80's
80代からのインターネット入門。
前橋の母Aが、Eメールで原稿を
送ってくるまでの物語。

第6章 もう2度目のレッスン(3)


10日くらいの毎日連載を続けて、
その後は、週に1回か2回のペースにしようと思っていたが
もう、一気に2週間過ぎてしまっている。
なんのせいか? 
読者のせいである。毎日、待っていてくれるからだ。
ありがたいことである。
毎日連続の連載はキツイけれど、
もう、こうなったら、がんばるよ。
しばらくこの毎日連載を続けます。

さぁ、ちょっとドラマチックな本日のレポート。
『奇跡の人』のへレ・ンケラーがさー、
"Water" と叫んだ瞬間の感動が、ここにある!
といっても、どんな人もこの瞬間を経験して、
いま、パソコンを使えるようになったわけですが。

では、母Aの質問の続きからお読みください。


「あと、これなんですが・・・
[名称未設定ファイル]って何なんでしょう」
多少さっぱりしたデスクトップに
新たな邪魔者を発見されたようだ。

ゴミ箱近くに無造作に置かれているそのファイル、
実は私も気になっていた。
どう見てもクラリスワークスのファイルである。
とにかく中を覗いてみよう。
ダブルクリックしていただいた。
ファイルが開くや否や「あっら〜〜っ!!」
お母上A、頬を赤らめ、びっくり仰天。
ケラケラ大笑い。たぶん涙目。

『私の名前はみーちゃんです。
80の手習いでパソコンの勉強を始めました。
まだ何もよくわかりませんが頑張ります。
そのうち皆さんのところにもみーちゃんからの
メールが届くかもしれませんよ』

一同、大受け。大笑い。大喜び。
いつのまにか、ちゃっかりと、こんな作業を・・・!(笑)

上の文章、私が暗記しきれなかったため、一部のみの引用。
実際のものはもう少し長い、かなりの名文である。

お母上A、恥ずかしそうにしながらも、笑い続ける。
「いやだわぁ〜、これ、
保存なんてしたつもり、ないんですよぉ」
ところが、実際、保存されていたわけだ。謎。
しかし、こちらにとっては感動的なお母上Aの「誤算」。
しめしめ。

では、どのように、その「誤算」が生じたのか。
ちょっと興味深い。
「保存なんてしなくていいわ」と思い、
ファイルを閉じようとした。
そうすると、当然、『保存しますか?』との警告が出る。
そこで、運よく「保存」ボタンを
押してしまったとしか考えられない。
慎重そうなお母上Aが、間違ってそこを押す?
微妙なところだが。

地味な「保存しない」ボタンより、
そりゃあ「保存」ボタンの方が派手だ。
なにしろ「押してくれ」と言わんばかりに、
二重の枠で囲まれている。
無意識のうちに、まんまとそっちに誘導されて
クリックしちゃったのか。
突然の来客にでも焦って、
どこでもかまわず押してみたのか。謎だ。

でも、どこかでこの保存ボタンをクリックしたはずなのだ。
もし、これが無意識の中での行動だったとしたら、
やはり、あの二重枠の意味は大きいということである。
いつでも、安全な方へ、安全な方へと
誘導しようとしてくれるMacは人間思い。
お陰で、貴重な「みーちゃん」のワープロ処女作を
読むことができたのだ。

でも、想像は続く。
このファイル、実は最初から保存するつもりで保存され、
でも、どこに保存されたのかはわからない。
そして、お母上A、この日まで、
このことをすっかり忘れていただけ。
ま、そんな推理もできそうだが。
それとも、けっこう確信犯? まさか!(笑)
あ、「名探偵コナン」じゃないのだから。
余計な推理ばかりもしてられない。

書き忘れるところだったが、
この[名称未設定ファイル]に名前が付いた。
「みーちゃんのファイル」だが
「みーちゃん」じゃなくて
「ミーちゃん」に変えたいとの希望。
カタカナへの変換のしかたをお教えしながら
名称を変更する。
「ミーちゃんのファイル」これでオーケー。
ついでにファイルを赤く色づけした。
これでばっちり、すぐわかる。
きっと続きを書いてくださることだろう。

また、この
「実は保存されていたミーちゃんのファイル事件」の際に、
覚えていただいたことがもう一つある。
「ファイル」→「情報を見る」である。
「ここを見れば、ミーちゃんのファイルが
いつ作られたものなのかがわかってしまうんですよぉ」
と言うと驚きの表情。

一同、 声をそろえて
「作成日」「修正日」を読み上げ、爆笑。
「そんなことまで覚えてるなんて、賢いのねー!
ばれちゃうのねぇ!」
お母上A、びっくり、どっきり。
ちなみに、この「情報を見る」とは、
インターネットで天気情報などを
調べるのに使うものだとお思いだったとか。なるほど。

さて、お母上A、もう一つ気になるものを
デスクトップ上でご指摘。
「クラリスワークスのエイリアス」であった。
そう、先日のレッスンで、
私が置き土産として作っておいたものである。


ね。『奇跡の人』でしょう?
新しい自分が産声をあげた瞬間のドラマが、
こんなふうに自然に生まれていたんですよ。
でも、80歳になってからもう一度産声をあげるなんて、
自分の母ながら、「よっ!」と、
かけ声をかけたくなりました。

『私の名前はみーちゃんです。
80の手習いでパソコンの勉強を始めました。
まだ何もよくわかりませんが頑張ります。
そのうち皆さんのところにもみーちゃんからの
メールが届くかもしれませんよ』

ぼくは、50歳になって、
母の新しい産声を聞くことになって、
ほんとうに幸せ者だと思った。
「何もよくわかりませんががんばります」
と、80歳になっても言える母を、立派だと思った。

(で、さらに明日につづく)

1999-06-28-MON

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