那覇まで
偉人の三線を買いに。
「闘うな、つくり出せ」

ほぼにちわ、「ほぼ日」の菅野です。

今年4月に「ほぼ日」大ホールからの中継ライブ、
大島保克さんの島唄ナイトを行いました。
月のあかるいすてきなひと夜に
わたくしども担当チーム(播口、西本、田口、菅野)は
大島さんの奏でる沖縄の音楽にすっかり酔いしれました。
そして、三線(さんしん)を習ってみたくなりました。

大島さんに訊いてみたところ、
もし三線が欲しいなら、ここで買うといいよ、
というお店をご紹介くださいました。

お店を‥‥というか、三線の楽器をつくる人を、です。

大島さんは、こう言うわけですよ。

「その、三線をつくる人は、ただものではありません。
 現在生き残る、沖縄空手界の、偉人のひとりです」

いったいどういうことでしょうか。
楽器をつくる人が、なぜ、空手?

「しかも、書道の大家です」

大島さんの目は真剣です。

「ぼくは、その人が三線をつくるところを
 見たことがあります。
 三線には、弦を巻きつける
 糸巻きがあるのですが(カラクイといいます)、
 その木には、弦を通すための細い穴があいています。
 ふつうはクランプなどで木を固定し、
 ドリルのようなもので穴をあけます。
 しかしその人は、木を押さえ、
 目視で、寸分たがわず、
 素手で穴をあけていました」

つまり、大島さんがおっしゃるには、
空手の大家であるその方は、
からだのバランスが驚くほどよく、
そのため書道もうまく、
素手で三線の名器をつくることができる。

「とにかく貴重な三線で、
 音の鳴りもちがいます。一生ものです。
 買うならその人の三線を、いま、買ったほうがいい」

そのほかにも──

首に道着の帯を巻き、
両側から横綱級のお相撲さんに
思いきり引っ張らせる。
そこから、首の動きだけで脱出することができる。

吠える大型犬をおとなしくするために、
ネコのポーズで威嚇し、成功する。
(相手には巨大なネコ科の動物に見えるらしい)

数々の武闘家に決闘を申し込まれるものの、
受け身一手でかわしまくり、根気勝ち。

オリンピック出場の柔道の選手、格闘家などが
訪問し、教えを請う実力の持ち主だが、
身長は150センチ代。

などのエピソードがあるそうなのです。

大島さんは言います。

「とにかくすごい人です」

三線そっちのけ‥‥ということでもありませんが、
その方にどうしても会いたくなって、
わたくしは単身、那覇に行くことにしました。
(仲間たちから「おれの分も買ってきて」と頼まれつつ)

しかし、わたくしは
大島さんの忠告を忘れませんでした。

「空手の先生ですから、とにかく厳しい方です」

そこで、手土産に空港でようかんを買って、
とにかく最初のあいさつだけはきちんとしよう、と
心に決めて向かいました。

お店は、松田三味線店といいます。
那覇市内、辻という町の、バス通りに面したお店です。
わたくし、ガチガチに緊張して、引き戸をあけました。

「いらっしゃい」

中から声がしました。

「大島さんから聞いとるよ。
 オッケイ!
 コーラでも持ってこようね、つめたいの。
 オッケイ?」

お‥‥オッケイです。

わ、英語のコーラです。

「先生はね、ゼロにする。
 からだを考えてコカ・コーラ、ゼロ」

はああ。

「はい、黒糖、どーぞ!
 香りがいいよ」

あ、ありがとうございます。
‥‥おいしいです!

「でしょー。黒糖は、糖尿にならんで、いーの!」

なんだか、全身からちからが抜けていきました。
そこでやっと、ようかんを出し、自己紹介をし、
三線を求めに来たこと、
沖縄の民謡についてはほとんど知らないこと、
幼いころに津軽の三味線をやっていたことを話しました。

先生は、松田芳正さんとおっしゃいます。
「沖縄小林流 妙武館総本部 館長」
という御肩書きをお持ちです。
昭和14年生まれ、今年73歳。

「沖縄の唄はねぇ‥‥」

と、話をはじめようとして、すぐに
店内に置いてあったラジカセのスイッチを
先生は、切りました。
ラジカセからは、ラジオ放送が流れていました。

「ラジオは、スタミナあるよ。
 24時間、うんともすんとも言わず
 ずーっと流れてる。
 こんだけスタミナあったらいいよ。
 ラジオには負けるよ」

と、スイッチを切りつつおっしゃいました。
スタミナ‥‥?

「沖縄は、唄ではじまって唄で終わるの。
 今日もリズムよく一日をすごそう、
 昨日より今日がよくなりますように、
 ご先祖様、しっかりがんばります、
 善にむけての言動を、今日は展開します。
 そういって、炊事しながら鼻唄うたうのよ。
 でもまぁ、そういうことは、
 ゆっくりわかっていけばいいよ。
 『かじゃで風』というのから教えるね」

そういって、先生は一曲弾いてくださいました。

「3月4日は『さんしんの日』って知ってる?
 全世界、いろんな場所で、3月4日、
 この『かじゃで風』をみんなが一斉に弾くの。
 東京もブラジルも、アメリカも、インドも中国も、
 フランスもみんなよ」

かんたんなように聴こえますが、
おくゆきのある唄でした。

「ぼくは空手をやってますからね、
 基本は『心技体』です。
 このバランスがたいせつです。
 心はわかるね? 精神力のこと。気持ちのこと。
 ところが、『技』『体』にすこし誤解がある。
 『技』は、芸術のことなんです。そして、
 『体』は健康、人間尊重のことです。
 闘うことではありません。

 沖縄の唄には、沖縄の文化、道標が
 こめられています。
 このように守ったらまっすぐ生きられるよ、
 まちがいがないよ、ということを
 世界のみなさんといっしょに唄う。
 それが3月4日、なんだねぇ。

 学問、医学、空手の道、芸術の道は
 すべて一点に通じているの。
 それは、すなわち、人間道です。
 なにも、勉強ができなくたっていいんだよ。
 学校でさっぱりできなかった人が
 大成することなんて、あたりまえにあるでしょう。

 沖縄の唄には、
 心を鍛える唄、観望唄、道をつくる唄、
 教訓歌、それからもちろん恋の唄もあります。
 士族の唄、庶民の唄、民謡、最近つくられた唄、
 大島さんの唄もね(笑)、たくさんあるよ。
 唄うから、聴いてってね」

そこから45分間、何曲も
先生は弾いてくださいました。

お店のなかには、先生の空手の写真が
飾ってありました。

「沖縄は、三線も世界に誇ります。
 そして、空手も世界に誇ります。
 空手は、琉球時代から
 国際的な空手道として発展してきています。
 空手は、平和のためにあるんだよ。
 技を習得して、術を極めても、
 一生涯使わなければ、これに越したことはない。

 
 闘いを挑まれることはあるでしょう。
 そんなときは、知恵をはたらかせて、話してみる。
 なぜ闘うか、話してみるのです。

 組手になれば、相手に怪我をさせてはなりません。
 いつもかわして、防御に徹するのです。
 それができるのは、いつでも相手を倒せる
 強さを持っているからです。
 力量を示して、スタミナで勝つ。
 だからスタミナが大事です。
 そして、おのずと
 相手にわからせるのがいちばんです。

 だからね、あなたが今日、三線を買いに
 ここまでやってきたのは、
 とても大切なことなんだよ。
 人に危害を加えちゃだめだ。
 ものをつくり出したほうがいい。
 仏壇の横には、剣を置くのではなく、
 三線を置きなさい」

そうしておもむろに、
「あんたの三線はこれ」
と、一丁の三線を出してこられました。
「これにしときなさい」

「三線は、棹が命なの。
 これは黒檀といって、
 伐採禁止になっている木を使っています。
 いまある原木を使えば、それでおわり」

その話は、大島さんからも聞いたことがありました
樹齢200年以上経っている黒檀しか
木の黒い部分が成長しない。
そしてその黒い部分は三線の丈夫な棹になる。
胴は消耗品であり、三線は棹で決まる、と。

「そうだよ。みんな、防空壕に
 三線の棹だけ、持って入ったんだよ。
 それからね、沖縄の音楽では
 大事なのはほんとは唄だから」

そのことも大島さんはおっしゃっていました。
唄あっての三線だ、
三線弾きで唄わない人はほぼいない、と。

わたしは唄に自信がないのです。

「なあに、だいじょうぶ。
 カラオケ、行くでしょ?
 ああいう気分で唄えばいいさ。
 民謡の歌詞が載った本をあげるよ。
 この本のいいところを教えてあげようか」

はい。

「それは、老眼でもよく見えるところ」

そして、先生は
水牛のツノでできたバチを選び、
わたしの指にあわせて、
すいすいと削ってくださいました。

そして、小雨が降ってきたので
三線を入れたケースを
ぴっちりとビニールにくるんでくださいました。

「胴はヘビの皮だけど、破れるから、
 また持っておいで。
 音がおかしくなったりしてもすぐに直してあげるから
 また、いらっしゃい」

わかりました。

「あ、ちょっと待った!」

はい。

「黒糖、持っていきなさい」

こうしてわたしは、
一生つきあうことになる三線を手に、
先生の唄を数曲しっかりビデオにおさめて、
東京へ戻りました。

じつは、考えていた予算があったのですが、
先生が「これ」と決めた三線が
自分の予算を上回ったため、
仲間(「ほぼ日」の播口ら)の三線は
買わずに帰ってきてしまいました。
でも、松田三味線店にお手紙を書けばいつでも
見つくろって送ってくれる、と先生は言っていました。

先生愛用のラジカセの前には、
大島保克さんのCDが置いてありました。

帰りの飛行機の中で、
沖縄に行く前に大島さんがしてくれた話を
わたしは思い出していました。

──沖縄で、むかし、有名な空手の名手がいました。
(松田先生ではありません)
その人が、あまりにも強いという噂を聞きつけ、
当時のえらい人が、
牛と決闘させよ、という命令を下しました。

その牛は、とても獰猛でした。

空手の名手は、その決闘について
ひとつだけ条件を出しました。
それは、決闘の前に牛に会うこと。

その要望は認められ、闘いの数日前に
牛と対面することになりました。

そこでその空手の名手がしたことは‥‥
牛舎につながれた牛の眉間を
思いっきりなぐることでした。
次の日も、ひそかに牛のもとに通って、なぐりました。
「ごめん」と言って、ボカッとなぐる。
毎日毎日、闘いの前日までつづけました。

決闘の当日、
場内に放たれた牛は、
空手家の姿を見たとたん、
恐ろしくなって逃げたそうです。

「闘わずして、勝つ」

これが沖縄の空手の考え方でもあるでしょうかね、と
大島さんは話してくださいました。

以上、ただただ
「三線を買いに沖縄まで往復」の
お話でございました。
おつきあいいただきまして、
ありがとうございました。

松田先生のおっしゃっていた
「心技体」のことを思いつつ、
(予定より値段が高かったおかげもあって)
先生の演奏を聴きながら、わたしは日々、
三線の練習をつづけています。
いつか、播口、西本、田口といっしょに
三線の演奏を含めた沖縄のコンテンツを
やりたいな、とも思っています。

大島保克さんのライブがありますよ。

大島保克 「島渡る」発売記念コンサート
【日時】2012年9月21日(金)
 開場18:30/開演19:00
【会場】なかのZERO 小ホール
【料金】前売¥5,000/当日¥5,500
(全席指定/税込)

 

 

2012-09-18 TUE