(これまでの「はじめての中沢新一」連載はこちらです)




第24回 岡潔さんという天才

(中沢新一さんの、イベントでの
 ひとり語りをおとどけしています)



今、突然
ヘンな写真が出てきましたけれども、
この方は岡潔(おかきよし)という
日本が生んだ最大の数学者です。
この方は
数学者として有名になる前には
まったく無名で、
奈良の山の中で
お百姓をしながら
暮らしていた人なんですね。
現実生活が
ほとんどできない人だったんですけれども
ちょうど、戦争中だったこともあって、
食べ物も満足に食べられなかったわけです。

大学からも、天才なんですけれども、
天才ゆえに
まぁ言動があやしいというので
追われてしまったりして、
そしてお百姓さんをしながら
数学の理論を考えていたんですけれども、
この数学の理論が素晴らしいんですよ。
「不定域イデアルの理論」
っていうんですけれども、
ものすごい細かい部分のことと
ぼくらが知っている現実の世界を
どうやってつないだらいいか、
というものでした。

この人は
ぼくの中学生くらいの時に、
随筆を書きはじめてます。

それがすごくおもしろくて興味深く読んで、
まぁ感動するとタモリさんに怒られるから、
感動というか感銘を受けたんですね。
ま、感動も感銘もおんなじか。

この人の基本的な考え方というのは、
タモリさんと同じなんです。
岡さんは西欧がきらい。
彼は長いこと、フランスに留学して、
フランスで数学の研究をしていますから
ヨーロッパのことを
よく知っているんですけれども
考え方の基本がよろしくないっていう
思想をお持ちの人なんですね。

次のようなことを
しょっちゅう書いていました。

「ヨーロッパは、たしかに、
 優れた科学技術を発達させて、
 それから政治組織なんかも
 強力なものを作りあげて、
 経済組織も
 合理的なものを作りあげたけれども、
 まぁそれは
 ぜんぶ知性がやっていることだ」と。

で、我々の伝統の中に
叡智というのがあるんだ、
という言い方をするわけです。

叡智というのが
どういう構造でできているのか、
どういう仕組みでできているのかというのを
彼は後半、長い生涯を費やして
いろいろと考えぬいていくわけですね。

それを今、読みかえしてみると、
岡さんというのは普通ぼくらが言っている、
右脳の能力というのを
強調しているなということが
わかるわけですね。
左脳と右脳を対立させるなんていう考え方も、
これはちょっとヨーロッパ中心的な
考え方かもしれません。

脳の論理的な合理的な思考をする方が
左側ですよね。
現代人の考え方、思考方法というのは
脳の右側の方の非論理的で
感覚的で全体的な把握をするその部分を
使う思考よりも、左脳の方が
圧倒的に支配的になっているんです。

だから、
技術にしても経済活動にしても、
だいたい左脳的な働きというのが強い。
岡さんは、そういう文明というのを
否定しているんですね。

(明日に、つづきます)

2006-01-12-THU


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