(これまでの「はじめての中沢新一」連載はこちらです)




第13回 流行は、ここでしかあり得ない

  中沢 『アースダイバー』を
読んでくださった方に、
「文章がうまくなった」なんて
言われると、ありがとうございます、
という感じなんです。

週刊誌で書くというのは、
なかなか大変な作業で、
最初の頃は
前のほうの上席に
置かれていたんですけども、
だんだん後のほうにまわされて、
週刊現代の中でも、
前は『特命係長只野仁』で
うしろが神崎さんの『女薫の旅』に
挟まれていました。

これには刺激を大いに受けて、
ということになったんですけども、
おかげさまで、
みなさんの心に
届いてくださっているようです。

そればかりではなく、
最近、地方に講演に行くと、
おもしろい反応が帰ってきます。
ついこないだも
三重に行ったんですけど、

「これから
 三重アースダイバーというのを
 立ちあげます。
 伊勢とか鳥羽とか
 二見浦の土地記憶なんかを、
 アースダイバーの手法で
 もう一度よみがえらせていくことを
 やってみようと思ってます」

なんて人たちが現れたり、
大阪でこれをやろうという
計画があったりします。
日本列島を生まれ変わらせるための
活性剤を
放りこむことができたかもしれません。
しかし、これからは先は、
みなさんの口コミにかかっています。

東京という都市は
今まで以上に魅力的な空間に
作りかえられなければいけない。
そしてそれをすることは可能だ、
ということを、この本で、
書きたかったということです。
以上が、『アースダイバー』の概略でした。
  タモリ わたし、坂道の本を出しましてね……
江戸までしか、
さかのぼっていないんですよ。
  糸井 (笑)
  タモリ 江戸で十分だと思ってたんです。
「デートスポット」
とか書いてしまってね……。

ほんとうに商業主義で
出してしまった本ですけども、
ほんとにこの
『アースダイバー』を読んで、
恥ずかしく
思っておる次第でございまして。

今日は、会場ではわたしの本は
ぜんぜん売れないと思うんですけどね。
  糸井 (笑)いえいえ。
  中沢 テーマは同じなんですよね。
  タモリ はい。
坂道になぜ興味があるかというと、
坂道を歩いていると不安になったり、
逆に心おどる場合も
たまにある、
というところからなのですが、
『アースダイバー』を読みますと、
土地の記憶から来てるんだということが
とてもよくわかりまして。

伝統というのはよく守られている、
ということも、
『アースダイバー』を読んで
よくわかりました。

銀座の例でいきますと、
日本で本格的に商品に宣伝というか、
広告をのせた人がいるんですが、
その跡に電通があるし。

それで、銀座というのは、
多分あれ幕府が銀本位制にしようとして
失敗したところだと思うんですが、
そういう非生産的な人達は、
「しゃれもん」なんですよね。
  糸井 銀座は、いちばんパリに似てますよね。
  中沢 そうですね。生産しない連中ですね。
  タモリ それから、
埋葬に関するものたちが、
しゃれものだというのは、
しゃれる傾向は違うと思うんですけど、
それが都内最大なやり方なのは、
青山あたりの埋葬地であって、
つまり、銀座と青山が
現在ふたつの流行の
発信地になっているという。

見事に、精神的なものでも
ぴったり一致してると。
  中沢 青山のあたりのことを
思いついたときには、
こわくなりました。
  糸井 ぞっとしますね。
  中沢 ファッションというのは、
そういうものなのかと。
  糸井 しかもそれが、
世界からその場所に
向かってきてるわけですよ。
石棒がどんどん
来てるような気がするんですよ。
とくにあのプラダあたりとか。
  中沢 パリなんかの
ブティックがある場所って、
そんなに
由緒のあるものを感じないんですね。
ところが青山は、
やはり由緒があるというか、
ここでなければ、
このファッションというのは
あり得ないとか、
こんなことを言える
都市というのはないと……。

(明日に、つづきます)
   
2006-01-01-SUN