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01 トランプ・上の巻
「トランプの裏面は、絵画です」

 
イメージ 任天堂、というと
64、ファミコン、ゲームボーイなどを
連想しますが
その歴史をひもとけば
ボードゲームや電子トイなど、
じつにさまざまなものを
世に送り出しています。
それらの源流となるゲームの元祖、トランプと花札は
いまも任天堂の名前を冠して
売り場に並んでいます。
そう、トランプと花札は、
GBAと肩をならべる、
ばりばりの現役選手なんです!
そのお話をお聞きしたくて、
“トランプと花札ならこの人に聞け!”
と言われる、任天堂デザイナー第一号の、
山田孝久さんのところにお邪魔してきましたよ。
昭和46年に入社し、
トランプや花札をはじめ
さまざまな玩具のデザインを手がけてこられた
山田さんのお話、4回連続でお届けします!
 
 
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山田孝久さん


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
  
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──山田さんは任天堂の
デザイナー第一号だとお聞きしました。

そうなんです。
わたしは大学を出てすぐの、
昭和46年に任天堂に入社しました。
西暦でいうと、1971年ですね。
もうかれこれ30年になります。
製品をデザインしたり、パンフレットを作ったり
今でいうグラフィックデザインのような
仕事をしてきました。
任天堂に「デザイナー」と名のつく人間が入ったのは
おそらくわたしがはじめてだと思います。
だから、いろんな仕事をさせられましたよ。
デザインと名のつくものはみんな、なんでも。
会社の壁に絵を描いてくれとかね(笑)。

 
──昭和46年というと、
どんな製品が作られていたのですか。
 
トランプと花札ですね。
あとは怪獣時計とかね(笑)。
当時は、トランプや花札だけじゃなくて、
会社が室内玩具というものを
いろいろ作りはじめたころでした。
任天堂はそもそも、創業は花札。
明治の時代です。
それからトランプを作り出したわけですが、
そのとき日本にはじめて
トランプを紹介したことになります。
ですから、すこし前までは、
会社の基礎、初心の部分という意味をこめて、
新しく入社したデザイナーたちには
トランプのデザインを経験させておこう、と
いうことになっていました。

 
──登竜門なんですね。
 
入社してきたうちの5、6人には必ず
トランプを作らせていました。
そうですね、だいたい宮本あたりまでは
みんなここを通っていきました。

 
──あのゼルダの宮本茂さんも!?
トランプを作っていたんですか??
 
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宮本茂さん


作っていました。
宮本は、やはりすこし変わっていましたよ。
普通の柄ではおもしろくないといって
図柄に昆虫を入れてみたりね。
チャレンジャーでしたね。

 
──宮本さんのトランプは
よく売れたんでしょうか?
奇抜すぎちゃったりは、しませんでしたか?
 
んー、やっぱりボツが多かったですね。
わたしがボツにしたわけじゃないですよ(笑)。
図柄の採用はトップのほうの決裁で決まります。

 
──採用かどうかはどんなふうにして
決められるのですか。
 
大勢で作ったものをばーっと並べて
投票したりすることもあります。
いまはそうでもないですが、昔はなぜか、
社長決裁だったんですよ(笑)。
これとこれとこれにせえ、という感じで。

 
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昔ながらのデザイン
 
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ポップなデザイン
 
──社長が最終的な判断をしていた。
 
でも、あがってきたものを見ると、
わりとバラエティに富んだ選択を
してくれているというかんじで、うれしかった。
ちょっと珍しいタイプのものも採用されていたりして。
重厚感タイプあり、軽いのもあり
多種多様に選んでくれましたね。

 
──そのへんはすごいですね。
 
トランプの裏面は
パターン化された図柄が多くて、
いまもだいたいそういうものが主流なんですよ。
上下のわからない抽象的な図柄です。
最近はポップなデザインも
たくさんありますが、
昔は重厚感のあるデザインが多かった。
応接間のひきだしから出てきそうな
重々しいデザインのものが。
それからわたしたちがデザインして
ポップに脱皮していった。

 
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ひとつひとつ手で描かれている
 
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溝引き

──これは原画ですか?
 
そう。
昔はポスターカラーで描いてた。
いまはマックでやるけどね。

 
──え、え、手描き?
 
こういうのを使って描いていたんですよ。
カラスぐちっていうんですけれども。
この溝で直線を引く。

 
──「マンガ家入門」というような本で
見たことあります(笑)。
 
こんなふうに、全部手作業で
トランプをデザインしたり
いろいろなものを作ったりしていたんですよ。

 
──マックだったら短い時間でできますよね。
デザインの発想にかかる時間は同じだと思いますが。
手描きだと、発想してから描き上げるのに、
むちゃくちゃ時間がかかりそう。
 
いまはコンピュータの時代ですからね。
マックだと、画面上でデザインしてしまいますね。
やりながら、ちょっと修正したり。
ちょいちょいちょいと。
でも、昔はデザインを綿密に構想してから、
紙とペンで、集中して描き上げる。
どちらかといえば、絵画なんですよね。
パターン絵画というような。

 
──抽象画ですね。
20世紀頭に、こういうアートって
ありましたよね。
 
大きいポスターでもシンメトリーなだけのデザインとか、
ありましたね。
トランプはほとんどが
ペアで発売されるんですよ。
赤っぽいものと、青っぽいものがね。
3種類作るときもありますが。
だからひとつの柄を作るときには
必ずペアの配色を同時に考えなくてはいけないのです。

 
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配色が3パターンになることも


 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
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──いわれてみればそうですね。
どの柄にも赤バージョンと青バージョンがある。
ペアにするということに
何か理由はあるのでしょうか。
 
買う人の好みもあるでしょうし。
でもこれはおそらく
花札からきてると思うんですね。
花札には裏面が赤のものと黒のものがあります。
2セット用意しておいて、
片方で遊んでいる間に、もう片方を
シャッフルする人がいるんです。
ゲームが変わるとぱっとカードを切り替えるしくみで。
その名残ではないかと思いますね。

 
──売れる傾向というか、人気のあるデザインは
どんなものなんでしょうか?
 
山田:
売れる傾向はですね(笑)、
やっぱり重厚感のある、
昔ながらのデザインが人気みたいやね。

 
──ちなみに全盛期は
どのくらい売れていたんですか?
 
年に百万個ぐらいは。
当時は、どの家庭にもあるようなものでしたからね。
任天堂のトランプのシェアが
市場の80%くらい、あったと思います。
プラスチックトランプは有名でした。
NAP(ナップ)っていうのは、
「任天堂オールプラスチック」の略なんです。

 
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ナップシリーズ
──プラスチック素材でできたトランプですね。
マジックなどで使ってる
びびびびって、かっこよく切れるやつ。
まだトランプが紙ばかりの時代に、
友達が持っていて、憧れていました。
もうすこし、デザインのお話をお聞きしてもいいですか。
“難しさ”はどんなところにあるんでしょう。
 
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トランプっていうのは、
デザイン的にみれば
やっぱりスペースがものすごく狭い(笑)。
これをデザインしていくんですから、
非常に難しいんですよね。
サイズはだいたい2種類なんですよ。
まずはブリッジサイズという、
58ミリかける89ミリのもの。

 
──もう頭のなかに入ってるんですね。
 
それがブリッジサイズ。
まあ、セブン・ブリッジをする、
ゲームのためのトランプのサイズっていうのかな。
あと、ポーカーサイズというのがあるんですよ。
左右が63ミリ。横幅が広いだけなんですけどね。
天地は一緒です。
ポーカーするためだけのトランプなんですよ。

 
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ポーカー用のトランプ
──これは実際に、ポーカーサイズじゃないと
ダメだっていうお客さんが
いたということですか。
 
そうですね、まあカジノでは必ずこれですし。
家庭でも、ポーカーばかりやる人は
これを好みでお使いになっている、というのを
聞いたことあります。
基本的なサイズは、そのふたつだけですね。
昔は、丸いトランプや細長いのが
あったりしましたけれども。

 
──そういえばあったような気がする。
キーホルダーに入ってるちっこいやつもあった。
ガチャガチャで出てきたやつとか、ありました。
 
(笑)ありました、ありました。
旅行用とかいうものが。

 
──旅行用だって、ちっちゃい必要ないんだけど。
結局なくしてしまうことに(笑)。
 
ポケモンやスヌーピーなど、
キャラクターのトランプもたくさん作りました。
かつては大人の遊びだったトランプが
家庭に普及していって、
子どもが親しむようになっていったんですね。
最近では抗菌トランプなどもありますよ。
抗菌ボールペンなんかが出て、流行りましてね。
手に触れるものは抗菌の要素を入れるという
時代の流れに従って(笑)。

 
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スヌーピーのトランプ


 
 
 
 
 
 
 
 
 

──時代が変われば変わるもんですね。
これまで、合計すると何パターンくらい
デザインなさっていますか?
ボツも含めて。
 
数え切れないですよ、それは。
何万か何十万かはわかりませんけど、
すごい数です。

 
──採用された数は、わかりますか?
 
いちばん売れていたときで
年に100種類ぐらいでしたね。
1回に20種類ぐらいずつ作って
それが年に5回くらい。

 
──ひゃあ、100。すごい。
 
ですから、それの10倍ぐらいは、
軽くいきますね。

 
──1000種類。
1000バリエーション。
1000のシンメトリーが世に出た。
 
こういう、
トランプのようなサイズのものを見たら
思わずぱっとデザインを考えてしまう。
そんなくらいの数ですね(笑)。

 
   
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いったんトランプを買ってしまえば、
裏の図柄をちゃんと味わうことは
あまりなかったかもしれない。
でも、買うときには絶対に
裏面を吟味して選んでいるんですよね。
じっくり見てみると、
ひとつひとつがちっちゃなアートです。
さて、次回はトランプ下の巻。
トランプの表に隠された秘密を
山田さんが教えてくださいます。
乞うご期待!
 
  2001-05-31
 
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