(これまでの「はじめての中沢新一」連載はこちらです)




  第12回 1万年の記憶

(中沢新一さんの、イベントでの
 ひとり語りをおとどけしています)
近代的な都市論では
東京の解明が
なかなかできませんでした。

いろんな都市論が書かれましたけども、
だいたいは江戸時代の都市計画と
それと明治時代に作りかえられる東京と、
そして現代の東京を重ねるという、
いわば近代的な都市としての
東京というのを
研究してきたものだと思います。

ところが、
こういう研究には、
大きな弱点というか、
見落としがあります。

それは、
この都市で生きてる人間の中には、
徳川時代の
近代が始まるよりももっと古い、
とてつもなく古い地層に
つながっている層が眠っていて、
その層がこの都市を実際に
いきいきとしたものとして
作りあげているという視点が
欠けているからだと思います。

この『アースダイバー』という本を
書きあげる仕事は
週刊誌だったから
とても楽しかったですけども、
これを書いているうちに、ぼくは、

「この仕事をすることによって、
 東京を
 本当に野生的な空間として、
 よみがえらせてみよう」

「これを読んでくれた方たちが、
 自分が
 またアースダイバーとなって、
 東京の中を歩きだしてもらおう」

「裏町や、坂道や、あるいは、
 墓地や神社を歩いていくと、
 今まで
 全然見えてこなかった
 記憶というのが、
 深いところから
 立ち上がってくるのを
 体験していただきたい」

と思いました。

そうすると、
東京をすごい深い層から
作りかえていくことが
できるんじゃないか。
これから作られてくる東京に
深い影響を与えていくことが
できるんじゃないか。

ぼくはこの本を、
ビル建設者やディベロッパーの人にも
読んでもらいたかったですね。

あなたがたが、そうやって
手を入れて作りかえようとしている
この東京という土地、これは、
そこに生きている
日本人の心の構造と同じように、
古い地層ともつながっているもので、
そこに手を加えることができる
層などというのは、
非常に限られたものでしかないと。

この都市を、わたしたちは、
生命の奥底までつながっている記憶と
一体になった生活空間として
作っていく……
つまり、わたしたちの記憶の場所を、
住みよい空間として作っていくためには、
今までかけていた、
1万年単位の記憶や知識というのが
これからの都市設計に、
これからも非常に重要になってくる、
そういうことを、言いたかったのですね。

(明日に、つづきます)
 
2005-12-31-SAT