ニュースのご近所。
あの出来事、近くで見るとこんな感じ。

第105回 中国的な、あまりに中国的な。


こんにちは!
先週、「翻訳前の中国」ということで、
中国でクチコミネットワークがさかんな理由と、
そして、クチコミ以外の情報が遅れがちなことについて、
指摘してくださるメールをご紹介したところ、
特に、中国在住のかたからの反応が、
とても、おおきかったんですよー!!!

前回登場してくださった「温子さん」から、
さらに、続報が届いて、これまた臨場感のある、
「そこにいる人ならではの
 感情のフィルターを通したもの」
になっていたので、掲載いたしますね。
なかなか、こういう実感までは、
テレビのニュースでは、伝わってきませんから・・・。

では、さっそく、お読みくださいませ!







・これを書いているのは20日の夜です。
 先日、「翻訳前の中国」というメールを書いたものです。
 たぶん、日本の方々もニュースなどで
 目にしていらっしゃると思うんですが、
 20日午後、中国国務院(=内閣府に相当)の
 緊急記者会見が行われ、かなり珍しいことに、
 中国国内にも生中継で放送されてました。
 わたしも偶然テレビを点けてそれに気づき、
 同じアパートに住む数人の友だちを呼び寄せて
 一緒に見ましたが、とにかく、
 いろんな意味ですごかった、の一言につきます。
 とっても、「中国!」でした。

 中国政府の発表するSARS患者総数が、
 それまでの1,400人弱から1,800人に
 跳ね上がったというのにもびっくりしたけど、
 わたしたちの住む北京の患者数が
 30数人から10倍の399人へと激増したのにも、
 あきれました。政府側の説明は、
 「準備不足と当局各者のコミュニケーション不足」とか、
 こういうことをここまで来て
 あっさりと言っちゃう中国政府関係者、もすごい。

 出席しているマスコミ関係者
 (海外メディアも含めて)は完全に緊張感なし。
 これは笑えました。
 いつかはこんなことになるだろうと思ってたさ、
 という雰囲気がありありで、
 一応現場主義に徹して出席はしているものの、
 会見発表内容にも質問への回答にも
 「ふぅ〜ん、だからどうなの?」という表情。

 会見後の質疑応答に至っては、
 西洋系の記者たちが怒りに震える声で次々に、
 「何がどうなってるんだ?」
 「何を信用しろというんだ?」
 「前回の数字が虚偽なら、
  今回の数字が本当という証拠はなんだ」
 「1週間前に『中国は大丈夫。北京は安心だ』と
  言ったのはウソか」
 「状況はコントロール下にあると繰り返した、
  衛生相がここに出席していないのは、
  すでに更迭されたということか」
 「そうやってウソをついた裏には何があるんだ」

 ……答を期待しているのではなく、
 ただ怒りをぶつけているという感じが
 これまたすごかった。
 「Lied(うそをついた)」という言葉が
 何度も何度も、中国政府との対峙に
 すでに慣れ切っているはずの、
 プロのツワモノ記者たちの口から出たのも
 迫力ありました。

 それにしても呆れたのは、
 ここに来てまでショーアップしようという中国側の態度。
 基本的に対外を含めた記者会見の席上での質疑応答は、
 外国人記者と国内記者を
 交互に指名する方法で行われるというのは、
 中国関連のマスコミ関係者には
 知れ渡っている手法なのですが、
 今回もご多分に漏れず、
 まず金髪碧眼の西洋人記者に質問させ、その次に、
 「ハイ、CCTVの方、質問どうぞ」と壇上からご指名。

 CCTVとは中国の国営テレビ局。
 こういう場合の国内記者は
 基本的にサクラ的な役割を負っており、このときも
 「それでは政府は今後
  どういう施策を考えているのですか」
 という質問をし、
 それを聞いて政府側関係者はここぞとばかり、
 「それについては重要な発表があります。
  5月1日からのメーデー・ゴールデンウィークは
  公式に取り止めとします。
  これによって、休暇期間中の人々の流動を防ぎます」
 と答えたのです。

 中国って、1年間に土曜日曜を除いて
 祭日というのは基本的にありません。
 そこで、数年前から内需の拡大を目指して、
 旧暦正月、5月1日(メーデー)、
 10月1日(建国記念日)は、
 その前の土日を出勤日として働くことで
 (つまり振り替え「出勤」)、
 その後の土日を含めて1週間を
 ゴールデン・ウィーク化して公的休暇としています。

 日頃お休みのないところですから、
 このゴールデン・ウィークに里帰りとか、
 旅行とか、行楽とか、はたまた結婚式やパーティなど、
 日頃めったに出来ない余暇を予定していた人たちが
 たくさんいたはずです。
 中には単身赴任中で、やっと家に帰って
 家族団らんというヒトもいるはずでした。
 それが、ボツ。
 学生は通学し、通勤人は出社する、ということになった。

 ま、不審な伝染病が広がっている今、
 むやみな人間の移動は避けたいという思いがあるのは
 分かります。
 しかし、人々の余暇という権利が
 こんなに簡単に取り上げられてしまう、
 という、現実にはかなり驚きました。

 さらに、
 「むやみに流動させたくないから、
  (休み返上で)働かせろ」という考え方も、
 かなり乱暴ではないですか。
 国民に伝染病蔓延防止に対して
 理解と協力を求めるのではなく、
 学校や職場に縛り付けてしまえば
 動けないだろうという決定は、
 政府が国民の判断力を
 全く信頼をしていないという意味でもある。

 確かにこのまま国民を長期休暇入りさせれば、
 人々の移動による蔓延は防げないでしょう。
 わたしもそう思います。
 しかし、そんなふうに
 危機感を国民に持たせなかったのは、
 これまでの政府が本当の情報を
 公開してこなかったせいではないか。
 その反省なしに、国民から
 休暇を奪い取るという決定を下すのは、
 かなり横暴な政策です。

 さらにそれを、
 「さあ、これが我々の解決策です。どんなもんです」
 とでも言いたげに、自信たっぷりに口にした
 政府関係者の「得点とり」演出には、
 ぞっとさせられました。

 こんな乱暴な態度と判断で、
 今まで国内の蔓延状況を隠して、
 なにも知らなかった
 国民の生命を危険にさらしてきたんですね。 
 と思うと、他人事ながら、本当に怒りを覚えました。
 (って、わたしも北京暮らしですから、
  他人事じゃないんですけどね)

 一緒にテレビを見ていた中国人の友人たちも、
 「今回発表された数字が本当かどうか、分かるもんかい」
 かなり鋭く数字的な根拠を求める
 西洋メディアの記者の質問に対して、中国側の回答は、
 「それなりに」とか、「多い」とか、「少ない」とか、
 「比較的に」とか、「相対的に」とか、
 クモをつかむような回答ばかりで全然かみ合わない。

 前回のメールでは、「原始的」と形容しましたが、
 これを見て思ったのが、
 これは「非科学的」なんだ、ということ。
 こんなふうに数字ではなく、
 すべてが相対で決まる。そんな感じ。
 決して科学的に物事を分析しないし、
 科学的な答が出て来ない。
 だいたいからして情報隠しをするという態度からして
 「非科学」的です。

 会見を見終わって、ため息をつく友人たち。
 「とにかく、政府が過去のミスを認めた、ということは、
  数字は信じられなくても、
  事態はかなり厳しいということだ」

 この分析と判断も「非科学」的ですが、
 目には目を、てところですね。
 そういう点では、中国の人たちって、
 そういう政府の態度には免疫が出来ている。
 いや、「上に政策あり、下に対策あり」てところか。

 「事態は厳しい、ということは、
  これからはやっぱりむやみやたらに
  街中をふらついてはいけない、ということになる。
  キミも気をつけるように。
  外出する際はマスクは必ずするように」

 とのお達しが出ました。

 「キミが感染すれば、
  ぼくらも感染したことになるんだから」

 暖かいんだか、冷たいんだか分からないお言葉。

 実は、わたしの住むアパートには、
 それなりに名の知られた
 中国人芸術家たちがちらほら住んでまして、
 一緒にテレビを見てたのも、そのメンバーたち。
 ここのところ、SARSの口コミ情報で、
 日頃は社交に大活躍の彼らも、
 大事を取って家でこもることが多くなり、
 しかし、日頃のにぎやか大好き人間の
 気性が改まるわけもなく、
 そのために、アパート内のメンバーで
 転々と集まる機会が増えました。

 先日は、うちで夕食会を開いた際に、
 またもSARS情報の交換となり、
 わたしがまだマスクを手に入れていないんで、
 ハンカチ縫い合わせて……
 という話をしているうちに、

 「いや、マスクったって
  14層くらいになったものじゃないと
  意味がないらしい」
 「そんなの、この北京のどこに売ってるの。
  してるだけで気持ちくらいは楽になるよ」
 「だったら、自分で作ればいい」
 「そうだな、春になったし、
  着なくなった冬用のモモヒキで作るか、マスク」
 (注:北京は冬、零下15℃くらいになるくらい
    寒いので、モモヒキ着用は当然)
 「冬の下着は厚いからな。
  それなりに層が厚いだろうし」
 「だったら、ブラジャーとかでも
  いいんじゃないか。ペアで作れるし」
  (注:発言者は男性芸術家)
 「おお! だったらセーターとかでもいいな、
  カラフルだし」

 ……SARS騒ぎが落ちついたら、
 北京の芸術家による「マスク」をテーマにした
 展覧会が開けるかもしれません。
 その時にはまた、写真入りでご報告したいと思います。

 それにしても彼らに言わせると、
 「人間、パニックになった時こそ、
  想像力と創造性が刺激される」。
 プロの芸術家がいうと、なんか真実味がありますよね。
 でも、素材がブラジャーかい!

 そんなこんなでSARS騒ぎの北京の水面下を、
 実は意外にそれなりに楽しんでいるところです〜♪
 皆さんも、お元気で〜。
 (温子/中国/北京)






読んでいて、びっくりしましたし、
ラストのほうの、中国人芸術家と日本人在住者の集いに、
「いかにも、ありそうな展開だなぁ」と笑いましたし、
とにかく、掲載するに値するメールだなぁと思いました!

では、次回のこのコーナーで、また、お会いしましょう。
お相手は、わたくし「ほぼ日」のメリー木村でした。


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2003-02-23-WED

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