バフンウニの嘆き。  Nageki Of Bahun-uni


名称 死に体(しにたい)
分野 スポーツ
種目 大相撲
意味 勝負は決していないが、
体勢が完全に崩れていて
回復、挽回、逆転するのが
不可能な状態。
嘆きその36 死に体

ああああ‥‥もうダメだ‥‥負けた‥‥
コンマ数秒後‥‥私は這いつくばる‥‥
──ハイ! ここでストップ!
世界の時間をピタリと止めて、
いま、まさに、負けゆく私の、
この状態が、いわゆる「死に体」。
ほらほら、見て、見て、もうダメでしょう?
完全に体勢が崩れて、勝ち目がないでしょう?
がんばっても、ふんばっても、
回復も逆転も、まず不可能でしょう?
そんな、「いまこの瞬間」を、
お相撲の世界では「死に体」というのです。
いや、わかりますよ、わかります。
誰がどう見たって、私は負けますよ。
でもね、ちょっといいですか。
その、「死に体」という言い方は、
どうなんでしょうね?
あの、なんていうか、
率直にいって、縁起が悪いというか、
人格を無視されているというか、
「そこまで言わなくてもいいんじゃない?」
っていう感じがしませんか?
なんか、悪口みたいじゃないですか?
その、もうちょっと奥ゆかしい表現でも
いいんじゃないかな、みたいな。
あの! 私だってね! がんばってるんです!
めちゃめちゃがんばってるんです!
たしかに、もう、勝つ可能性はないですけど、
ほんとにほんとになんとかならないのか、
もう、絶対に無理なのか、ダメなのかって、
ほぼ負けている状態でありながらも、
めちゃめちゃ必死でがんばってるんです!
いや、負けますよ? わかってますよ。
幸い、いまは世界の時間が止まってますから
こうしてあれこれしゃべってますけど、
ひとたび、時計の針が動き出したら、
必ず負けます。ぺしゃんこです。ぐうと言います。
でもね、この目を見てください!
体勢は完全に崩れていても、目は死んでない!
だから、競技の安全性も考慮して、
敗北扱いするのはわかりますけど、
その「死に体」という呼び名だけは、
なんとかしていただきたいなと、
それだけ、お伝えしたかったんです。
はい、すっきりしました。ありがとうございます。
‥‥よし! じゃ、お願いします!
時間を再び動かしてください!
──あ。
ばったり。
「馬糞海、これで初日から6連敗です」
「相撲が淡泊ですね」


(つぎなる嘆きへつづく)

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2010-09-07-TUE