ニュースのご近所。
あの出来事、近くで見るとこんな感じ。

第93回 欧州の視点と、カンボジアの暴動。


こんにちは!

アメリカやカナダに住んでいる日本人の方からの
「イラク問題」についてのメールをご紹介したところ、
2通の、かなり濃いメールをいただきました。

フランスと、カンボジアからなんですが、
今日はそのふたつを、そのまま、ご紹介いたしますね!







・はじめまして。パリに住んでいます。
 イラク問題のことで
 米国やカナダに住んでいる方々の声が
 掲載されていたのを見て、
 ちょっと希望が芽生えてきました。
 みんなが戦争をしたがっているわけではないんですね。

 フランスでは、伝統的な愛国心と
 この問題は切っても切れない、というのが
 ここ数週間の展開でした。
 ラムズフェルド長官の「古いヨーロッパ」発言のときに、
 あるフランスの大臣が「カンブロヌ」といいましたが、
 これはアメリカ(かつてならイギリス)に対する
 ライバル意識丸出し、といったところでしょう。
 カンブロヌというのはナポレオンの近衛部隊の指揮官で、
 ワーテルローの戦いの折、わずかに残った部下と奮戦中、
 イギリス軍からフランス語で降伏を勧められて
 「くそったれ」と言い返した、
 という武勇伝の持ち主です。

 敵方のプロイセンやイギリスの軍隊は
 貴族の軍隊ですから
 当時の欧州の公用語だったフランス語が
 皆できるわけですけど、
 フランス側は当時は革命直後で、
 カンブロヌやナポレオン自身
 比較的庶民的なひとびとであった…という違いが、
 この「くそったれ」という
 貴族ならいくら負け戦でもいわないだろう、
 思わず地が出てしまった一言によくあらわれていて、
 またそういうところに
 フランス人は愛着を感じるのでしょうね。

 関西人にとっての秀吉のようなものでしょうか。
 ちなみにこのカンブロヌさん、
 ワーテルローの戦いの後
 捕虜にされて連れていかれたイギリスで
 現地の貴族の娘と出会い結婚した…
 というあたりも含め、
 いかにもフランス的な人物ではあります。

 それにタイミングも悪過ぎました。
 あの日は独仏協力40周年を祝う記念番組で
 当地のメディアは埋め尽くされており、
 かつての仇敵同志がむずかしい歴史にもかかわらず
 手をとりあって作り上げてきた、
 そういう欧州を皆でふりかえっていたときでした。
 そこにこれから戦争をしようというアメリカの政治家が
 力にものをいわせてああいうことをいうわけですから、
 反感を買ってしまったわけです。

 ただここ数日は、フランス(特にシラク大統領)と
 フセイン氏の30年来の親密な関係を描いた
 番組などがいくつかあり、
 アメリカだけを悪者にするというよりは、
 フランスやドイツも利権がらみなのに
 そんなに偉そうなこと言えるのか?
 という風に問いかけの方向が
 変わってきたような気もします。

 長くなりましたが、一筆啓上させていただきました。
 寒い中ご苦労さまです。頑張って下さい。
 パリにて
 (s)



・こんにちは
 カナダ在住の方から、
 >とくにアメリカでは多くの人が、あまり
  ”考える”ことに慣れていないような印象を受けます。
  ハリウッド映画の
  ”目の見えるもの/耳に聞こえるもの”を
  そのまま受け入れて終わり、
  それ以上は思考しなくても良い映画は、
  今の多くのアメリカ人を象徴しているように思います。
  そういった人々をメディアを通して
  マインドコントロールするのは
  いかにも簡単なことでしょう
 というお話がありましたが、
 今カンボジアでそれを痛感(?)しているところです。
 とはいえ、アメリカ人の話ではなく、
 カンボジア人のことですが。

 ことの始まりはタイの人気女優が、
 「アンコールワットがタイに返却されない限り、
  カンボジアなんかに行かない」
 と言ったとか言わなかったとかの新聞報道。 
 信憑性の無い話なのですが、
 一般カンボジア人の対タイ感情は一気に悪化。
 おまけにカンボジアのフンセン首相が
 「彼女はアンコールワットの、草木一本にも値しない」
 とかのコメントをしたので、火に油。

 29日には学生中心のデモが始まり、
 女優の写真やタイの国旗を燃やしたまでは
 まだよかったのですが
 野次馬的に人が集まって、暴徒化しました。
 タイ大使館は暴徒が侵入、放火されて殆ど焼失
 (大きなコンクリートの建物自体は残っていますが)
 他のタイ資本の電話会社やホテルも襲われて、
 略奪・放火されました。
 タイ人達は、国外脱出です。

 いくら人気があるとはいえ、
 一女優の言ったか言わなかったか分からない
 コメントに反応して、大使館焼きうちかい。
 文盲率も高い国ですし、みんなが
 新聞記事を読んで反応した、というよりは
 ウワサに聞いて、とか、通りがかったら
 ちょうどデモをやってたから参加した、とか
 いいチャンスだから略奪に参加した、
 というパターンのようです。

 「目に見えるものをそのまま受け入れる」
 より一段上かも。
 考えることになれていない、というよりは、
 考えるなんてしたくもない、という態度。

 それとも、貧困層や若年層の
 フラストレーションのはけ口が
 うまい具合にみつかった、というだけでしょうか。
 一度暴徒化してしまえば、
 理由がなんであれ、関係ありません。
 昨夜も結局タイ資本だけでなく、
 関係ない家や会社も襲われたそうです。
 みんなドサクサにまぎれて
 コンピューターとか盗めてラッキー、ってとこです。
 「デモ成金」なんているかもしれません。

 カンボジアに比べて格段の発展を遂げている
 「隣国」タイへの嫉妬やら
 夏に来るカンボジア総選挙をにらんでの
 政党間の争いがこの騒動の背後にあるとか
 色々諸説とびかっていますが、怖いのは、
 カンボジア人が簡単に扇動されてしまうこと。
 今だれかが私の家を指差して
 「ここはタイ人が住んでる!」って言ったら
 みんな、なだれ込んでくるでしょうね。
 アタシは日本人よ!なんて言っても
 聞いてくれる相手じゃないし。

 どちらにしろ3月には引越し、と思っていましたが
 状況によっては2月に引越し、になるかもしれません。
 数日前に首相がアセアン観光フォーラムで
 「この地域は世界で一番安全!」と言い切ったのなんて、
 悪い冗談にしか聞こえません。
 長くなりました。
 腹たってるのと、ちょっとコワイのとで。 
 それでは。
 (Mari)






カンボジアの暴動はニュースでも
触れられている最中ですけれど、
Mariさんのメールで、
ニュースの映像で見たりするのとは違う、
「底辺の問題」みたいなものを、
ご近所から伝えていただいたような気がしました。

フランスの雰囲気も、とってもよくわかったし、
カンブロヌさんの詳細な説明が、おもしろかったです。

では、また、次回のこのコーナーで、お会いしましょう。
「ほぼ日」スタッフの木村でした。

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2002-01-31-FRI

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