Sponsored by Nintendo.

 

イメージ

イメージ 「糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!」
 〜釣りに行こう〜

 制作スタッフ座談会 その3
 魚を口説く、そのテクニックが勝負。
 ルアーが大事なのは、そういうわけなんだ。
 
 
『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!』
制作スタッフであるダイスの皆さんと、
「釣り監修」の倉恒さんをまじえての座談会、
いよいよゲームの核心の「ルアー問題」について。
なぜ、釣りゲームには「ルアー」が大事なのか、
この座談会を読めばバッチリわかりますよ!
 
●参加者●●●●●●●
 
●倉恒良彰さん
前作から引き続き、『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!』のアドバイザー。
関西在住。「釣り監修屋でございます」。実際のバス釣りと、ゲームとの差を
埋めていくのが仕事。「そう簡単にはOK出さへんでー」

 
●小関昭彦さん
株式会社ダイスの社長であり、プロデューサー。「苦情処理と、問題解決を
担当しております。毎日心臓を強打されるような問題と取り組んでおります!」
と元気に語る。

 
●サイトウ・アキヒロさん
株式会社ダイスの共同代表であり、ディレクター。
『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!』全体のディレクションを担当。
倉恒さんからの要望をクールに理知的に処理する二枚目。

 
●アベキ正博さん
株式会社ダイスのCGデザイナー。当時ダイス唯一の釣り人だった。
サブウインドウの魚はこの方の担当。
「あべ」は「木へんに、青」という、パソコンでは出ない字。

 
●村野嘉泰さん
株式会社ダイスのグラフィックデザイナー。
「地面、地形などのフィールド・デザインを担当しました」

 
●川原田祐司さん
株式会社ダイスのデザイナー。「サブウインドウ、タックルボックス、
3Dエフェクト、しぶき、ルアーのアニメーションなどを担当してます」

 
●能登谷哲也さん
株式会社ハル研究所所属。制作進行および、パッケージやマニュアルなども担当。
「倉恒さんと、ダイスの皆さんとの間に入るのが仕事です。ふうふう」

 
●武久豊さん
任天堂株式会社企画部の、プロダクトマネージャ。プロモーション担当。
いまも、全国を駆け回る多忙な旅人。

 
●糸井重里さん
『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!』の、ゲームプロデューサー。
 

 
イメージ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
倉恒:
このゲームの開発をスタートするときに、糸井さんが
言ったことがふたつあるんです。
「釣りに行けない時にこのゲームで釣りをして、
 満足できるものにしよう」
ということと、もうひとつは、
「現実の釣りというのは、プロがしのぎを削っている
 世界もあり、いっぽうでのんびり釣りをしている
 サンデー・アングラーズまでいる。
 プロを満足させることは根本的に釣りの世界が違うから
 難しいけど、個人のレベル差を超えてバス釣りに興味のある
 人達を凌駕して、気持ちいいものにしよう」
ということ。
要は、釣りをする人が満足すること、ってことですから、
釣りの心得がある人でも、これからやる人でも、
それがなにかの助けになるゲーム。
つまり「ほんもの」ってことですね。
そのふたつを現実にするためには、
僕は鬼コーチにならざるをえなかった。

 
──ルアーや魚が水中でどう動いているかということは、
釣りをやっている人でも見ることは出来ません。
それを知ることが出来る、というのはすごいことですよね。

 
倉恒:
ラバージグの話が出ましたけれど、
よく釣り雑誌で「ボトムバンピング」って、ラバージグが
どう動いているのかを解説するイラストがあるでしょう。
でも、そのイラストだけではわからへん、ポンっと落ちた
あと、フレアが浮力でフワっと広がってきたときに、
イラストみたいに水中にとどまっていないわけで。
水中っていうのは水の動きがある。

 
──そうですね。
 
イメージ
「ホンマの釣りっ
ちゅうもんはな……」と
厳しい倉恒さん。
倉恒:
釣りっていうのはみんなルアーにアクションを
つけたがるんですよ。一所懸命、動かそうとする。
動かそうとすることがルアーフィッシングだ、
と思っている人も多い。
けど、じつは、止めることが重要なんです。
それを忘れているんですよ。
現実にいまの琵琶湖がそうやけど、人為的プレッシャー
などのいろんな要素で釣りにくくなっている湖って、
かえってなんにもせえへんほうが、釣れたりするんですよ。
投げたあとね、ワームが沈みますやん。
水中に藻があるとします。そこに乗る。
すると、みんなすぐに動かそうとする。
でも、なんもせんと、……難しいんですよ、
なんもしないって。ボートで釣ってると、
ボート、動くじゃないですか。それを一定の場所に
いるように操船しながら、ずっと同じ意図のハリ方で
待っていることってすごく難しいんですけれど、
そこでジッと我慢して、なにもせえへんかったら、
周りの人は釣れてないのに、
バンバン釣れてたりするんです。
そんときルアーがどうか、といったら、動いてるんです。
でも、みんな、頭の中では止まってると思う。
その感覚も、ソフトの中で再現したかったので、
現にうちのゲームは、ストレートワームなんかでも、
止まっていても水流を感じて動いてます。
魚に対して、アピールしてる。
そこまでやろうよ、と。
僕もそれは何度もボートから落っこちて、ドボーンって
湖にはまって、はまったときに水中を観察してるんです。

 
一同:
(笑)

 
糸井:
それホント!?
 
イメージ
このカエルさんの表情で
今の状況がわかるのだ。
倉恒:
ホントですって。あったんですよ、しょっちゅう。
はまったら、下から上見るんですよ。
ボートってこんなふうに見えてるのか、とか、
観察してるんや。
はまってることを、同乗者がわからんこともあるんですね。
スポン、とはまったときはね、音があんまりしない。
そうしたら後ろのやつが釣りしてるラインが見えてね。
そういうバカなことを経験しているんです(笑)。
でね、水中の様子って、人間のイメージ通りではない、
ってことがわかるわけですよ。
そういうことも入れておきたかった。
そこまでやる、ってことが重要だと思った。
だから最後までもめている部分があるんですけど、
リールを巻くときの目安になるカエルがね、
ワームがうまくアピールできてます、ってときに
イイ顔してるんですよ。笑ってる。
アピールしてないときは笑ってないんですけど、
「この状況ならアピールしてるやん?」というときに
笑ってなかったりするんです。そこ、ぼくはものすごく
イライラするんだけれども、もうこれ以上できない、
というところまで来ているので、まあいいか、と……。

 
アベキ:
内部的にはかなりアピールは出てるんですけれど、
(魚が食いつくような動きになっている、ということ)
カエルが笑ってもいいのかどうか、というところで。

 
糸井:
みんな笑う、というようなことになっちゃうからね、
下手すると。
 
アベキ:
そうなんですよね。一歩間違えるといつでも笑っちゃう。

 
小関:
「ほほえみ」くらいもあってよかったかもね。

 
倉恒:
でもルアーが水に入ったら、最初から最後まで
アピールしてるんだもんね。

 
イメージ
「カエルを笑わせるべきか
笑わさざるべきか、それが問題だ」と
サイトウさん。
サイトウ:
そうなんです。ルアーって、釣る人のアクションに対して
基本的にはいつもアピールしているんですよ。
で、このゲームでは、そのアピールの数値が一定以上に
なるとバスが来る、という構造なんです。
それをわかりやすく伝える手段として、カエルの顔があって
うまくアピールできていれば笑うようになっている。
でも、倉恒さんが言ったように「止めていてもアピールだ」
ということに関しては、カエルは笑っていないけれども、
ギリギリのアピール値が入っているんです。
本当は「笑っている」に近いんですよ。
釣りを知っている人なら、そのとき、
「笑ってないけどこのときはアピール出てるよな」
っていう判断ができる。
釣りを知っている人と知らない人で、明らかに釣果に
差が出てくるというのは、そういうことなんです。

 
アベキ:
たとえば「ポッパー」というルアーがあって、
トゥイッチングさせてポコッ、ポコッと音をさせると
カエルが笑うんです。このルアーはステイさせる(止める)
ことがすごく重要なんですよ。
釣りをする人は、ポッパーを動かして、ステイさせて
食わそう、食うタイミングを与えようとする。
そうすると釣れるんですね。
トゥイッチングだけでも釣れるんですが、ステイを
する人の方が釣れる。ニ投(にとう:2回投げること)で
釣れるところが一投で釣れてしまう。
そういう部分をこのゲームにもかなり入れているんです。
考えて釣れば、釣果が上がるようになっている。
でも、「ルアーを止める」と「カエルが笑う」というふうに
設定してしまうと、ずっと笑っている状態になってしまう。
ですから止めているときのアピールは「笑う」ギリギリの
手前でとどめているんですよ。

 
サイトウ:
この「アピール」というのがまたたいへんなんですよ。
ルアーが本物の動きを再現しましたよ、と
今までお話しましたけれども、今度はその動きに
それぞれアピール値をつけていく、という作業が
発生するんですね。同じ動きをさせても、このリグと
このルアーの組み合わせだとアピール値は高いけど、
このリグと違うルアーだとアピール値が低い、とか。
同じ動きをさせたとしても変わってくるんです。
釣りのアクションってすごく細分化されているんですね。
止めている、浮いている、沈んでいる、などの動きに、
すべてアピール値をつけていくという作業が必要になる。
それがまたものすごく膨大な組み合わせがあるんですよ。
だから、アベキは、パラメータをいじるというのと、
ルアーにアピール値をつけるというので、
1年くらいみっちりかかっているんです。

 
イメージ ──うわあ……。
 
小関:
一回ね、こんなにたくさんルアーがあって、作りきれない、
というので、糸井さんに提案したんですよ。
『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版! ワーム篇』
というのを作りましょう! って(笑)。

 
アベキ:
おそるおそる言いましたよー(笑)。
どういう反応するかわからなかったから、
すっとぼけながら、半分本気で。

 
糸井:
俺、覚えてないけど、「わはははは」って
笑いながら聞いてたんだろうな、きっと。
で、答えなかったでしょ。
 
アベキ:
明らかに「NO」でしたよね(笑)。

 
糸井:
「ああ、いいかもしんないねー」なんて言って
でも全然聞いてないの。
 
サイトウ:
いやぁ、今だから笑って話せるんですけれど、
そういうことをやるんだ、って出発点に立ったときの
あまりの果ての遠さに、ぼう然としちゃったときがあって。
じゃあ、「これだけはやめましょう。これもやめましょう」
って、たとえば10個くらい、やめたいルアーの案を
持ってきたんですけれど、許されたのは1個だけでしたね。

 
倉恒:
わはははは。そらあかん。

 
サイトウ:
それは「メタルジグ」っていうルアーで、
ただそれも、最終的には作っちゃったんですね。

 
倉恒:
入りましたね。

 
アベキ:
あれがですね、最終的に納得いかなくて……。
途中まで、かなり。他がなんとか落ち着いた時点でも、
あのルアーだけ、いい動きをしない。
でも糸井さんからは、あれは大丈夫、それでいいって
言われていたんですけれど、ちょっと時間が空いたんで
プログラマさんにお願いして、こういうふうにしたい、と。
そうすればかなりフィックスされるって。

 
イメージ
納得いくまで粘る、
たのもしいダイスのみなさん。
糸井:
あのルアーは「変則的な動き」だけだからね。
 
アベキ:
これができればもうオーケーなんですよ、って話で
無理やりやってもらったんです。

 
──このゲームで、なぜルアーがポイントになって
いるんでしょう?

 
糸井:
小学生も読むかもしれないから言いにくいんだけど。
 
倉恒:
おお?

 
糸井:
つまりね、男と女の関係そのものなんだよ。
 
一同:
うわぁ(笑)。

 
糸井:
ルアー(LURE)っていうのは、
「誘惑する」「魅せる」って意味ですよね。
つまり、魚に、媚びるんです。口説くんです。
口説いて、魚をキャッチするというのが
ルアーフィッシングなんです。
そうすると、媚びることそのものを「素晴らしい
テクニックだな」って思わせなくちゃいけない。
「あいつが媚びたからうまくいった」ではダメ。
たとえば木村拓哉くんとほぼ日スタッフのセイヒローが
2人でナンパに行ってさ、木村くんが成功したとするよね。
「そりゃあ、キムタクだからモテるに決まってるじゃん」
って言われたら、面白くないじゃない。
でもセイヒローがものすごく口説き方が上手くて、
ナンパできたら、みんな「なんで!?」って言うでしょ。
釣りってね、その「なんで!?」なんだよ。
だから、口説き方にみんなの目が向かないゲームは
ダメなんだ。っていうことでね、「なぜ口説けたか」
ということを納得させるためには、ルアーっていう
口説き文句を、どれだけ納得させられるかというふうに
しなくちゃいけないんです。
ルアーがいいんじゃなくて、それがどう動くからいい、
ってことだね。
「この人だからモテたんだよ」って言ったら
もうそれで考える必要なくなっちゃうわけ。
でも、「そうか、こうやったからモテたのか!」っていう
ことだよ。たとえばプイっと横を向く、その角度が、
「待って!」って言わせたくなるんだよ、ってこと。
   
イメージ ──「待って!」って、魚も。
 
糸井:
魚のほうも、慣れてるから、なかなか「待って!」って
言ってくれないわけだよ。さっきの話に戻すとさ、
「モテるには、黙ってタバコ吸ってればよかったんだよ」
ってこともあるでしょ。
そういうことが、釣りのいちばんの面白さだということは
みんなわかってるわけ。でも、それを言葉にしないんだよ。
「釣りは面白いね」って言っても、何が面白いのか
わからないまま釣りゲーム作ると、いい女のカタログ
みたいなものつくるんです。
魚がこんなにいっぱいいるでしょ、とか、
こんなきれいな魚見たことないでしょ、って。
それはセイヒローが女性誌を見て
グッときてるようなもんだよ。
でも、俺らが見たいのは女性誌じゃなくて、
もっと直接的なものなんだよ(笑)。
もっと直接的な関係になりたいから、
沈む速度がどうだとか、
相手が好きになることを徹底的に研究する。
ね、男と女の関係と同じでしょ。
コミュニケーションが軸なんですよ。
そうじゃないと、僕も、ゲームのタイトルに
名前入れてほしくない。
「釣りはたのしい」ってゲームにすればいいんだから。
ゲームセンターの海釣りのやつみたいにさ、
「おお、引く引く!」なんてやってるのも、
あれはあれで楽しいわけだから、今回ぼくらも、
振動パックだとか、そういう助けは借りているんだけど。
前作(スーパーファミコン版)でいちばん欲求不満
だったのは、口説き文句がパターンにはまらざるを
えなかったことなんですよ。二次元だから。
もっと、ちょっとした風の影響が関係あるんだよ
みたいなことが、最終的にしたかった。
いわば、自分の釣りの教科書にしたかったんですよ。
 
──ワームを入れているゲームって、ほかにあるんですか?
 
アベキ:
あることは、ありますけど……。

 
倉恒:
印象が、薄いねんな。

 
イメージ
「任天堂のゲームは
スゴイですよ」と
武久さん。
武久:
他の釣りゲームでも、ルアーの種類が多いゲームは
ありますよ。でも、それぞれに独立した個性が薄くて、
「ワーム」というひとくくりの中で扱われてしまっている。

 
糸井:
ゴムにヒモつけて引っ張ってる、みたいな。
 
武久:
結局はそういうことですね。

 
糸井:
タネあかししちゃいながら、ウソつかない、って、
恐ろしいよね。初期の麻雀ゲームがコンピュータの手を
見せないようにしてたじゃないですか。
プログラム的にウソついて「上がり!」なんてやってた。
今は、見ようと思えばコンピュータの手が見られますよね。
プログラムにごまかしがきかないから、
あれとおんなじように苦しいですよね。
だから僕は、自分で遊ぶとき、いずれ、ウインドウの中を
見ないでやってみようかな、って、昨日やりこんでて
思ったんです。
だって、あんなふうにサブウインドウに見えているけど、
本当はあれ、頭の中なんだもの。
それを見せちゃったわけだから、頭の中とは違うよ、って
ところまでわかっちゃったわけだよね。
ものすごいタネあかしをしてますよね。
 
イメージ
左上に出ているのが
サブウインドウ。
ここで水中の様子がわかる。
アベキ:
サブウインドウを表示しないモードもありますよ。

 
糸井:
あ、そっか!
 
倉恒:
ありますよ。作っときましたからね。

 
糸井:
うわぁ、怖い! ……でも、俺、そんなこと言ってても、
きっと見るんだよね、サブウインドウ。
 
一同:
(笑)

 
糸井:
見ずにはいられないと思うよー。見ちゃったら。
そっか。モノポリーのゲーム作ったときも
同じ発想だったんだけれど、お金を隠すというのがあって
誰がいくら持ってるかという表示を隠すことができる。
さんざん言うわけだよ、それが本当のゲームに近いから。
でも、見る(笑)。見る見る。
 
 
 
深い……。釣りをしたことのないほぼ日スタッフは、
釣りと、釣りゲームの深さに、圧倒されてます。
次回も、よりディープな(でも面白い)お話、
たっぷりお届けしますよ!


2000-03-17-FRI

BACK
閉じる