(これまでの「はじめての中沢新一」連載はこちらです)




第35回 「ひねり」こそが重要である

(中沢新一さんの、イベントでの
 ひとり語りをおとどけしています)

それぞれの神話が使っている
ちいちゃい部品のひとつひとつはどれも、
論理的な思考方法として
今のコンピューターが使っているのと
ほとんど遜色のないような
論理的な道具を使っているにも関わらず、
それにぐりーっとひねりを入れて
「生と死」を連続させたり、
対立しているものをつないでしまって
矛盾した状態を作りだした……。

それによって
世界の状態を考えようという、
そういう試みを行っていたということを
明らかにしようとしました。

そうすると
ぐりっとひねるツイストの部分に
登場してくるものが
神話では重要だ、
ということがわかってきます。
これは二つの矛盾した性格を
一身に担う存在というのが
神話には登場して来なければいけない、
ということになりますね。

つまり、ぐりーっとひねって、
論理にツイストを加えて、
哲学が作り出すものと
生命が持っているものが
同じ構造であるという状態に近づけるために、
二つの矛盾したものを
一緒に自分の中へもっている存在が
出現していかなければいけない、
ということになります。

これがトリックスターというやつです。
トリックスターというのは、
矛盾したことをなんでも平気でやる人物です。
そして、この矛盾を平気でやる節操のない、
とにかくおかしなやつですね。
この節操のないトリックスターが
登場してくることによって
神話はこの矛盾した論理を
見事に作っていくことに成功しているわけです。

このやり方を使って
シンデレラの世界を
解明してみようと思いました。
シンデレラは、
このぐりっとしたひねりを
論理の世界に加える典型的な女性です。
彼女は灰かぶり姫ですから灰の側にいます。
灰、竃の世界の向こう側には、
古代の人々は死者の領域がある、
異界が広がっていくと考えられています。

竃自体が存在の世界に
ぐりっとひねりを入れて
そして別の空間領域の中に開いていく、
そういうツールだったわけですね。
そこにシンデレラは立っていたわけです。
だから継母たちに、
いつも竃の側にいろといわれたのは、
彼女にとっては
とてもラッキーだったわけですね。
それによって彼女は世界の構造を
作りかえることができたわけです。

ですから作りかえることの表現として
もっとも貧しい生まれをしたはずのシンデレラが
もっとも社会的に高い地位にいる
王子様と結婚するという事態が起こるわけです。

こういうことが
民話の構造として
出てくるようになったわけです。
この構造を探っていくと、
なんとシンデレラの神話というのは
旧石器時代、旧石器時代の
人類の思考方法にまで
深くくいこんでいく
思考方法であるということが、
だんだんだんだん、
見えてくるようになりました。

なぜシンデレラが
ガラスの靴を
階段で脱ぎ忘れていったのか、
そのことの意味まで
はっきりわかってくるようになります。
そしてこの神話というものが
いかに豊かな哲学の形態であるか、
ということを明らかにして、
この第一巻を終わったんですね。

(明日に、つづきます)

2006-01-23-MON


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