旅する生茶。
全国7カ所に(じかに)
プレゼントしに行きます!

「とめきち配達日記」(6)
旅する生茶 〜福岡篇〜


行ってきましたよ!
福岡県福岡市の九州大学茶道部へ。
早朝5時30分起床、外は雨。梅雨です。
6時30分までに羽田空港にチェックインしなきゃ。
「やばい! 飛行機に乗り遅れる!」
タクシーを飛ばして、なんとかセーフ!
「6480円です」
「はっ……?」
幸先いいスタートが切れました。

「マメヤトメキチ様ですね」
「はい!」
羽田空港のチェックインカウンターで、
生茶2ケースを預けました。
「お客さま、液体は運べません」
「え?」
旅する生茶、中断か?
早起きしたのに。
高額なタクシー代払ったのに。
「お客さま、前もって連絡して下さい。今回だけですよ」
「はい」
助かりました。
液体がダメだなんて、知りませんでした。
「お客さま、15キログラムオーバーですね」
「え?」
「加算料金1750円です」
「はっ……」
幸先いいステップです。



午前7時35分、福岡空港へジャンプしました。
前回の旅(千葉)のレポートを書いていて、
睡眠時間2時間の僕は、
機内で爆睡すること2時間、福岡に到着しました。
福岡は晴れてました。
空港で地下鉄に乗り換え、祇園駅へ。

僕を福岡に呼んでくれた、堤義章さんは、
九州大学茶道部OBの方で、
春期茶会の手伝いを、
聖福寺というお寺でやるとの事でした。

道行く人に尋ねてみました。
「聖福寺ってどこですか?」
「このへん、寺ばっかりで分からんたいねえ」
「ああ、そぎゃんですか」
留吉は九州出身なので、博多弁で会話しました。
そうなんです、僕がいたのはお寺が密集する地域でした。
歩く事30分、なんとか聖福寺を見つけました。



聖福寺は800年の歴史を持ち、
中国からもってきたお茶の木を
日本で初めて植えたお寺だそうです。
サッカー場2面くらいのすごく広い敷地の中は、
立派な庭園や、古そうな木々があり、
外国人の観光客もいました。
これから春期茶会に行くであろう群衆についていくと、
聖福寺の茶室に辿り着きました。



会えました!
堤義章さんです。
春期茶会はすでに始まっているようで、
一般の方や茶道部OBの方が大勢来てました。
2001年に60周年を迎える伝統の行事だそうです。



「よかったら、お茶会に参加して下さい」
「え!? やりかた知りませんよ」
「大丈夫ですよ、かしこまったものではありませんし、
 気楽にお茶会を楽しんでください」
「は、はい」

「東京都港区ねず穴……豆屋留吉……と」
まずは、受付を済ませました。
104人目です。
静寂が保たれた8畳程の茶室に、
ほかのお客さんと一緒に壁沿いに正座しました。
となりの人の息が聞こえてきそうです。
そこに、茶道部の方が2名、入ってきました。



ひとりは、お茶をたてる人。
もうひとりは、説明をする人。
この2人を「東(とう)」と呼ぶそうです。
「本日はお忙しい中、おいで頂きありがとうございます。
 不慣れなものですが、お楽しみ下さい」
「こちらの掛け軸は××、お花は△△、花入れは○○、
 ◇◇の香合でございます」
床の間の説明ですね。
そして、お茶の説明。
「本日の使用具は、××の風炉、△△の水差し、
 ○○の茶碗に、◇◇の茶杓と、なつめです」
 

 
僕は小声で堤さんに訊きました。
「何ですか? 説明されてますけど……」
「いろいろあるんです」
「……はぁ」
“半東(はんとう)”と呼ばれる
お客の中の一人があいさつを始めました。
「本日はお日柄もよく、(茶室を見回し)
 たいそう立派な掛け軸でございますね。
 存分に楽しませてもらいます」
「堤さん、お見合いみたいですね」
「……(苦笑)」
他の茶道部の方が、お茶菓子を持って入って来ました。
「よろず屋製の、青梅でございます」
青梅の形をした和菓子を、
小さいナイフで切り、口に運びました。
つぶあんが入っていて、おいしかったです。



お茶をたてる担当の方が、ゆっくりとした動作で、
手酌で風炉の湯を出したり戻したりしています。
「何やってるんですか?」
「お客様に出すお茶の温度を調節してるんです」
「ほう」
すると今度は茶杓を持って、
「ご相伴いたします」と、お茶をたて始めました。
できたお茶が目の前に置かれました。
その時、堤さんの目が光りました。



「ん!? 失敗かな……」
「え? 何かミスでもありました?」
「いや、お茶立てが少々あまいかなと」
「ふ〜ん」
「ホイップするのに近いんですけど、
 上手にできると、茶が緑色の小さな泡で
 きれいにふくらむんです」
「あ茶〜」
「……(苦笑)」



まず、お椀を自分の左に置き、隣の人に一礼し、
お椀を持ちあげて、2回転させてから
お茶を飲みました。
「苦い……」



茶室の皆さんがお茶を飲み終えると、
「東」の方のあいさつで茶会が終わりました。
ほかの方が立ち上がって、
床の間の物を眺めながら帰るなか……。



しびれました。
普段、正座なんてする機会ないです。
元剣道部ですが、昔の話。
5分程、立てませんでした。
生まれたての小鹿みたいでした。

生まれて初めての茶会を終えて、
午後2時「平々宝」という店で、
博多ラーメンを食べました。

「堤さんは、なんで茶道部に入ったんですか?」
「元々は、空手、バスケット、剣道と、
 ずっと体育会系だったんですよ。
 茶道部にはシャレで入ったつもりが、
 これが深かったんです」
「ほう」
「最初は動きにばかり気を使ってたんですが、
 心をこめたお茶を出せるか出せないか、みたいな」
「納得のいくお茶、出せた事ありますか?」
「一度だけですね。
 自分も満足して、飲んだお客さんも喜んだ事が」
 


聖福寺に戻ると、春期茶会が終了していました。
「160人の来客があり、大入りでしたよ!」
「水屋」という茶会の準備をする部屋で、
部員さんたちと、お疲れさまの生茶を飲みました。



千葉で買っておいたおみやげ、
矢切のモナカをこのときに渡しました。
和の心を身に付けた?留吉は、
堤さんと一緒にバスに乗って、
茶道部で使う和菓子を売っている、
「凪州屋(なぎすや)」に行きました。
次の旅、三重県の方へのおみやげを買うためです。

「練習の時も和菓子を使うんですか?
 お金かかりますよね?」
「いえ、ポッキーとか……」
「はははは」
堤さんが僕に、耳掻きのデカイ版のような
茶杓をくれました。
抹茶をすくうやつですね。
耳の穴が大きくないと入りません。
堤さんはこれからOB会があるとの事で、
ここでお別れしました。

東京に帰る飛行機は、明日のチケットをとってあるので、
時間もあることだし、僕の故郷、熊本に帰ろうか。
博多駅午後5時25分発、特急有明37号に乗って
いざ熊本へ。



「思えばぁ遠くへ来たもんだぁ〜
 ふるさと離れてぇ一人旅〜」
懐かしい風景が次々と、目に飛び込んできます。
午後6時45分、熊本駅に着きました。
さっそく、豆屋留吉の実家、
豆屋(ピーナッツ作ってます)に電話をしました。

「今から取材がてら帰るけん、よかね?」
「なんばいいよっとや!
 タレントとしてチョットは売れてから帰ってこんか!
 ガチャ!」
「……」
きびしー!(財津一郎熊本出身)洗礼を受けました。

こうなったら、こんな僕でも受け入れてくれる、
おばあちゃんの家に行こう。
路面電車でゴトゴト、バスに乗り換え、
「そういえば小さい頃、
 止まりますブザー押すのは誰よりも早かったなあ」
「ピンポン」
「……くやしい」



停留所で降りると、ちょうど、
おあばちゃんがノコノコと歩いてました。
きっと買い物だな。
「おばあちゃん!」
「ひゃっ!」
「ただいま!」
「お化けかと思ったとよ」
「勝手に殺さないで……」

腹ペコだったので、味盛食堂で親子丼を食べました。
「それだけじゃ足りんど?」
「大丈夫」
「親子丼もう1つ」
「違うのにしてよ……」
「あら」

おあばちゃんちに帰るの、ひさしぶりだなぁ。
生まれてから小学校に上がるまで、僕が育った家です。
おばあちゃんに、この旅の説明をして
生茶を1本あげました。



「飲みやすかね」
「うん」
「おあばちゃんもついて行きたかあ」
「だめだよ、交通事故で腰を骨折したばっかりでしょ」
「うん。車椅子に初めて乗ったとよ」
「ああそう」
「……酔った」
「車椅子で?」
「うん」

小さい頃に入ってた湯船に首までつかると、
旅の疲れが、ジワ〜っと溶けて出ていくようです。
昔どうりの、熱めの湯加減。
今は亡くなったおじいちゃんにいつも
「百、数えたら出てよか」と、言われたものです。
……二十三までしか数えられませんでした。
熱くてじゃないですよ、なんか泣けちゃって。



風呂からあがると、昔からよくいるんです。
ヤモリが窓にペッタリついて、
部屋の明かりで集まった虫を食べて暮らしてます。
その日は、おばあちゃんの肩を揉んでから寝ました。

6月12日、朝6時に起きて、
家の近くにあるおじいちゃんの墓参りをしました。
「旅する生茶」の成功を祈ってきました。

それから、おばあちゃんが週2回やっている、
社交ダンスをする場所に行きました。
熊本駅の目の前にあるビルです。
「厚交会」と言って、高齢者の方30人で活動している
社交ダンスチームです。
渡辺けいこ先生の指導の元、
ブルースやタンゴ、ジルバの音に合わせて
おじいちゃん、おばあちゃんたちが踊ってました。



おばあちゃんは、今でも日本舞踊の先生をやっており、
軽快なステップで楽しく踊ってました。
「踊ってるのが、いちばんの生き甲斐とよ」
右が、愛するおばあちゃんです。



笑顔たっぷりの、おじいちゃん、おばあちゃんたちに
さよならを言って、熊本駅から福岡に戻りました。

昼ご飯は、福岡空港で、またまた博多ラーメン。
「今回の旅もまた、充実してたなぁ」
余韻にひたりました。
後は東京に帰るだけだよ。
ポッケをゴソゴソ……。
「あれ? メモ帳が…………ない!」
頭のなかが真っ白に!
旅のすべてを書いた大事なメモ帳……。
旅の途中に思いついたギャグ集……。

くまなく探したのに、見つからないよー。
空港保安課、警察、心当たりのある駅に
問い合わせました。ないんです。
空港内にいた清掃係のおばさんにも聞きました。
「メモ帳、落ちてませんでしたか?」
「いや〜、見なかったねぇ」
「あったら、保安課に届けてもらえますか?」
「いいよ。でもね、ない時は、ないよ」
「……は、はい」

「ない時は、ないよ」
ああ……清掃係のおばさんのボディブローが、
じわじわと効いてきました。
毎回、毎回、旅にオチなんかいらないのに……。
「プルルルル」
携帯だ。
「おばあちゃんだけど、メモ帳忘れたでしょ?」
「う、うん」
「送っとくけんね」
熊本のダンス会の部屋に、忘れたんだ!
これで東京に帰れるよ、よかった〜。
留吉、大事な物は、ちゃんとしまう事を覚えました。
結果的に、ちょっと経験値がアップした旅でした。

豆屋留吉


福岡のおみやげ

三重県に僕を呼んでくれたみなさん、
凪州屋で買った和菓子です。
九州大学茶道部伝統の和菓子です。
生茶と一緒にどうぞ。

糸井さんへのおみやげは、
扇子です。
茶道部OB堤さんからのプレゼントです。
茶会での必需品です。
ポケットサイズで、いつでもどこでも涼めます!



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福岡でお世話になった
堤 義章さんからのメール


先日はお茶会に来ていただき、ありがとうございました。
生茶2ケースを本当に1人で運ばれてこられたので
ビックリしました。
お茶会のほうは、160人以上のお客様に来ていただき
ここ数年では記録的な盛況ぶりでした。
また、午前中はどうなることかと思われた天気も
留吉さんが来られてから、急に晴れてきたりと
“留吉パワー”のおかげだと思っております。

お茶会の後でいただいた生茶、
冷えてなくても大変美味しかったです。
ただ残念だったのは、お茶会があまりに忙しかったために
部員の大半が留吉さんの姿を見ることができなかった、
ということです。
「あ、留吉さん、もういらっしゃってたんですね」と、
どうも留吉さんが来ていたことに気づいていない部員も。

ということなので、よろしければ
秋にも同じような茶会があるので、ぜひ来て下さい。
そして今度は、部員のみんなに会ってあげて下さい。
あ、それと、その時までにサインの練習しておいて下さい。
私、サインもらい忘れてしまったので。
改めて部員の方から案内状が届くと思われますので
よろしくお願いします。
それでは、体に気をつけて
残りの旅を続けて行って下さい。

留吉さんに聞かれた質問で、
「あなたにとって茶道とは?」に、
きちんとお答えしてなかったので、今お答えします。

「相手のことを思いやる、というすばらしさと、
 でも、どれだけたくさん思いやっても、
 それが相手に全て伝わっているかというと、
 案外そうでもないものだという、もどかしさや悲しさ。
 この2つを私に教えてくれたもの」です。
 
だから、心をこめるとか、
相手に気持ちが通じたというのは
所詮、自己満足でしかないのかも知れない
というのが今のところの私の考えです。
なのでせめて「一期一会」(出会いは一度きりなのだから、
その1つ1つを大事にしていかなければならない)という
気持ちを持って、後悔しないように
人に接していくべきなのではないかと思っています。
なんか、「それは間違ってる」って言われそうですけど。

九州大学茶道部OB
堤 義章


堤さん、どうもありがとうございました。
「一期一会」ですか……。
それは留吉にとっても「旅する生茶」のテーマです。
今までに会った皆さんのことは、
留吉の心に焼きついておりますよ!
サインの練習……やっときます。

豆屋留吉

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おこずかい帳
くりこし ¥441.046


6月11日(日)
午前 ¥5780 タクシー
   ¥700 高速代
   ¥11000 羽田→福岡 航空チケット
   ¥1750 超過手荷物代
   ¥250 地下鉄(福岡空港→祇園)
   ¥257 明太子おにぎり
       キリンファイヤー
午後 ¥610 ラーメン(替え玉一個)
   ¥100 バス
   ¥2992 おみやげ和菓子
   ¥100 バス
   ¥4600 電車代(博多→熊本)
   ¥130 スポーツ新聞
   ¥150 路面電車
   ¥130 バス
   ¥122 生茶
   
6月12日(月)
午前 ¥1480 トーストセット
        サンドイッチ
        コーヒー2杯
        メロンソーダ
   ¥1060 おみやげ せんば小狸
   ¥485  スポーツ新聞
        ビックコミックスピリッツ
        ミントブルー
   ¥250  地下鉄(博多→福岡空港)
午後 ¥950 辛子明太子ラーメン
       高菜御飯
   ¥18000 航空チケット(福岡→東京)
   ¥1060 タクシー

合計 ¥51.956
残り ¥389.090


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「旅する生茶」旅の予定

ななつめの旅は
6月17日(土)鳥取県

鳥取市の桑村めぐみさんに、生茶をお届けします。
ミニサッカーの練習試合があるそうです。
女の子2人がFWの「オネエちゃん2トップ」!!
留吉のスタミナは15分、
ガラスの貴公子、乞うご期待!


2000-06-16-FRI

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