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パキスタンへ出発しよう!
「花を買ってくれないか」
恐怖心を、押さえることができない。貧困、犯罪、テロ、紛争、9.11‥‥。この国を「怖がる」ための理由なら、いくらでも挙げられる。でも、そうじゃない。今、痩身の写真家を襲うのは「文字が読めない」という恐怖だ。新聞も、看板も、地図も、警告も。理解不能の言語に、包囲網を敷かれている。アラビア語は、いっさいの手がかりを与えてくれない。喧騒のど真ん中で、絶海の孤独。しかも、白い民族衣装のただ中である。自らの存在を「消す」ことすら、できない。自分は今、明らかに夾雑物(ノイズ)であり、この街の秩序からはみ出す異邦人だ。そうした自己認識が、若き石川直樹に、いいようのない恐怖を与えたのである。花を買ってくれないか。15ルピーでいい。そんなことを言ったのだろうが、やはり理解することは、できなかった。
2011-07-04-MON