(これまでの「はじめての中沢新一」連載はこちらです)




第37回 日本人の心の構造は

(中沢新一さんの、イベントでの
 ひとり語りをおとどけしています)

実に数万年の間、
人間の社会には、
王も権力者も出現していません。
縄文時代ですらそうです。

縄文時代の日本は、
例えば山内丸山遺跡の発掘が進みますと、
たいへんに発達した
縄文文化だということに
みんながびっくりしています。

まるでこれは都市じゃないか、
と考えてもいいくらい、発達しています。
しかし、そこに王はいないんです。
ところが、ある事件がおこった。

これは国家の出現、都市の出現と
一体になっているでしょうが、
今まで自然の奥底にあった
グレートスピリット、
偉大なる神というもの……
これは蛇の形で表象されたり、
熊の形であらわされたりしますが、
これを自然の領域から
人間の世界の中に持ってきてしまって
そして人間の中に、
「自分が現実の世界の中の王であり、
 超越的な権力者である」
と語る人々が出現したという
事態が起こりました。

それまでは
神がいる場所や、あるいは
真実の王や、
世界の王というのは
自然の中にあるはずでした。

ところが世界の王である
熊や蛇や虹の蛇たちを殺して、
そしてその力を象徴化して、
生きている人間の世界へ
持ちこんでしまった人がいました。
そしてそれが、
わたしは王であると
宣言するようになりました。
その瞬間から神話的な思考方法というのは
大きなダメージを受けるようになったわけですね。

レヴィ=ストロースなどが
研究しているのは
国家が発生する前の
世界が成立するあり方です。
なぜ国家というものが
作り出されてくるのかの謎。

これは神話的思考方法に加えられた
ダメージと関係があります。
この方法が作りかえられていくんですね。
それによってわたしたちは
国家の誕生を知るし、
そしてその思考方法からは
都市も形成されてくるようになる。

そしてこの思考方法というのを
中近東から西ヨーロッパに至る世界では
組織的に、大規模に発達させてきました。

ところが
極東のはじである
日本列島に展開していた文明というのは
そういう展開を遂げませんでした。

長いこと、
縄文的な思考方法、
神話的な思考方法、
あるいは二つの思考モジュールが
みごとにバランスが取れて働いている
二分心がそのまま生き続けるような
文明を作りあげてきました。

中国からの影響によって
国家を形成し、
そこに社会組織を作り、
都市の原型的なものを
作るようになりました。
ところが、そこで作りだされた
都市も国家も
これは中国やあるいは
もっと西の世界で作られた
国家の考え方とは
何か根本的に
ちがうところがあったようです。

それは、縄文時代との
連続性を持っているということもできるし、
神話的な思考方法の特質を消すことなく
この日本列島の自然と
ある種の調和を保ちながら
作りあげられてきた
国家でありそして都市である、
という特質を持っていました。

二つの異なるモジュール、
今の西欧的な思考方法から言うと
この右脳の部分というのは
無意識の中に閉じ込められています。
そしてそれを合理的な意識が
閉じ込めるという
人間の心が作られています。

だから
このまんなかの部分ではたらいている、
直観的、非合理的にはたらいている
メカニズムの部分、
わたしたち新人の心の原初形態を作った
最初のジャンプの証であるものは
心の奥底に無意識としてしまいこまれ、
押し込まれています。

ところが
日本人の心の構造の中では
この無意識の部分が
表にむきだしになっています。
そしてある部分バランスを取れて
二つのモジュールが
同時に機能しています。
これは第一部でお話した、
その心が作りあげた東京の特質に
つながりを持っているものですね。

この問題を
「カイエ・ソバージュ」の
第二巻で明らかにしようとしました。
どうして国家というものが発達したのか。
しかし、日本人が作りあげている
社会の構造も
ヨーロッパが作りあげたものや、
中国が作りあげたものとは
どこか異質なところがあるのです。
その原因はどこにあるのかということを
明らかにしようとしたわけですね。

(明日に、つづきます)

2006-01-25-WED


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