ニュースのご近所。
あの出来事、近くで見るとこんな感じ。

第104回 翻訳前の中国。


おひさしぶりです!

今日は「翻訳前の中国」というテーマで、
中国から、長い通信をお送りくださった
「ほぼ日」読者の方のメールを、掲載いたしますねー♪

香港から中国に移り住んだために感じるという、
そのギャップが、率直に出ていて、
すごくおもしろかったので、おすそわけ、です。







・わたしの住むのは情報砂漠、中国。
 中国語と、共産主義的な習慣と、
 伝統的中華主義的な風俗に日々まみれつつ、
 改革開放が進み、市場経済を導入したとはいえ、
 階下のスーパーには、いまだに
 オイル漬けのツナ缶もバターも並んでいません。

 だいたいからして、
 「改革開放」「市場経済」
 なんかが並ぶこと自体、
 もう「共産主義」っぽすぎますよね〜。

 14年間暮らした香港から
 北京に引っ越すことを決めたときには、
 ま、「インターネット時代」だし、
 もう大丈夫だと思ったんですが、
 生活を始めてみると、
 ネットでもプロバイダーがお国の経営なんで、
 アクセスしようにも
 自然にブロックされてしまうサイトがありすぎて、
 文字通り、情報の「壁」にぶつかりまくってます。
 だって、ジオシティもブロックされてるから、
 友だちの個人サイトすら見れないんですよ〜〜〜!!!

 ま、今から考えれば、香港の方が
 「なんでもありすぎ」だったんですけど。
 ケイタイの普及も、インターネットも、
 一般化するのは、日本よりずっとずっと早かったし。
 「フォートナム・メイソン」の紅茶も、
 家庭用エスプレッソ・コーヒー用の、
 あの可愛い直火用ポットだって、
 ちょっと大きめのスーパーで売ってたし。
 便利過ぎ、だった、確かに。

 だからこそ、本当に、中国で暮らすようになって、
 香港とボーダー1本隔てただけの、
 中国の「こっち側の事情」はどうなっちゃってんの?
 てのを読み解こうとあがいているところです。

 壁の中で暮らしてると、
 「こちら側」と「あちら側」って、本当に違うと思います。
 「国情」とか「事情」とか、
 または「家庭内の事情」といいますか。
 そして、それによって起こされた動きが
 「正しいかそうでないか」ってのも、
 それを判断する人が立っている場所が
 「こちら側」なのか「あちら側」なのか、
 によってすごく違ってくる。
 すべての「事情」を「正しいかそうでないか」で
 判断する必要もないとは思いますが。

 毎日頑張っていらっしゃる
 「ほぼ日」の皆様がたに感謝を込めて、
 「翻訳前の中国」の、こちら側の事情をお伝えしますね。

 中国といえば、今やキーワードは「SARS」。
 北京でもかなりヤバイ状態になってきました。

 なにを今ごろ「かなり」なんだ、とお思いでしょうが、
 中国政府は、南の発症源とされる広東省や香港を、
 かなり「切り離して」中国国内に報道してきたんです。

 国土が大きいせいもあって、
 北京などの北方の方の人にとっては、
 広東省で起こってることなんて、
 東京の人にとっては沖縄か台湾で起こってること、
 みたいな雰囲気なんですね。
 「ふうん、そういや、おいらの友だちに
  最近広東省行った人いたっけかなぁ…」
 みたいな。
 中国政府はそういう伝統的な感情を利用して、
 もしくは政府関係者自身がそういう気分で、
 広東省の「SARS」問題を取り扱ってきた。

 一方で、「SARS」って、実はもとをたどれば
 昨年11月には広東で患者が出ていた。
 でも、「なんかヘンなカゼが流行ってる」て
 報道は出ていたものの、
 あんまり、それは重視されなかった。
 というのも、
 1) 中国ではまだまだ医療体制が整っていなくて、
   というか、整えようにも地理的僻地が
   多過ぎて、手が回らない。
 2) なので、医療現場関係者にとっても
    「なんかヘン」って程度の病気は、
    あんまり、珍しいことではなかったりする。
    それが習慣化している。
 3) しかし、それが「なんかヘン」として
    報道に載った、というのは、それ自体が
    すでに「習慣」を超えている証明だったのですが、
    広東省の当局関係者が、
    「自分のテリトリーでヘンなことが起こっている」
    =「自分の監督不行き届き」とされて、
    中央政府から自分個人の政治上の成績を
    減点されてしまうのを恐れて、
    マスコミにあまり話題にしないよう働きかけた。
 4) そこで医療関係機関に秘密裏に
    「ヘンなこと」解決のための資金や人員が
    送り込まれればよいわけですが、
    「ヘンなこと」をひた隠しにしたい当局関係者は、
    そんなことをすることで逆に目だって
    外にバレるのが恐くて、ほっといた。
    
 ……な〜んにも知らされていなかった広東省の市民たちは
 な〜んにも知らずに感染し、な〜んにも知らずに生活し、
 な〜んにも知らずに旅行し、
 な〜んにも知らずに菌をばら撒いた。
 で、な〜んにも「知らされずに」肺炎と診断され、
 亡くなった。

 日本のお正月にあたる、旧暦正月の2月ごろにはすでに、
 かなりヤバイ状態になっていて、
 広東省を中心としたマスコミも騒ぎ出していたけど、
 それでも中央を媒体とするのマスコミは動かなかった。
 旧暦のお正月、というのは、里帰りの時期ですから、
 南の大都市・広東省に出稼ぎに来ていた、
 な〜んにも知らない人たちが
 菌を持って移動してしまった。

 だから、本当のところをいうと、中国各地において、
 どれだけ「本人も知らない」患者がいるのか、
 今の時点では分からないはずです。

 海外マスコミの関係者は
 当然それに気づいてるんですが、
 日頃から中国国内で海外マスコミは
 勝手に取材できないシステムになっている。
 ただの長距離列車中国の旅、なんていうのも、
 勝手な取材は出来ない。
 必ず、国の通訳とか、手配人が(手配料つきで)
 ついていなければならない。
 それを無視して勝手に取材した記事を
 某新聞社などが紙面に載せると、
 ちゃんと日本にある中国大使館がそれをチェックして、
 その新聞社が次に中国国内で正式に手続きをして
 取材をしようとする
 (例えば、国の要人のインタビューとか)際に、
 許可が下りない仕組みになっているんですね。

 だから、SARSについても、海外マスコミの駐在員は
 「絶対に、中国政府が公表するウラになにかがある」
 と思ってはいても、勝手な動きができない。
 だから、中国政府の公表する数字しか統計資料がないし、
 報道できない。

 でも、中国人たちは、そういう政府の態度に敏感です。
 国内マスコミはすべて国の機関の下請けであることを
 十分知っている人たちですから、
 新聞を読み、テレビを見て、ラジオを聞いていても、
 そこから得た情報は頭の隅に一応置いておいて、
 そのうえで彼らが最も重視するのは、口コミ情報。
 口コミ情報は今も昔も、
 自分が信頼出来る人にしか漏らしません。

 国内マスコミで働く記者たちも、
 もちろんその幅広いネットワークで
 いろんな口コミ情報を得る。
 海外の常識だったらそこでそれに基づいて
 (もちろん、検証してから)記事を書く。
 でも、それはデスク−新聞社−国の
 認可機関に潰されてしまうのを
 彼らは充分知っていますから、書かない。
 で、彼らも得た情報を口コミ、
 または自分の個人サイトで
 「つぶやき」として流していく。

 その結果、ますます口コミは信頼される。
 わたしも、SARSについて、
 「テレビ局の友だちが得た情報」とか、
 「記者のだれそれが言ってた情報」て
 冠言葉がついた口コミをいっぱい得ました。

 もちろん、口コミですから、かなりヤバイものもある。
 「Aさんの奥さんの同僚の
  お姉さんのご主人の同僚の友だち」の患者と、
 「Bさんのお兄さんの奥さんの弟さんの
  親友のご主人のいとこ」の患者が
 同一人物の可能性もある。

 けれど、口コミ情報に日頃からなれてる中国の人って、
 情報としてヤバイんじゃないか、こりゃ、というのと、
 これはかなり信憑性が高いで、というのを
 うまくコントロールしているところもあります。

 その上、10日以上も
 「SARSによる北京の死者は4人」を毎日繰り返し、
 「入院患者は4人増えたが、
  すでに8人が完治して退院した」
 (で、全体の患者は何人?)
 「北京には『不審な』病気に罹った患者はいない」
 (本日の報道)などと言う当局の言葉より、
 「症状が現れても絶対に軍関係の病院には行くな」
 (軍病院は国がそれなりにお金や技術を落としているので
  日ごろから信用度が高く、なにかあれば
  すぐにそこに駆け込む人も多い。
  だから、逆に不審な伝染病の場合は一番危険)
 「〇〇病院と△△病院が封鎖された」
 (同じく上記のような理由で、
  医者たちが伝染し隔離されたという)
 などの口コミ情報が信頼される。
 つまり、この国でインターネットなんて
 頼りにしてちゃだめなんですね。
 利用する、程度にしとかなきゃ。
 なんという原始的な国なんだ、ここはッ!!!

 でもね、マスク、見つからないんです。
 どこにもない。
 薬局に行っても一言「売り切れだよ」。
 香港の友人にも「あんた、マスクつけるように」って
 丁寧なメールもらったんですけど、
 医療用マスクどころか布製のマスクもない。
 こうなりゃ、ハンカチ縫って
 手製のマスク作るしかないかも。

 その上、ここのところ、わたし、花粉症だし。
 鼻水は出るし、くしゃみは出る。
 やばいったらありゃしない。
 時折、タンがからむのが救いです
 (SARSはタンは出ないそうなので)。
 なんか、変ですよね、やっぱり、こっち側の事情って。

 長くなりました。
 とにかく、皆様も、お身体にお気をつけ下さいませ。
 (温/中国/北京)






温さんのクチコミ情報を、
クチコミのまま、おとどけしたいと思いました!
クチコミュニケーションの現実についての記述は、
「なるほどなぁ」と思わされました。
実感があちこちにある、すごいメールだと感じます。

「何を信用したらいいのかからのスタート」
というのは、どこの国の報道でもそうでしょうが、
中国の場合は、その地点での情報の見極めや収集が、
自分の健康や、さらに生活や職業にさえつながる……。
そこの、危機感が、日本とはそうとう違うのでしょうね。

温さん、メールをありがとうございました。
みなさんからのイキイキしたメールがありましたら、
こちらのコーナー、これからも、
ちょくちょく、更新してまいりますね。

お相手は、「ほぼ日」の木村俊介でした。それじゃ!


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2003-02-16-WED

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