NAGATA
怪録テレコマン!
hiromixの次に、
永田ソフトの時代が来るか来ないか?!

第10回 コンサートに出掛けた

オアシスというイギリスのロックバンドがいて、
横浜アリーナでコンサートをやるというので見に行った。

平日だったので仕事を前後に押しやって、
夕方とりあえず電車に乗った。
初めて行く横浜アリーナは新横浜にあるという。

駅に着くと寒い中、例によってダフ屋である。
今日も彼らはいつもの不思議な決まり文句を叫んでいる。
「ないならあるよ、あるなら買うよ!」
いつ聞いても不思議な日本語だ。
日本語なのに和訳したくなるような日本語だ。
「あなたがもしチケットを持っていないとすれば、
 あなたの必要なチケットがここにあります。
 ひいては私のチケットを売ってあげましょう。
 あなたがもしチケットを持っていて、
 ついでにそこに余分なチケットまであるのだとすれば、
 私はそれを買い上げることもやぶさかではないですよ」
てな感じだろうか。
英訳するとどうなるのだろうか。

どこから集まるのか会場に近づくにつれて道は混雑。
奇妙なグッズを売る外人たち。
にしても、地べたにTシャツを直接広げて
「オフィシャル! オフィシャル!」
もないもんだ。

さて、横浜アリーナが見えてきた。
入り口が近づくにつれて、
テレコマンはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべ始める。
なぜなら彼には昨日ひらめいた計画があるのだ。

コンサートの入り口では通常何が行われるだろうか。
チケットを渡し、半券を受け取って会場に入るその瞬間。
そう、カメラチェックである。
「荷物をお持ちのかたは中身を拝見しまーす」
という例のあれである。
そこではコンサートを記録する可能性のあるものは
一時的に主催者側に没収されるのである。
つまり、カメラや録音機材。

録音機材?

賢明な読者諸君ならお気づきのことと思う。
そう、テレコマンはつねにテレコを持ち歩いている。
その愛すべきTCS-60は、
シャレのわからないカタブツ係員によって
取り上げられてしまうに違いない!

予想しうる流れとしてはこうである。
チケットを取り出すテレコマン。
半券をもらい、会場に入ろうとするテレコマン。
そこへ屈強な係員が登場。
「あー、チミチミ」ってな感じでカメラチェック。
おどおどとバッグを開けるテレコマン。
なんとそこにはテレコが鎮座ましましている。
「没収!」
丸太のような腕で荒々しくテレコを取り上げる係員。
「ああ、なんということだ」
がっくりと膝をおとすテレコマン。

いかがだろうか。
魅力的な企画とはいえないだろうか。
テレコを取り上げられたテレコマンだなんて、
ウルトラアイを失った
モロボシ・ダンのようじゃないだろうか。

その後どうなるかは知ったこっちゃない。
その場で、もしくはコンサート後の返却時に、
係員とのやり取りを記録できればOK。

そんな感じで僕は
横浜アリーナ入り口の階段を上っていったわけだ。

入り口付近の混雑の中で、
僕はそっとバッグを開けて中をチェックする。
さりげなくテレコを見つかりやすい位置に移動させる。
用意周到である。
腹黒きかな、テレコマン。
気分はもはや悪代官かな、テレコマン。

列がゆっくりと進んでいく。
僕はチケットを取り出す。
僕の番が来た。
チケットを渡す。
もぎりの兄ちゃんが半券を切り取る。

なぜかドッキドッキしてるテレコマン。

会場に一歩入る。
「荷物チェックにご協力くださーい!」
来たぜ。
長机が並べられたチェック用の通路。
僕は係員の前に差し掛かる。
僕をピンチに陥れることになるであろう彼は、
予想したよりもずいぶん貧弱な兄ちゃんだ。
ちょいと役不足だが、まあいい。

彼は言う。
「お荷物拝見します」
待ってました。

僕は、おどおどするどころか浮き浮きして
バッグのチャックを開ける。
すると、目に見えて貧弱な兄ちゃんの表情が変わった。
「これは・・・」
貧弱な兄ちゃんがテレコを触って確かめながら言う。
「これは、録音機能はありますか?」
ほう、なるほど。
再生専用なら持ち込んでもかまわないというわけだ。
お客さんに失礼に当たらないよう、
一応確認するというわけだな。
ていうか、見ればわかるだろう。
テレコだよ、それは。
テープレコーダーだよ、それは。
テ・レ・コ・だ・よ、それは。

「録音機能はありますか?」と慇懃無礼に質問する
貧弱な兄ちゃんに向かって、僕は堂々と、
胸を張って答えた。
「はい!」
「それでは、お通りください」
・・・え?

貧弱な兄ちゃんは手にしたテレコをバッグに戻し、
ご丁寧にチャックを閉めた。
いや、そうじゃなくて。
混乱した僕は、その不正な行為について抗議しようとした。
だがしかし、何がどう不正なのだ?
でも、貧弱な兄ちゃんは明らかに間違っているのだ。
しかし、その間違いをどう指摘すればいいのだ。
呆然と立ちつくすテレコマン。
そして、当然のことながら、入り口に押し寄せる人の波。
「あの、あの」とわけのわからない言葉を口にしながら
人混みに押されて無事会場入りしてしまうテレコマン。
気づけばホールのロビーに立っていた。

冷静に考えてみると、
失敗の原因は僕のキラキラと輝く純粋な瞳にあった。
きっと、おどおどしながら
「いや、あの、これは、録音っていうか・・・」
みたいに口ごもれば、
貧弱な兄ちゃんはテレコを没収してくれたのだろう。
貧弱といえども職務を遂行してくれたのだろう。
テレコマンは悪代官になることができたのだろう。
だがしかし。
待ってましたとばかりに「はい!」と即答した愚かさよ。
無垢なり、テレコマン。
童心なり、テレコマン。
獲らぬ狸の皮算用なり、テレコマン。

というわけで、軽く逆ギレした僕は、
手ぶらで帰るわけにもいかず会場内で録音することにした。
といっても、演奏曲などを録音するのは、
アーティストに無礼にあたると思い、
登場時のMCだけを録音することにした。

横浜アリーナ、午後8時、
照れ隠しにテレコマンは魔法のスイッチを押すのさ。

リアム・ギャラガー  Hello!!

永田        いえ〜い。

綿密に立てた計画ほど、
思わぬところで失敗するものですね。

2000/02/29    新横浜

2000-03-17-FRI

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