HOST
いっそあのホストに訊こう!

第8夜 友達裏切るのだけはやっちゃいけない

糸井 うーん……こうして聞いてると、
ここまでの話って、僕が30歳くらいのときに、
矢沢永吉の取材をしたときと共通点があるねぇ。
自分の視線ってのは
ぜったい自分の目からくるんだけど、
もう1つ俯瞰で見てる視線があるんですよね。
永ちゃんの話でも、似たようなところがあるんですよ。
地元の広島ではツッパってて、
俺はがんばるからな、と言って夜汽車で東京来た。
なんで夜汽車なのか? っていうと、
夜汽車のほうがネタになる、と。
「家出といったら夜汽車だろ」って思うんですよ。
ほかの理由ってないんですよ。
で、東京に着く前に横浜でおりた。
駅のベンチにいた。
これも、そのほうがさまになるから。
で、自分の目だけで自分を見てたら、
そんなふうにはならないですよ。
「自分がどう動いてるのかな?」っていうのを
もうひとりの自分が見てるんだろうね。
零士 そうなんですよね。
なんか並行してもう一発ついてきてるんですよ、必ず。
糸井 それはもう高校の頃、
17歳の弁当時代からあったんですか?
零士 ありましたねぇ。
中学の頃からありました。
A君はかっこよくてモテてるし、
スポーツ万能で、頭もいいし……、
でも、きっとアイツ(A君)は仲間を裏切って
村八分にされるだろうな、と。

で、俺はぜったいそうはならない。
いくら好きなお姉ちゃんができても
友達裏切っちゃいけない。
その気持ちがすっごい強かったですよ。
それやったらぜったい淋しくなっちゃう。
ま、今ほど明確には画にしてなかったですけど、
心に感じてたんですよね。
友達裏切るのだけはやっちゃいけない、それはダメだと。

実際、僕がそういうふうに思ってた人で、
いまだにつきあいのないヤツもいっぱいいます。
田舎に帰って、みんなでワーッと集まって、
「Aのヤツどうしたの?」って訊くと、
「いやさ、Bが婚約してた相手と別れたの
 知ってんだろ?」
「ああ、知ってる知ってる」
「なーんかAのヤツがつきあってたんだよ」
って、やっぱ昔と同じことやるわけですよ!
糸井 そういう人は零士さんから見ると、
自分を見る目がないってことですよね。
俯瞰から自分を見る目がないという。
零士 そりゃそうですね。
「やっぱりそういうヤツだな、Aはよぉ」って。
「昔から……そういえば中1のときそういうこと
 あったじゃんよぉ」って言うと、
「あった、あった、そんなことあったわ」と。
糸井 じゃ、話をまたもどして、
「愛」に入って、100人のなかで
アイスペール3つかかえて走って、
わざと転んで水こぼして、目立って……。
零士 そうすると、お客さんに必ず聞かれるんですよ。
先輩のところについて、水割り作って、
……まあ緊張してますよねぇ。
そうすると向こう(女性)から話してくるわけですよ。
「そういえばアンタさぁ、アイスペールひっくり返して
 先輩に怒られたでしょう?」って。
「そうなんですよぉ、やっちゃったんですよぉ、
 もう忙しくてぇ」なんて。
で、その時もそうやって話題ふってもらったら、
またわざとやるわけですよ。
アイスペールかかえる。
そうするとスーツが汚れるんですよね。
僕のスーツが汚れてるからって、
そのお客さんが、ほれてる先輩に言うわけですよ。
「ちょっと、零ちゃんにスーツ買ってあげていいかなぁ?」
「おお、いいよいいよ、零士、買ってもらえよ!」なんて。
「すいません、ごっちになります!」
そういう気持ちなんですよ。
糸井 まだ二十歳まえだよね?
なーんでわかってんだろうね?
零士 そういうことが見えてくると、たとえば、
そのお姉さんは、ほれてる先輩に、実際に
いいように操縦されちゃってんだろうなぁ、
って思いながら、
先輩がよろこぶいいヘルプができるんですよ。
「ちょっとさ、アタシさぁ、零ちゃんだから言うけど、
 今ちがう店の○○さんのとこ通ってるのよぉ」
「ああ、そうなんですかぁ……。
 僕はぜったい余計なこと言いませんけど、
 ただ、そうするいじょう、きっと先輩もね、
 そういうこと聞いたら傷つきますから、
 そこはうまくやってくださいよ。
 俺ぜったい言わないですから」って言って、先輩に
「先輩、こうらしいですよ……。ただ俺が言ったって
 ぜったい言わないでくださいよ」。
で、そういうふうに、うまくうまく。
糸井 昔やってたのと同じだよね。
話大きくして大騒ぎ(笑)。
零士 そうなんですよ。で、
「俺が逐一いろいろ聞きますから。
 ただ俺が言ったってバラしちゃうと
 こうなっちゃうし、本人もいろいろ立場があるから
 それは俺にまかせてください」
って先輩に言っておくんです。
それで一生懸命やるんですよ。
「どうですか、行ってんですか? また」
「最近行ってないの……」
「でしょー。やっぱ先輩を応援してやってくださいよ。
 最近ちょっと……こう(斜めに)なってんですよ」
なーんて言いながら、俺がまた先輩に、
「先輩、こうなってるって
 言っておきましたから、わざと。
 結果がよければそれでいいじゃないですか」って。
糸井 そういうのって、嫌われるのと、ギリギリですよね?
下手したら
「オマエががたがた動いたから、
 話がややこしくなったんじゃないか!」
って言われる可能性あるじゃないですか?
零士 大丈夫なんです。
やっていることは、先輩に対しては、
「結果をいい方にもっていきましょう!」と、
お姉さんに対しては、
「お願いしますよ。
 ちょっとなんか寂しい顔してましたよ」と、
そう言ってるだけなんですよ。
で、いくら裏でいい努力をしていても、
表に出さなきゃ意味がないんで、先輩に言うんです。
「僕、こう言っておきましたから、
 いらんこと言わないでください」と。
糸井 明け透けにしちゃうんですね、
自分がやってることを。
零士 ええ。
明確にしたいからですね、きっちり。
で、僕はこのお姉さんから、
「零ちゃん、あたし一生懸命あなたのために
 がんばってあげるから」って言われても
僕はぜったいにそれを受けなかった。
「いやです」と。
糸井 守るべき筋みたいなポイントが、
いくつかあるんだ?
零士 ありますねぇ。
ちゃんとしたエリアを分けようと線を引いたら、
そこにはぜったい入らないです、僕は。
糸井 猿山みたいな構造になってるよね(笑)。
零士 そうなんですよ。
頭のなかがそうなってるんですよ。
自分の山を築くという。
糸井 そうだよねぇ。
ボス猿が絶対なんだけど、
自分も時々デモンストレーションをして、
強さを見せていくと。
で、最初は下っ端で、だんだん人気が出てきた、
という感じですよねぇ。
零士 で、そっからがまた勝負ですよ。
こんどはちがう派閥のボスと
戦わなきゃいけないんです。

2000-05-22-MON

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