとしたんですよ。
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次回に続きまーす!
2002-04-19
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