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『MOTHER 3』の開発が中止になったことについての
糸井重里・岩田聡・宮本茂の座談会 その12

 
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糸井:
宮本さんが『ムジュラ』を作ったときの
決断っていうのは、
僕はインタビューでしか読んでないんだけど、
ああいうことって、
経験があって、はじめてできることなんだな、って
僕は読んでてジンときました。
あの、「材料は前からあったしさ、
これを3日間の冒険にしよう」
って、冒険には違いないけど、
そこんところにまで、
一気に持っていけるっていうのは、
経験があって、はじめて実体があるって
感じがしましたね。
やっぱり、僕らは、それからすると
経験が少なかった。
 
岩田:
いや、だから、宮本さんは読める冒険をしてて
我々は本当の冒険をしてしまった(笑)。

 
糸井:
読めない(笑)。
 
宮本:
私のテーマは「労働時間が増えているから、
労働を減らそう」ですから。

 
岩田:
たしかにね、ファミコンの創世記って
1本を2ヶ月くらいでつくっていて
1年に何回も商品の完成を経験できていたのに、
マザーをやっていた人間の中には、
入社後4年も経っているのに、
1回も完成を経験してない、
なんて人がいたんですね。
本当にその当人には申し訳ないと思っているんですが、
この差ってものすごく大きくて、
深刻なんですよ。
完成して初めてお客さんと
キャッチボールなんですよ。
だから、「労働を減らす」って
すっごい重要なテーマなんですよね。

 
糸井:
やっぱり、本当だったら、
この対談をヒントにして、
次を垣間見れるようだったらうれしいですよね。
一つは、僕は、楽しみにしてる人が
ものすごいいるっていうのを知っているんで、
その人たちには「すみません」と。
要するに、あなたが作る立場になったときに
同じような苦しみを味わうでしょう、けれども、
すみません、としか言いようがないです。
これからの時代って
みんなが何かの送り手になってますから、
そういう人たちが同時に受け手として作品に触れることが
多くなりますよね。
あの僕は、これよく例で使うんですけど、
ラーメン屋では、ラーメン屋の親父が
ラーメンというメディアの送り手に
なってますよね。
でも、その親父さんが電気屋に行って
冷蔵庫を買うときは受け手になってますよね。
受け手と送り手を
行ったり来たりする人ばかりになってますから、
ゆるいものもオッケーだし、
未完成のものもオッケーだし、
すごく研ぎ澄まされたものでも
わかる人にはわかるだろうし、
私は純粋に消費者なんですけどー、っていう人は
いなくなるんですよ。
で、ゲームって構造からいうと、
年が若くてほんとに消費者なんです、って人と
作り手に近い人たちで支えられているんですよね。
その意味で、ここでの喋ってること自体、
それすらが面白いっていう人が出てくるのが
「いま」なわけですよ。皮肉なことにね。
できなかった話をもっとしてくれ、みたいな。
だから、そこでは、一つは謝るし、
もう一つはこういうことはあり得るんだ、
ってことで、いずこも同じ問題を抱えているぞ、と。
要するに、生産する現場の
時間と費用のコストが膨大になっていく図の中で
大勢の組織を動かしていって、
世の中に問い掛けていくことの
苦しみみたいなものは
失敗あるよ、挫折あるよ、って話は
正直、わかってくれる人には面白いだろうなあ。
こういうと開き直ってると思われちゃうかな。
それは困るなぁ。
謝るのが前提なんですけどね。
 
宮本:
ずーっと謝るかどうするか、
謝らずにどうにかするか、っていうのが
この1年だったのね。
まあ、やっぱり対外的にはそれ見せられないんでね。
出るって信じてやってきたんでね。
うちの子が、先週、お盆休みに入って、
「お父さん、『MOTHER 3』出るの?」
って言われたんですよ。
「何で?」
って聞いたら、
「いや、出ないんだったら、
 別のものを買おうかと思って」
って言うんですよ。

 
糸井:
うちの子って宮本さんちの子?
 
宮本:
うん、うちの子。

 
糸井:
うわーーーーっ。
謝って!
 
宮本:
「マリオテニスでも買うかなあ」
とか言ってたけど、
まだ出ないことは言えないんで、
「『MOTHER 3』は出るやろうねえ」
って(笑)。
『MOTHER 2』を小学校の3年か4年頃に
やってるんですよね。

 
岩田:
思い出になってるんですよね。

 
糸井:
いやあ、そういう思い出になるゲームを
作りたいんですよね。
作家の川上弘美さんって人は
80回やったって言うんですよ。
で、その人の文章が
ものすごく好きで、
その人に会ったときにそう言われて、
ほんとにうれしかったし、
そんときはまだ中止が決まってない状態だったんで
「がんばります」って言ったんだけど。
 
宮本:
だから、今度の展示会に来た人だけで
遊べるようにしようか、とかね考えたんだけど、
「いや、無理です」って言われたんで……。

 
糸井:
無理ですよね。
頭のところだけ、やられても……
 
岩田:
そりゃ、ある部分はわかってもらえますけど、
糸井さんのメッセージっていうか
やりたかったことは伝わらないですから。

 
宮本:
完成が苦しくなると、
切るか、絞るかするというのは
一般的な手法ではあるんですけどね。
だから、12章のところを9章にするって
ところまでは、がんばったんですけどね。

 
岩田:
7章です。
もちろん7章って言っても、
実質は9章なんですけどね。
呼び名の数字が少なくなると、
みんなが元気が出るか、っていうアイディアで、
7章って呼んでいたんですよ。

 
宮本:
使った人、月日を考えて、
「人月(にんげつ)」という言い方をするならば、
いままでどのくらいの人月の仕事が
詰まってますかね、現状で。

 
岩田:
何度も、何度も
仕切りなおしがありましたし
それで捨てちゃったものが多いんで、
数字にしにくいんですけれど……

 
宮本:
3年間以上、
ずっと絵を描いててくれたみたいな人が
いるんですよね。
プログラムって不公平ですよね。
だって、ゲームにならなければ
プログラムってなんの意味もないもので、
でも、サウンドとか絵っていうのは
それだけで価値がありますから。
プログラムは損ですね。

 
岩田:
決して損だとは思っていませんよ。
それがゲームに命を注ぎ込んでいるんですから。
ゲームをゲームとして成立させているんですから。

 
宮本:
もし、もう一回やるなら仕切りなおしですよね。

 
糸井:
いや、これからやるにしても
そういう大作をやるつもりは全然ありませんから。
小作をやります。
 
宮本:
それでも、大変な仕事を抱えることになりますよ。

 
糸井:
宮本さんにお聞きしたいんですけど、
これからのゲームソフト作りって
『MOTHER 3』のように
大人数で時間をかけて作るようなチーム以外の
チームってできているんですか。
 
宮本:
できてますよ。
できていかないとダメですよね。

 
岩田:
全部が大人数で大規模になっていって、
いいものをつくるのには、時間がかかりますよ、
っていうのが変な常識になっちゃったんですよ。
ゲームって、すごいアイディアで、
ちっちゃい物でも、
すごく面白いものが作れるってところが
原点だったはずなのに、
それがどっかいっちゃって、
大変なことが当たり前で、
人数と時間をかけることが
競争にすらなっちゃいましたよね。
それをたぶん任天堂自身が
否定してみせないといけない、とさえ
言えますよね。

 
宮本:
またねえ、10人くらいで作れるんですよ。
全然、『ゼルダの伝説』とか言わなければ。
『鉄拳』だって登場キャラクターを
20人以上も作るから、たいへんなわけで、
5人くらいにしておけばいいんですよ。
あそこらへんも10人かからないと思うんですよ。
けっこうそういう商品も、あると思う。
で、「おっと驚く」ものをつくるのに
何人くらい必要かと言えば、
「おっと驚く」くらいなら3人くらいでいいわけで。
あと、いまは(ゲーム機が)
家庭の据え置き型である意味がどれだけあるか、
ってことで、
据え置き型で作っても、
ハンディーに対応できるようにしたらいいし。
でも、(ハンディーにしてしまうと)
据え置き型でチャチなものを
作ることになってしまうかもわからないけど(笑)。
それくらいシンプルな構造のものの方が
いろんなことに対応できますね。

 
糸井:
それでは、最後に一言ずつ言ってもらって
まとめましょうか。
 
岩田:
ほんとに、待ってていただいた方々には
ほんとに申し訳ないんですけれども、
これが、「機を逃す」ってことなのかなと
すごく思っています。
なので、「機を逃す」ってことの辛さや
いろんな人にかけてしまった迷惑を思い、
今後、二度とこういうことを
起こさないようにしたいです。

 
宮本:
ほんとうに申し訳ないと思ってます。
僕自身も最後まで遊びたかったので、
残念です。
ほんとに惜しいところまできたのに、
ダメになってしまったっていうのは
ほんとに悔しいんですけれども、
いつも言っているように、
やっぱり現場で働いている人のエネルギーって
総量は決まってますから、
で、それをどこに向けるべきか、っていうのが
僕らの判断で、
今回はやっぱりそのエネルギーを
次に向けていこうってことで、
それは、任天堂にとってそれがすごい意義がある
ってことだけではなくて、
やっぱり、次にそのエネルギーが
向けられたものを届けますんで、
それが『MOTHER 3』の代わりになるか
どうかはわかりませんが、
それに期待してもらうしかないし、
そういうふうにおおらかに見てやってください。

 
糸井:
僕は、これがおそらく、
個人がどこまでできるかっていうことの、
職人仕事における最後の失敗だと思ってるんです。
今回はシナリオ担当として、
職人としてやっていたわけだけど、
おっきい人数とか、
おっきいお金を動かすことについての
訓練ができてない人がやる、
最後の失敗だったって気がする。
がっかりしたのは、自分も含めてだし、
やっぱりこれから作っていくものっていうのが
一人一人の力を発揮しながら、
大勢の力を集めていくような、そのへんの技術を
僕自身がもっと磨いていかないとダメだと思います。
これをほんと、失敗の教訓として
いろんなことをやっていきます。
申し訳ないからといって、しゅんとしていても
しょうがないんで、「ほぼ日」にしても、
その他のことにしても、死ぬほど遊びます。
いまは、こんなふうにしか言えなくて、
これも口惜しいんですけど、すみません。
なんか、もう半年くらい経ってから、
もっと悲しい気分になりそうですね。

長い時間、たくさんの文字を読んでくださって、
ほんとうにありがとうございました。


(おわり)


 
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