はじめての中沢新一。
アースダイバーから、芸術人類学へ。

とんでもなく大きい視野のイベントができました!
友人たちが関係者席に座りたがってタイヘンです。
タモリさんと、糸井重里の依頼で、
中央大学教授の中沢新一さんが、登場するんです。

30年間の研究を、徹底的に濃縮し、
糸井重里に邪魔されながら、
タモリさんに突っこまれながら、
旧石器時代から現在につながる人間たちを、
そして未来に向けての人間たちの希望を……
たぶん、目の前に、想像させてくれるはずです。

「対称性、という道具を持って世界を見るうちに、
 自分の思考の中でなにか決定的なことが起きた」

縄文地図を手に東京を歩く『アースダイバー』や
全5巻の大傑作『カイエ・ソバージュ』の内容を、
いい会場、きれいな座席、長丁場で、語りつくす!

イベントがどんなにおもしろくなるか、
想像できそうな、打ちあわせの会話を、
「ほぼ日」では、連載してゆきますね。

第1回 マンモスの反省
糸井 あ、中沢くんだ。
中沢 こんにちは。
タモリ あ、どうも。
糸井 こんにちは。
きてくれてありがとう。

『アースダイバー』
タモリさんが、すごい
おもしろがってまして。
「タモリさん、食いつくぞ!」
と思って、送ったんだけどね。
中沢 おもしろかったですか?
タモリ すごくおもしろかった。
糸井 『アースダイバー』の
まえがきのコンセプトは、
血わき肉おどったよなぁ。
タモリ うん。
なんで、あんなに
ワクワクするんだろうねぇ。
糸井 つい
眉唾になるぐらい、
よくできてたもん。
でも感動しました。
ほとんど詩だね。あれ。
中沢 パリやローマを歩いても
こんなに深い話までいかないんです。
ローマはせいぜいローマ時代だから、
二〇〇〇年もいかないでしょう。
東京には、縄文時代からの、
ほんとにへんなものが残ってて。
タモリ
「坂道研究」を
やってますので、東京は、
ずいぶん、歩きましたが……
『アースダイバー』のような
「縄文からの東京の歩きかた」
というのは、衝撃だったです。

縄文のことを思いながら
歩いたことは、ないので。
だから、縄文というのが
おもしろくなってきていますね。

そもそも、ある場所に
人がなぜ住もうと思うか、
にも、興味があるんです。
なんでベーリング海峡を
移動しようと思ったのか?

それから
アメリカに定住にしたやつ。
中米にいくやつ。
最南にいくやつ。

「いや、俺はここでいい」
「ちょっと俺は先にいく」
そういうやつに
わかれるわけでしょう?
中沢 そうそう、それがおもしろい。
途中でわかれていくんですよ。
のちの
インカ帝国のあたりで迷うらしい。
タモリ
(笑)
中沢 コスタリカのほうにいったり
また戻ったり、渦巻くらしい。
タモリ そうとう
逡巡するものがあるんだろうなぁ。
中沢 アンデス山脈の
どっちを通るか。海側か内陸か。
糸井 (笑)東名を走ってる時、
みたいな悩みだね。
中沢 わかれたり、躊躇があったり……。
タモリ 中米で
「わしたちはここでいいけんね」
ってやつも、いるわけですよね。
中沢 そこに
残ってるやつもいるわけです。
糸井 タモリさんは「いいけんね」が
知りたいわけですよね?
タモリ そうそう。
中沢 最初に移動したやつは、
とにかくマンモスを追ってったじゃない?
糸井 それはわかりやすいんだよね。
タモリ うん。
中沢 そいつらが、
マンモスを、食うわ食うわ……。
最短の仮説だと、
北アメリカから
南アメリカの突端の岬まで
三〇〇年や四〇〇年だったらしい。
この仮説、すごすぎるけど、
ぼくは好きです。
糸井
短い!
タモリ
(笑)かなりイケイケだったんだね。
中沢 モーレツなスピードで、
南まで行っちゃったらしいんです。
ついていけないのが
いたんじゃないですか。
「俺は、このへんで
 マンモス獲ってたほうがいい」
ってやつと……。
タモリ 俺、寒いところイヤだから、
アラスカではイケイケ組だと思う。
糸井
イケイケというか、
彼らには
「進む」という外見はあったの?
中沢
とにかく追ってったらしい。
タモリ そこまで深追いするのかな。
中沢
いや、それで
アメリカ大陸の
マンモスやバイソンが
全滅しちゃうわけです。
タモリ
(笑)獲りすぎで?
中沢
そう。
糸井 マンモスは
人間が絶滅させたんだよね。
タモリ
うわぁ。
中沢 そこで、
反省が起こったらしいんだよね。

アメリカインディアンの
自然に対する哲学というのは、
最初はそこから出てくるんです。
糸井
(笑)マンモスの反省。
タモリ (笑)「やりすぎた」という。
中沢 マンモスの反省が、
自然との共生の思想を生んだ。
糸井 (笑)よくできすぎてるなぁ。
中沢 もともと、
インディアンなんてなかったんです。
タモリ マンモス獲りつくすといっても、
ものすごいマンモスの数がいたわけでしょ?
中沢 そうそう。
食いつづけた。
タモリ 食いつづけたんですか……。
中沢 マンモスの死体の場所なんか見ると、
けっこう荒い食いかたしてるんです。
おいしいとこだけ食ったり、
穴に追いこんで全滅させて
ちょっとしか食わないとか。
タモリ (笑)穴に追いこむの、
なんか、絵で見たよね。
糸井 (笑)沼地に追いこんで
歩けなくするっていうの、
NHKでやってた。おもしろかったなぁ。
タモリ ……もう、食うというより、
半分、レジャーでやってたんですか?
糸井
(笑)
中沢
(笑)
ご先祖さまに対して、
言いたくはないけど。
糸井 (笑)おもしろくなっちゃったことは
確かだろうね。
中沢 確かだろうけどね──。
タモリ 絶対、
おもしろくなったんだろうなぁ。
糸井 「俺のほうが狩りがうまい」
「こうしてやれば、いいぞ」
中沢 南米の端まで行って、
岬に立ってみて、
呆然としたと思いますよ。
糸井 先がない!(笑)
中沢 マンモスもいない!(笑)
タモリ しかも寒いじゃねえか!(笑)
中沢 寒い!
ペンギンもいる……
タモリ 寒さをイヤがった連中は
愕然としたろうねえ……。
糸井 (笑)タモリさん、
「寒さ」に関しては
ほんとにイヤみたいだね。
中沢 それが、マンモスの反省なんです。
糸井 たしかに、
「生き物を無闇に殺しちゃいけない」
なんて、いきなり思うはずないよね。
中沢 アメリカインディアンは
極端に自然を大切にします。
糸井 「俺たち、食いつくして
 いい気になってた」と……。
中沢 北米から南米まで、
三〇〇年から四〇〇年。
山あり谷ありのすごい地形を
徒歩で岬に立っちゃったわけ。

タモリさんがさっきいってた
「途中で残っていく連中」は、
最初はカリフォルニアあたりらしいです。
あそこがいちばん古い連中みたいですね。
糸井 カリフォルニアも
ちょっと東京みたいにあやしい場所だね。
中沢
あやしい。
出た土器は縄文土器にかなり近いという……。
不思議な話ですね。原因はわからないらしい。
糸井 三〇〇年、
四〇〇年って
短いですよねえ。
あっというまだよなぁ。

ドロンズでさえ
一年ぐらいかかってるんだからね。
中沢 (笑)なんでドロンズの話が。
糸井 いや、それはつくづく思うよ。
短いなぁ!

(明日に、つづきます)

2005-09-20-TUE
 

(C)Hobo Nikkan Itoi Shinbun