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ホストに訊く語録・総集編!

第1回 まず自分をわかっちゃおうよ!

糸井 繁華街歩いてると、若い男の子が
いっぱい歩いてるのを見るじゃないですか。
あれが結局なんのために歩いてるんだろうと思ったら、
要するに、ナンパですよね。
零士 もちろんそうですよね。
だいたいふたりで組んで。
糸井 そうそうそう、とくに渋谷とか新宿とか。
あれ見てると、
モテることを商売としてやっている
ホストとか、タレントとかと、
街歩いてる男の子ってのは、
あまり区別がないと思うんですよ。
どんどん同じになってくる。
零士 逆にそいつらのほうが
イケちゃってる場合もあるし。
あれ〜スカウトかなぁ? なんて見てると、
ただ普通に意味もなく歩いてて、
で、女の子がきたら声かけて、っていうね。
糸井 そうそう。
で、逆に言うとタレントさんは、
街歩いてる男の子たちをマネしてというか、
取り入れてる部分がありますよね。
ホストさんという商売も、
俺たちが昔知ってた……、
さっき冗談で言ってたんだけど、
ラメ入りのガウン着て(笑)、
という姿とはちがって、
変化してきてると思うんです。
零士 本当は今日僕は
“それ”で登場しようとしたんですよ。
やっぱ白のガウンにね、片手にワイングラス。
糸井 犬飼ってたりして。
零士 ペルシャ猫ですね。
糸井 ああ(笑)。
そういうイメージでホストという職業を
見てた部分があるんだけど、
たぶんそうじゃなくなってるんだろうなぁと。

今は、たとえば
テレビ局でディレクターやってるけど、
一時期ホストやってた人とか、
けっこういるんらしいんですよ、あちこちに。
零士 いや、けっこういるんですよ。
あと“自称”ね。
“自称”もいるんですよ。
スナックでバイトしてた人がね、
「いや、俺実はホストでさぁ、
 店の名前は言えないけど」
とかって言っちゃってるやつ。
糸井 で、驚くのは、
「ホストやってました」というのが、
男が見栄をはれるネタになってるわけですよ。
昔だったら考えられないですよね。

結局は、ホストっていう名前が抵抗感があるだけで、
モテちゃうことを職業にするという商売に
若い男って、なりたいんじゃないか、と……。
零士 元ホストっていうことが、
ちゃんとした形容詞になってますよね。

ただ、僕がいつも思ってるのは、
ホストって……僕はべつに
ホストにコンプレックスは
もってないですけどね、ただ
「ホスト、イコール、ずるい、きたない、こわい、
 あやしい、だまされそう……」
そういうイメージあるじゃないですか。
でも、ホストやってる本人、やろうと志してる人は、
スチュワーデスの男版みたいな感じでね、
パイロットみたいに、女性を操縦してやろうという、
そういうイメージがあるんですよね。
それが一般的には
今まで約30年くらいの歴史の中で……。
糸井 ホストの歴史って30年くらいなんですか?
零士 やっぱ30年か40年くらいじゃないですかね。
糸井 いちばん古くからやってる
ホストさんというのは今何歳くらい……?
零士 いや、まだ現役がいますよ。
当時からの現役の方ですよね。
20歳からやってて、今55歳とか。
糸井 いるんだ!
零士 いるんですよ。
で、そういう人は必ず黒いんですよ、日焼けして。
糸井 ゴルファーみたいな感じ?
零士 ええ、そういう感じですね。
オールバックで、服に多少ラメ入ってて、
で、鎖のアクセサリーびっちりして、太いのを。
カフスのとこもとがっちゃって、襟も大ォくて、
みたいな、そういう人が現役でいるんですよ。
で、かっこいいんですよ。
やっぱ、かっこいいんですよ。
糸井 様式美だよね、一種の。
零士 よく訊かれるのは、
「ホストは顔ですか?」っていうから、
いや、「顔じゃないよ、嗅覚だよ」と。
糸井 嗅覚!! さっそく出ましたねぇー。
太字でテロップ出したいくらいですね。
「顔じゃない、嗅覚だ!」って(笑)。
糸井 あの……零士さんがホストを始めた頃というのは、
まだオールバックの世界だったんですか?
零士 だったですね。
糸井 その頃は、自分としては異色だったんですか?
零士 僕が、ですか?
糸井 うん。
零士 僕がホストを始めたのは、ちょうど、
少年隊の東山くんが出てきたくらいのときです。
僕が入ったときは、くっきり二重の、
濃ゆ〜い顔の、羽賀ケンジばりの、
ああいった感じの顔がホストとしては
「ああー、いい男だ!」っていう感じでした。
世間一般でもそう思われていたけど、
その頃、「しょうゆ顔だ」なんていうような、
そういう言葉が出てきた時期がありましたよね。
糸井 あ、顔の流行があるんですか?
零士 あるんですよ。
ただ、どの時代の顔も、
当時いいとされたものは、
当時の映像を見れば
「かっこいいな!」って思いますね。
だから、その時代、
その時代のよさを追求してるだけで、
あのときは、そういう顔が……。
「ちょっとあっさり系だね」って言われるのは、
その前の時代はほめ言葉じゃなかったのに、
「あっさり系」が
ほめ言葉になっちゃった時代ですよ。
十何年前ですね。
そっから僕が出てきたんですよ、グーッと。
糸井 じゃあ、零士さんは当時、しょうゆ顔として
デビューしたんですか?
零士 そうですね。そんな感じです。
で、妙にやたら腰が低いとかね(笑)。
糸井 (笑)腰が低い!
それまでは、ホストは腰が高かったんですか?
零士 えーっとですね……
出会って次の日には
“おまえ”と呼んでる、みたいな、女性に対して。
演歌っぽいんですよ。
ブルースっぽいんですよ(笑)。

照明は暗くって、ランプにぽーっと灯がついてて、
で、トイレ行くと妙に明るい蛍光灯がついてて、
で、その……張り紙があるんですよ。
「お客様とは、出会ってからすぐに
 おまえと呼べる仲になれ!  社長より」
「怖ぇ〜」と思いながら……。
そーゆーことが従業員用のトイレに貼ってあるんです。
それを店のホスト100人が読んでるわけですから。
100人いますからね、当時僕がいた店は。
糸井 自分はそのとき、
「やっていけないかもしれない」とか思わなかった?
零士 いや、「なに言ってんだろ?」と。
ちがうと思いましたね。
糸井 でも、お客さんもホストから
「おまえ」と呼ばれたくて
来てた時代なんですか?
零士 来てた時代なんです。
だから、僕なんかは、
「ものたりない」って言われましたよ、当時は。
「さっぱりしすぎだ」って。
糸井 じゃ、「おまえ」と呼ぶことの
裏目を行ったわけですよね?
零士 僕は、裏目に行きましたね。
意識的にそっちに行きましたね。
で、店にいい先輩、
かっこいい先輩がいるわけですよ。
今回も読者からいろんな質問受けてますけど、
僕も同じような疑問があって……、
田舎ではそこそこ自信もあったわけですけどね。
糸井 田舎でモテてたの? すでに。
零士 僕ねぇ……あのこれ、
誰でもあると思うんですけど、
好きな女の子っていじめちゃうじゃないですか。
たぶん僕はサディストだと思うんですけどね、
いじめがひどくて……その子のこと好きすぎて。
その子がイスに座るときに
画鋲ピュッって置いちゃったり……。
糸井 それ、愛じゃないねぇ、ぜんぜん(笑)。
零士 そうなんですよ(笑)。
それを愛だと自分で勘違いしてたんですよ。
「オレは愛してるんだ〜!」って(笑)。
で、向こうのお母さんも
めちゃくちゃ怒ってるわけですよ、
「なにアンタんちの息子は!」って怒鳴りこんできて。
でも、
「いや、オレは愛してるんだ、あの女を」
なーんて思いながら……小学生のときですね(笑)。
そんな感じだったんですよ。
あとは、やっぱりこう、すごい仲間意識が強くて。
友達と、向こう2人で、こっち2人で、
ダブルデートで、
友達がフラれちゃったりするんですよ。
すると、俺も一緒になって、
「俺もやめるよ……」って言ってる自分を
かっこいいと思ってたんですよ。
「俺ってかっこいいなー!」って。
連れを裏切れないなぁー、っていう。
そういう仲間意識はすっごい強かったですよ。
糸井 じゃ、その当時はモテてる実感はなかったんですか?
零士 ……あんまりなかったですね。
高校生になってからですね。
僕のときはちょうど“ヤンキー”の時代ですからね。
ヤンキーなんてのが流行ってて。
で、その、金八先生なんかで、
学校のガラス割ってどうのこうのと、
そういう時代ですから(笑)。

ヤンキーとか、金八先生のころが高校時代で、
で、高校生になったときに、
僕、昼がお弁当だったんですよ。
学校に弁当持っていってて。
でも弁当って、2時間目くらいに食べちゃうんですよ、
もう腹へってへって。
その当時から規則正しい生活は
してないですから、基本的には。
で、なんか机の上に
弁当が1個ずつのって来るんですよ。
最初わかんなくて、なんだろ? と思って、
「ま、いいや、食っちまえ」なんて。
で、野球部の連中なんかは、
もうめちゃめちゃ腹へってるわけですよ。
糸井 零士さん、野球部だったんですか?
零士 いえ、僕はちがうんですけど、
野球部のやつらが腹へらしてるわけですよ。
野球部の連中は朝から練習してますから。
で、「この弁当、今日はいらねぇ」とかって
連中にあげると、「いただきます!」って食べちゃう。
で、パッって見ると、向こうで、女が、
こっちをチラチラ見てるんですよ。

それが何人もいるんですよ。5人も、6人も……。
「これはいったいなんなんだ?」って友達に訊いたら、
「いや、なんかおまえのファンが、
 弁当、毎日作ってるらしいよ」って。
で、ちゃんとそういう女の子の間で協定があって、
今日はだれだれの弁当を食べた、っていうのを
競ってるらしいんですよ。
「だから、おまえ
 好きな弁当食べていいらしいよ」って
友達が教えてくたんですよ。
僕はぜんぶの弁当の中身を見て、
それで「これ!」って選ぶ。

で、自分がおいしいと思って食べる弁当は、
だいたいどの子が作ったのか決まってるんですよ。
糸井 弁当のうまさと、
弁当をもってきた女の子への
“好きさ”は比例しないの?
零士 反比例してましたね。
弁当のうまい子は
あんまり好きじゃない。
もーのすごい、イケてないんですよ。
そんなもんですよ。
当時「ひょうきん族」に出てた
片岡鶴太郎さんに似てる女の子でね、
今でも覚えてますよ。
弁当、めちゃくちゃうまいんですよ。

弱ってたんですよぉ。
で、そのとなりに、すっごくきれいな子が
いっつも一緒にいるんですよ。
僕らのマドンナ的な女の子です。
僕はその女の子に
声をかけて……フラれました(笑)。
で、その子もやっぱり「友達にわるいから」って。
糸井 じゃあ思うようにはならないんだ?
それだけモテても……弁当がくるだけなんだ?
高校生だった頃、弁当がきちゃう原因って、
今から思えば、なんだったの?
高校生でそんなやつはあんまりいないでしょー?
零士 ……当時ですよね。
今、分析するとですねぇ……たぶん……、
“いい意味で調子よかった”んでしょうね。

友達をつくるのがうまかったんでしょうね。
ガガガガーっとこう派閥をつくってくというか。
友だちめちゃくちゃ多かったですよ、僕は。
首つっこんでいくほうですね。
友達が騒いでると、時代劇の岡っ引きみたいにね、
「おーっ、どうした、どうした、どうしたぁ〜!」
みたいなね(笑)。
もう必ず首つっこんじゃうんだよね。
小さなことを、大きくしちゃったりして(笑)。
で、自分でおさめたりして(笑)。
ボヤに自分で油そそいじゃって、
「たいへんだ、たいへんだぁ〜!」つって、
こんどは水バーッってかけて火を消して、
「どーだぁ!」ってタイプですね(笑)。
糸井 事件をつくっていくタイプ(笑)。
で、その事件のなかで
印象にのこるのは自分だったと?
零士 「いやぁ〜、
 見事な火消しだったらしいよ、あの人は」
って、伝説になってるんですよね。
糸井 はぁ〜。
それ、場所はどこなんですか?
零士 静岡なんですよ。
糸井 気候の温暖な。
零士 そうなんですよー、静岡ですよー。
で、みんなぼーっとしてるんですよー。
で、いい人ばっかりなんですよね。
そこに、そういうことばっかり考えてるやつが
いたんですよね。
あと、男である以上、女にモテたいと思うのは
あたりまえですからね。
じゃなかったら異常ですよね。
だって、ぜったい、モテるって必要ですよ。
モテたいと思うから、いろんなこと、面白いこと、
くだらないこと、考えるわけですよやっぱり。
糸井 高校の頃にはもう戦略を練ってたんですか?
零士 練ってましたね。中学から練ってましたね。
「なんか、こういう時って、女って、
 こういうこと考えてんだろうな」とか、
「あの子意識して歩いてんだろうな、
 後ろ歩いてる俺が
 ずーっとなんかおしりのへん見てんのをぜったい
 意識してんだろうな」とか(笑)。
で、連れに実験させるんですよ。
「俺が合図したらその子の前から歩いてこい」って。
どういう顔して歩いてるか前から見てくれ、と。
目に出るじゃないですか。
そういうこと考えてたんですよ、いつも。
で、そういうことを友達に教えてたんですよ、延々と。
駄菓子屋でおでん食いながら。
へんな高校生だったんですよ。

僕ナンパはあんまりしなかったんですよ。
だから、自分のことをよくわかってなければ、
きっと無駄なんだなと思うんですよ。
小さな街ですけど、駅の前にね、みんなこうやって
うんこ座りして、タバコふかして、っていうことは
無駄だと思ってました。時間の無駄。
だったら、夕方、女子高生が帰る時間だけ、
お約束のようにあらわれて、あとは
とっとと帰ったほうがいいじゃない、と。
そういうことを考えてました。
糸井 じゃあもう高校時代には、
「将来モテ職業に入るかなぁ」って気は
あったんですか?
何になりたかったんですか、当時は?
零士 僕はね……水商売に早くから入っちゃったんですよ。
糸井 何歳くらいで?
零士 えー、17。
17歳でもう入っちゃいました。静岡で。
友達のお母さんが経営してる居酒屋が、
パブを始めるって話だったんですよ。
で、そこの息子が……、
これがなかなかいい男なんですよ、
……あの、何人かで、男の子だけでやろうよ、と。
もともとそのお母さんが具合悪くて倒れちゃって、
じゃあ居酒屋を改装してお店新しくするからって話で。
ま、ちっちゃい店ですよ。
そこに仲のいい友達5人くらい集まって、
やってたんですよ。

ええ、17、18くらいのやつらがやってたんですよ。
そしたら、今まで居酒屋だったその店が……、
田舎って土曜日も仕事なんですよ、
ヤマハの工場とかにみんな勤めてて、
白いミラかなんかに乗って職場に通ってて、
で、ピンクのハートを吸盤でフロントガラスに
貼ってるような女の子たちが、
もう、ものすっごい来たんですよ。
街中のお姉ちゃんが、そのちっちゃな店に来た。
なんかその……会いたくて来るんですよ。
なんかねぇ、たぶん、チャンネルとか、周波数とか
相手に合わせるのがうまかったんでしょうね。
で、女の子からしたら、
会話してても周波数合わせてくれる人が
職場とかにはいないんじゃないですか。
で、ある女の子ひとりが、
「あの店行くと、よくしてくれるよ、おもしろいよ」って。
糸井 「よくしてくれるよ、おもしろいよ」
ってまた字幕、ちょっとほしいですね。
零士 で、なんにもよくなんかしてないんですけどね。
当時はね、焼酎ですね。
黒に黄色のトライアングルが流行ってて、
“25”かなんかビンに書いてあるやつですね。
それにレモンサワー入れて、
チューハイってやつですね、
あれがすごく流行ってましたね。
で、ちょっと僕らがやさしく、
「酔ってない?」とか、「大丈夫?」とか、
そんなこと声かけるだけでいいんですよ。
「あー! 今日もかわいいねぇー、あいかわらずー」
なんて。
そんなこと言うだけで、お姉ちゃん、
よろこんじゃうんですよ。

だから……いつも考えてたんでしょうね、
女のことばっかり。いっつも。
「こういうこと言ったらどう思うのかな?」とか、
「どういう反応示すのかな?」とか、
「俺がしゃべってるの横で見といて」とか
友達にたのむんですよ。
友達にチェックさせるんですよ。

で、僕あんまり目線はずさないじゃないですか。
で、コトバ切るときだけ、スッとはずして。
研究してたんですよぉ!
だから、いつも鏡見ながら「あのさぁ」とか、
「俺さぁ」とかって、必ずやってたんですよ。
糸井 野球の選手が
部屋に帰って、素振りするみたいだねぇ。
零士 それと同じですよ。
長嶋さんみたいに、
「バットの振りでわかるんだ」みたいな、
「俺にしかわからない感覚があるんだ」
と思ってたんです。

ただ、認められるには、これじゃいけない、と。
ちょっと言い方わるいですけど、
簡単、とか、ちょろいな、って思ってて、
このままだと“井の中の蛙”になるな……と。
そういう危険性が大だと思って。
糸井 あー、そこに満足してられないわけだ。
零士 ええ。
それで、東京の専門学校に行った友達が、
お盆休みで夏に帰ってくるわけですよ。静岡に。
そうすると例の駄菓子屋に集まるんですよ。
「すぎのや」って言うんですけど。
で、ガキの頃から集まる場所で、
おでんとかき氷を食いながら、
「東京はこうでな、ああでな」って話きくと、
「本当かそれ!?」
「すごいんだよ、オマエのやってることが
 カネになるところがあるんだよ」って。
いや、俺はカネはどーでもいいけど、
そこを制覇したい、って。
糸井 つまり、
「オマエ今のまんまでも、
 やってることがぜんぶカネになるぞ」と?
零士 そうです。
で、そいつが……、
幼稚園から一緒の友達なんですけど、
「オマエはこのままだと、アキラのようになる」
って言うんですよ。

当時、アキラって映画があって。
「このままだとオマエ、アキラになっちゃう」
って友だちが言うんですよ。
糸井 大友克洋の「アキラ」?
ボッカーンってやつだ?
零士 そうです、そうです。
「オマエ田舎で浮きすぎてるから、
 このままだと、
 どんどんどんどん膨らんで、
 最後は爆発してなくなっちゃうよ。
 それを受け止められるのは
 都会しかないよ」って。
“都会”ですからね……トカイ(笑)。
糸井 いや、わかる。
クリスタルキングの
「大都会」って歌あったでしょ。
あの大都会って、福岡のことだっていうからね。
あの歌は福岡を歌ってるんだって。
それに近いですよね。
零士 だから、これはもう都会に出るしかない、と。
糸井 都会はその大爆発を
受け止めるだけのものがあると?
零士 僕はそう聞いたんですよ。
で、「俺、大丈夫か?」って。
そしたら、
「オマエ、ぜんぜん、
 そのまんまでイケる」って。

自信、ぜんぜんないですよ。
だって、知らないですよ、
都会に行ったことないですから(笑)。
だから、都会行くにはバイクで……こう、族車で、
“えびぞり三段シート”なんてなってるやつで、
“煙突マフラー”で、
「これで都会、アルタ前行っちゃっていいのかなー?」
なんて思いながら(笑)。
糸井 族車で(笑)。
零士 連れに「ちょっと東京行こうよ!」って言っても、
「いや、ちょっと、
 たまご積んでるトラックしかない」
とかね(笑)。
たまご屋なんですよ、そいつ。
家が養鶏場で。
たまご積んでて、それをみっともないと思うより、
「そうか、たまご割れたらマズいなぁ……」って、
発想が(笑)。

「それじゃー、単車で行くかぁ!」
「いや、でもちょっと今、
 煙突マフラーが調子わるいから……」って。
それ、アルタ前で折れちゃったら、
もうねぇ(笑)。
「そーか、それ外しとけよ!」なんて。
そんなようなときですから。
それで、友達が、
「オマエそれじゃあ、沼津あたりで警察に捕まる」
って言うんですよ。
「捕まって、東京行けなくなるから」
「わかった……じゃあ電車で行こう……」
で、電車で行ったんですよ(笑)。
糸井 よかったねぇ、思い直して(笑)。
零士 それも鈍行かなんかで何時間もかけて行って。
カネもったいないから。
そしたら、いきなり、その……
今で言ったら「PIAA SPORTS」みたいな、
あんなような上下で東京に行っちゃって、
渋谷行ってもう、一発で気づいたんですよ。
「俺ら、ちがう意味で浮いてるよ……」って。
「これはマズい!」って。
あれで初めて気づくんですよ。
「……やばい」って。
最初はかっこいいと思うんですよ。
「だれもいねぇよ、こんなかっこしてるやつ」って。
糸井 だいたい二人組でしょ?
零士 俺も二人組で行ったんですよ。
で、そいつはちょっと当時のチェッカーズの
フミヤっぽかったんですよ。
「なんかオマエこれ軟派に見られるぞ、
 こんなかっこしてて。
 俺を見てみろ、バリっときめてんだから!」って、
とんがったクツはいちゃって、
底に鉄かなんか打っちゃってて、
カツカツ音させて火花飛ばしてて(笑)。
あったでしょ? そういう時代?
糸井 そういうやつが青山通りの歩道のないところを
よく渡ってるんだよ(笑)。
「俺にまかせろ!」みたいに。
零士 ひかれそうになっちゃったりして(笑)。
しかも迷ったタヌキが街に出てきちゃった感じで。
糸井 はじめて東京に来たとき、
リーゼントですか?
零士 リーゼントですね。
“クリームソーダ”ってクシ
ふところに入れて(笑)。
あったでしょ?
糸井 “ピンクドラゴン”とか。
零士 あー、ありましたねぇ!
そういう時代ですよ。
糸井 じゃあ、そこでは、静岡で通用してたものが、
「通用しないな……」って一回カベにぶち当たるの?
零士 あー、当たりましたね。
素直に認めましたね。
「あーダメだ!」って。
「俺はかんちがいしてたな」って。
ただ、それが財産だ、という感じで、
べつに恥ずかしくない。
俺は気づいたんだから、
これはこれでいいんだ、
と。
だって、服ないですから、買うカネもないですから。
で、金縁でうすーい茶色のサング宴Xかけて、
割と顔が小さめなのに、サングラスは妙にでかいんですよ。
糸井 カマキリみたいに。
零士 そうです、カマキリみたいで。
当時、僕、体重55キロしかなかったですから、
今65キロくらいありますけど、
当時はひょろひょろで。
糸井 あの……“武器”っていうとさ、
高校生が普通に考えることだと、
バンドやるか、スポーツやるか、
どっちかじゃないですか。
まあ勉強できるってのは、あんまりモテないよね。
で、零士さん、今の3つ、どれも関係ないじゃない。
そこが不思議だよねー。
零士 ぜんぜん関係なかったですね。
だから、いいと思ったら、
なんでも食いつくんでしょうね。

今思うと、あの時は、ちょっとこう、
顔が赤くまではならないけど、
バカだったなぁ……でも純粋だったなぁ。
本人は大まじめですから。
自信満々で東京に行って……。
今でも覚えてるのは、
渋谷のスクランブル交差点ありますよね、
あそこで、水色の上下のすっごい服着てたんですよ。
まるでダフ屋みたいな、かっこうしてたんですよ。
それも上下、水色の服ですよ!
白のとんがったクツに。
今思えば、あれでイケてると思ってたのが、
渋谷のスクランブル交差点を歩いてて、
周りをバーッと見渡した瞬間ですよ、
「ちがう……俺はちがう……やっちまった……」。
横にいた友達を見て、
こいつはイケてるんだ、と。

静岡に帰って、そのままそいつに
「どこで服かった?」って聞いて、
そのまんまその服屋行って、
自分なりにいろいろ訊くんですよ、
「実は、恥をかいた……、
 東京に行くのにナウいかっこうはどれだ?」って。
で、その店のお兄さんから教えてもらって、
シングルの三つボタンの茶系のジャケットに、パンツに、
スニーカーと革靴のまざった感じのクツをはいて、
かわいいっぽく、ブローチかなんかつけちゃったりして、
「ノータイで行ったほうがいいよ」なんて言われて。
で、初めてディスコに行ったんですよ。
まずは浜松で。
そして初めて、
「俺は標準にもどったんだな」と思った。
で、決めたんですよ、東京行こうって。
「もう大丈夫だ!」。
早かったです。
それでサーッと行ったんですよ。
糸井 東京にアテがあったんですか?
何をやるかという。
零士 その友達が教えてくれたんですよ。
やっぱホストのメッカは新宿で、
いちばんでかい店は「愛」だと。
糸井 モテるやつが、その才能をそのまま商売にするなら、
新宿に行って……。
零士 ええ。
で、いちばんでかい店に入ったほうがいいと。
糸井 え、じゃすぐ店に入っちゃったわけ!?
零士 すぐ面接行ったんですよ。
糸井 ほかの商売なんにもしないで、
いきなり「愛」なの?
零士 そうですよ。
ただ、まあ、
親父がレストランとか喫茶店やってたんで、
もともと料理好きだったんですよ。
だから外食産業やろうと思ってたんで、
自分でなんか料理したりするのは得意でしたよ。
実際やってましたから。
親父の店だけど、
自分で一生懸命やってましたね。
就職もしてましたよ。
自分ちの店からちゃんと給料もらって、
やってました。
糸井 じゃ、「愛」に入ったのは何歳くらいですか?
零士 19歳ですね。
糸井 つまり、17歳の高校生で、
机に弁当がじゃんじゃん積み重なってるところから、
約2年で、イメージチェンジして……「愛」。
零士 「愛」です。
糸井 19歳で「愛」に入ることに決めて、
さて……面接です。
零士 面接行きました。
そしたら、こう、僕ら男ですからね、
もう聞いてたんですよ、「甘くない!」って。
よく、女の人と、どうこうして、
次の日にはベンツで出勤して……とか、
そういうイメージで語られるけれども、
まさかそんなに甘くないだろうなってのは、
もうわかってましたよ。友達から聞いてて。
今でもそういうことを夢見て、
ウチの店に面接来る人もいますけど、
当時、僕は現実をよく知ってましたね。
「実際はそんなに甘くはない」と。
「ぜったいそうじゃない」と。
糸井 そんな甘いはずはないんだ……。
零士 100人近くいますから、お店に。
で、もう流れ作業的なんですよ、面接が。
「はいはい、あーそうですか、はいはい、
 じゃあ明日から1週間、電話番ね」って。
で、友達とふたりで店に入ったんですよ。
糸井 簡単に入れてくれたんだ?
零士 入れてくれるんですよ、簡単に。
まあ、そこそこでしたから、二人とも。
で、入って、電話番してるんですけど、
そのときって、よーく見えるんですよね。
糸井 電話番してるときに?
零士 電話番やってて、
電話を受けることによって見えるんです。
たとえば、零士にかかってきた電話なら、
周りの先輩に訊かなきゃならない、
「零士さんって誰ですか?」って。
で、お客さんの前まで行って、
「失礼します。零士さん3番にお電話入ってます!」
って取り次ぐと、
「あ、この人が零士さんなんだな」って
まず覚えるわけですよ。
糸井 電話番をしてる裏方仕事が、すごく得なんだ?
零士 やっぱ一応、そういう下積みをさせながら、
名前を覚えさせるんですよ。先輩たちの。
糸井 よくできてますねぇ、システムが。
零士 できてるんですよ。
そこで覚えのわるいやつもいれば、
覚えのいいやつもいるし。
そういう下積みしてる間に……、
100人いれば、やっぱり派閥があるんですよ。
球団みたいな感じで。

で、僕の派閥のお客さんには、
僕の派閥しかつかないんです。
当然、巨人のような派閥もあれば、
千葉ロッテみたいな派閥もあるし、
いろいろあるんです。
で、僕はたまたま巨人の派閥に
「おい、俺の派閥に入れ」って言われて。
派閥に入ったらもう、
店の仕事しなくていいんです、あんまり。
派閥の仕事をすればいいんです。
自分の派閥の先輩のクツを磨くとか。

組があるんです。
つまり、色分けされてるんですね。
で、やっぱりキャラクター似るんですよね。
自分が入った派閥の先輩を目指しますから。
糸井 あー、習っていくわけだ、だんだん。
その頃は、17歳のときに
教室の机に弁当が積まれていた頃のような自信は、
なくなってるんですか?
零士 僕はね、なかったですね。
自信がないっていうより、
覚えることがいっぱいあるんで、
覚えてから、
たぶんこの人たちと戦うんだろうな、と。
糸井 まだ試すことはできないわけだ?
零士 できないです。
わからないですから。
あのー、当時ね……
「人って3人集まれば、人間関係ができる」
っていつも僕は思ってたんです。
で、こいつらのトップにのし上がるには、
人をうまく区分けするというか、
こいつはこういうヤツだ、
あいつはこういいヤツだ、
こいつはツッパってるけど実際は弱いだろうなぁ、とか、
そういうことを、考えよう、と。
ずーっと、先輩のいいところを
マネして……その人が言ったギャグも、
面白いギャグだったらパクっちゃうんですよ。
で、別な先輩のいいところもパクっちゃう。
で、また別な先輩のいいところもパクっちゃう。
そしたら、俺はこの3人には絶対負けない。
3人にない最強のホストになるから。
要するに4番に座るわけですよね。
その時に思ったのは、この人たちの
欠点、長所をきっちり見分けて、
長所だけをパクるんです。


で、僕はナ塔oー1の人のグループ
(派閥)に拾ってもらったんですね。
で、その派閥も30人いましたから、
店で最大派閥なんですよ。
で、その派閥は
売れっ子のホストさんばっかりなんですよ。
で、そういうなかで、
僕がアイスペールを替えたりするんですよ。
アイスペールをわざと3つくらい抱えて、
やたらバンバン動いて。
そうすると目立つじゃないですか。

で、わざと、床が水で濡れてるっぽいところに
走っていって、ダンスフロアで、
床が大理石ですから、すべるんですよ。
わざとすべって転んで、もう大ひんしゅくですよ。
そうやって目立とうとするんですよ。

いっつもそうなんですよ、考えてんですよ。
僕がよく自分の下のやつに言うのは、
「自分を含めて、引いた画で見なさいよ。
 引いた画をイメージしなさい」
と。
僕はそういうふうに自分で思ってたから。
糸井 客観的に自分を背中から見られるようにするんだ。
零士 そうなんです。画的に。
つまり、自分は何をやってるんだ? と。
自分を後ろから見る着眼点を探すってことですね。

第2回 モテるやつは、タフでマメ。

2004-11-09-TUE

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