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02 (第24回の2)
宮本茂と糸井重里「ピクミンをめぐる対談」その2
みんなが「あれはオレがつくったんだ」というものを。
 
ちょこっと間があいてしまって、ごめんなさい!
「樹の上の秘密基地」ピクミンのシリーズ第2回は
darlingと、任天堂の宮本茂さんの対談の続きを
お届けいたしますよ!
これまで「マリオ」シリーズや「ゼルダ」シリーズを
つくってきた宮本さんが、
どうしてあえて無名のものを作ろうと思ったのか。
ゲームの目的っていったいなんなんだろう?
そういったお話が、続いています。

 
 
糸井:
僕が、最後にそこに行きたいって思っているのが
「人が住む、生きる、を設計する」
ということなんです。
ちょっとおおげさに聞こえるかもしれないんですが。
そういうことを考えるのって、
歳をとったせいもあるのかな。

 
宮本:
歳をとったから、というのとは違う気がしますよ(笑)。

 
糸井:
そうか。たしかに、
子供のときからそうだったかもしれません。
宮本さんにとって、ピクミンの世界観って、
大人になってから発見したものでしたか?
それとも、子供の頃から
宮本さんの中にあったものなんでしょうか?
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宮本:
子供を自分が育てたとか、
動物を飼うとか、部下との人間関係とかは、
たしかに大人になってからの経験が関係しているけれど、
僕の根底にあるものだ、とも言えるでしょうね。
基本的には、わりと子供のころやっていたことを
論理的に考えれば、とか、
もっと面白くするには何があったかって考えると、
こういうものになったんだろう、と思うんです。
大人になったから考えることができたんだな、
と思うことは……
「スタッフの能力を有効に活かすには
 どうしたらいいんだろう?」
ということですね。

 
糸井:
ああ、おんなじです!

 
宮本:
すごく考えるんですよ、そのことを。
みんなが「おれがつくったんだ」って思ってくれるのが
理想なんですよ。
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糸井:
そのこと、この間、書いたばかりなんですよ。
あの仕事は僕がやったんだって
あちこちでホラをふいているのが理想ですよね。
そういえば、歌(愛のうた)、ヒットしましたね。

 
宮本:
「歌」という方法を引き出せたことが凄かったですね。
偉いと思うんです。
ぼくは、これにかんしては
ピクミンというソフトをつくった、というだけで
別に作曲したわけじゃない。
だから、僕じゃないところで、
こういうふうに関係者が動いた、ってことが
面白い、凄い、と思っているんです。
彼らが、「自分のものだ」と思って
作ってくれたわけですから。
ゲームをつくっている最中も、
そういう(スタッフが、自分の作品と
して作っていくプライドを持つ)進め方を
心がけていますよ。
なかなかそこまでケアするのは難しいですけれどね。
糸井:
ビジネスだけで世界を見ているひとたちは
「これができる、あれができる」ということを
すべて、商品として成り立たせることができる、
と思っていますよね。
でも、そこに意味はないと思うんです。
そこをやりたいのだったら
そこまでは行くだろうけれど、
そこまでしか行かない、とも言えますよね。
消費のやりとりではなくて、情報の流通だとか、
人間関係がかわっていくだとか、
新しい人に知りあう、新しい出来事に出会う、
なんていうのは「商品化」できるわけではないですよね。
でもそっちが広がらないと「商品」は作れません。

宮本:
ええ。

糸井:
この大きな流れで言うと、ゲーム作家は、
最終的には金で買えない人間っていう人たちを
“ゲーム”したくなるんです。
そう言うとナマイキに聞こえるんだけれど、
ゲーム作家は、
みんながそう思っているんですよ。
僕らが『売れたら嬉しい』っていう気持ちって
売れて幾らになるかということ以上に、
それだけの人がワサワサした、
ということが嬉しいわけでしょう?
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宮本:
そうですね。

 
糸井:
その人数がワサワサするというのが
ゲームの目的なんですよね。
最初から、きっと。

 
宮本:
マーチャンダイジング、ということに関して、
もしイヤなことがおこるとしたら、
そこには何でものせられる、
という考え方が根底にある場合ですね。

 
糸井:
皿が有れば料理がのせられる。

 
宮本:
そう、そこに「のせてもらえる」という考え。
それがすごくイヤでね。
何もしなくても買いに来るのが理想や! と
思いたいですよね。
けれどそれはオトナじゃないよ、って言われますよね。
だから、それは皿にのっているけれど、
それじたいも皿にのっていることで生きている、
と思える展開を考えるし、そういう展開になるものです。
ゲームのなかでも、
「わざとらしいアイデア」と
「溶け込んだアイデア」の差って
そういうものだと思うんですよ。
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糸井:
なんでそんなことがやりたいのかわからないけれど
ちっちゃいときからそうですよね。
歳をとったからそのことの意味がわかったんだろうね。
たとえば宮崎さんがジブリ美術館を造りましたね。
あれだって、大きく言えば
都市計画」ですよね。すごく小さなものですけれど。
あれはビジネスとしてなりたたたないかもしれないと
いうところで、宮崎さん、やっている。
何がしたかったかっていうと、
小さなディズニーランドですよね。
ディズニーがなぜディズニーランドを作ったのかといえば、
アニメを動かしているうちに
人を生み出したくなったわけですよね。
日経から出ている文庫本で、
ディズニーランドの歴史の本があるんですが
彼ら、ずーっと失敗スレスレのことしか
やっていないんですよ。
いつ潰れてもおかしくないのが、
ギリギリで運良く動いているんです。
……“ツキ”ですよ。
宮本さんだって、ピクミンが失敗する可能性だって
ないはずがないですよね。

 
 
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宮本:
うん、もう、最初からそう言われましたよ。
けっこういけてるなと思っても
「無名のものですからね」と言われるしね。

 
糸井:
ああ、「無名」!
マリオなんかに比べると、
キャラクターをゼロからつくるということは
それだけでリスキーだという考えがあるんですね。

 
宮本:
たいへんですよね、とか、
悪くはないんですけどね、とか、
パソコンゲームに見えますからねえ、とか……
そういうことを言われ続けました。

糸井:
それは、ゲームの業界のなかでピクミンを見せたら
そういう反応があったということですよね。
任天堂や、宮本さんは、たしかに
そういうところで逆風を感じているんですよね。
でも、僕もそうだけれど宮本さんもきっと、
風をふかそうとしていないひとたちのほうに、
つねに興味あるんですよ。
ゲーマーのひとに
「パソゲーみたいですね」と言われるのは
ぜんぜんかまわないんだけれど……

 
宮本:
ふだんゲームするひとも大事だけど、
ふだんはゲームをやらないひとたちに
ピクミンに興味を持ってもらうというのが大事だったんです。
話題になるものって、はじめは無名で出てくるんです。
これ、わかってもらいにくいことかもしれませんが
逆に、出る前から成功を約束されているものを
預かるほうがしんどいことなんですよ。
だから、無名のものを出すのはけっこう快適なんですよ。
CMで音楽が流れて人気が出たけれど
「CDは売れてるのにね」なんて……
 
 
 
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糸井:
言われるでしょうね。

 
宮本:
もっと言ってくれ、って(笑)。
それが話題になって広がれば、って。(※註)


糸井:
今回、いちばん大きな荷物になっていることって
ハード(ゲームキューブ)を買ってもらうことですよね。
そこを通過しないと、CDからゲームへは
一気に行かないので、そこは重いに決まっているわけですよね。

 
宮本:
僕はピクミンを一年くらい売りつづけたいと
思っているんですよ。
みんなもそう思っているけれど、
そういう商品でも、
経営者さえあきらめるという御時世ですから、
せめて、クリエイターくらい
「僕は本気だぞ」ってやっていても
いいんじゃないかなと思っているんです。

 
糸井:
そうすると、もうすこしすると
流通とか営業について見直すことを
宮本さんがしたくなるかもしれないね。
ここを触ると、いままでゲームキューブをさわったことの
ない人に渡せるぞ、という道が
ひょっとして見つかるかもしれないですからね。





※註 このインタビューは
2001年12月に行われたものです。
その後「ピクミン」は
大きな話題になりました。


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まだまだ、続きますよ。
お楽しみに!
2002-03-16
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