MORIKAWA

森川くん、人工知能の本をここで再編集。

初期の脳型人工知能モデル


人が空を飛びたいと思ったとき、
最初、鳥の格好や飛び方をまねました。
脳をモデルにした人工知能というのも、
発想としては全くそれと同じだった、、、と思います。
前の世紀の半ば頃、我々の脳の構造が
ちょっとわかってきたとき、
我々は、一つ一つの脳細胞が
実に単純な働きしかしていないことを知りました。
脳細胞同士は連結していて、
前列の細胞から電気信号を受け取ったら、
その量に応じて、
興奮するか、しないかでいるかどちらかの状態である。
で、興奮したら、
興奮した度合いに応じた量の電気信号を
後列の細胞におくる。
一つ一つの脳細胞は、ざっくりいってしまえば、
これだけのことだけをしているだけなのでした。

それともう一つ。
興奮しあった細胞同士の連結は強くなる、
興奮し合わなかった細胞同士の連結は
弱くなるんじゃないか、そういう予想も立てられました。
これは未だ証明されていないらしいのですが、
自分の記憶力なんかを振り返ってみても、
とてもしっくりくる予想であります。
ま、そんなことがほぼ同時期に提案されたとき、
こういう簡単な働きやルールだったら、
なんか数式で表せそうと考えたのが、
脳をモデルにした人工知能の始まりなのでした。

で、実際どうだったか?
これが不思議というか驚きというか、
非常に簡単な数理モデルであったにも関わらず、
簡単な記憶や推論めいたことができてしまったのでした。
これには相当な自信をもったようで、当時、
「20年以内には、必ずや、
 人と並ぶ知能を持つ人工知能が開発されるに違いない」
とまで言われていたほどでした。
(結果がどうであったかは、
 今を見ればおわかりの通りです)。

ということで、今回は、初期の
脳型人工知能モデル(Neural Network Model)の話です。


以下、「マッチ箱の脳」の
「ニューラルネットワーク」より抜粋


■ニューラルネットワーク<2回目>

●見るだけで酸っぱい梅干し

今世紀の半ば、心理学者のヘッブ博士はその論文の中で
次のようなことを書きました。

「シナプスの前と後で同時に神経細胞が興奮するとき、
 そのシナプス効率は強化される」

これを一般にヘッブ則と呼ぶのですが、
説明すると次のようになります。


脳細胞は、それぞれの役割が
とても細かく分かれています。
梅干し1個見るにつけても、
赤い色だけに対して興奮する細胞、
丸い形だけに対して興奮する細胞といった具合です。
次に、梅干しを口に入れると、味覚の中でも、
酸っぱいということだけに興奮する細胞が反応します。
「これ、なんなの?」って聞いて、
「梅干し」という答えが返ってくると、
「梅干し」という言葉に関係する細胞が興奮します。

ですから、梅干しを口にしたとき、
赤い色に興奮する細胞、丸い形に興奮する細胞、
酸っぱいに興奮する細胞、
「梅干し」という言葉に関係する細胞が、
同時に興奮することになります。

一方、このとき、青い色に興奮する細胞とか、
四角に興奮する細胞、甘みに興奮する細胞などは、
反応しません。

こういうときに、同時に興奮した細胞同士の
つながりは太くなるが、興奮した細胞とそうでない細胞、
例えば上記の梅干しで言えば、
青色に興奮する細胞などとのつながりは
細くなるんじゃないかというのが、ヘッブ則です。

私たちが、「梅干し」っていう言葉を聞いただけで、
実際の梅干しを口に入れたわけでもないのに、
口の中が酸っぱくなるのはこのためです。

ちなみに実は、このヘッブ則、本当に脳が
そういう法則に従っているかどうか、
いまだに確認はされていません
(50年もたっているのに!)。



●人工の脳第1号、パーセプトロン

さて、では、人間の脳のお話から
人工の脳のお話に移りましょう。

ヘッブ則が報告される少し前、マッカロとピッツという、
なんだかマカロニとピザみたいな名の科学者が、
1つの脳細胞が興奮する、しない、
という様子を数学的なモデルにしました。
これ自体はとても単純なモデルだったのですが、
1958年、科学者のローゼンブラッドは、
このモデルとヘッブ則を組み合わせて、
ニューラルネットワークモデルの第1号
「パーセプトロン」を作りました。

このNN第1号の基本的な原理は、我々の脳と同じですが、
脳細胞の数がとっても少ないこと、
それに電気信号の代わりに、
0や1といった数値をやりとりしているところが
異なります。

次に、このモデルの仕組みを
説明をしていくことにします。

●NNの脳細胞、セル君

ここでは、
4つの脳細胞(にあたるユニット)を持つモデルを使って、
NNの説明をしていきたいと思います。

このNNの4つの脳細胞を、
セルA君、B君、C君、D君と呼ぶことにします。

セルA〜D君の構成はこんな感じです。

セルB〜D君は横一列に並んでいます。
A君はその後ろに立っています。
セルB〜D君の前には、細胞はありません。

B〜D君たちは、お互いには手をつないでいませんが、
A君は、後ろから、B〜D君全員と手をつないでいます。
つまりA君はみんなとつながっているわけです。

そして、B〜D君が興奮すると、
A君に電気信号を伝えます。

A君はB〜D君から受け取った電気信号の合計が、
自分の閾値を超えたら興奮し、
そうでなければ興奮しません。
しかし興奮しても、
その電気信号を送り出す相手はいません。
セルA君は、興奮するか、
しないかだけを表明することになります。

つまり、先ほどのバケツリレーの例で言えば、
セルB〜D君は第1走者、
セルA君はアンカーということになります。
まず単純に、B〜D君三者とも興奮したとしましょう。
そして1Vの電流をA君に送ったとします。

そうすると、A君は合計3Vの電気信号を
受け取ることになります。
ここでA君の閾値が1.5Vだったとすると、
受け取った電気信号の量が閾値を超えますから、
A君は興奮することになります。

次に、B君だけが興奮して、C、D君は
興奮しなかったとします。
そうすると、A君は合計1Vの
電気信号を受け取ることになります。
これは閾値より低い電気量となりますから、
A君は興奮しないことになります。

脳細胞と同じように、信号を送ったり受け取ったりして、
アンカーが反応する。
これがパーセプトロンの仕組みです。

●セル君も結局は数字でできている

さて、ヘッブ則で同時に興奮した細胞同士の結合は
強化される=太くなるとありました。

結合が強化される=
線が太くなる=
そこに流れる電気の量が多くなる。

逆に、
結合が弱くなる=
線が細くなる=
そこに流れる電気の量が少なくなる、ということです。
これは、NNではどう利用されているのでしょうか。
NNでは、この信号の量を多くしたり、
少なくしたりという仕組みだけを利用しています。

先ほど送られる信号は一律1Vとして説明しましたが、
もしこれが必ずしも一律1Vでないとしたら、
B〜D君三者が同時に興奮しても、
三者の信号量の合計がA君の閾値を超えなければ
興奮しないという場合が出てきます。
この場合、A君とB〜D君の結合が
弱いということになります。

逆にB君一人で2Vの電気信号を出してもいいわけです。
これだと、B君からの信号だけでも閾値を超えますから、
A君は興奮することになります。
この場合は、A君とB君の結合が強い、
ということができます。

また、セルE君という、もう一つの細胞がいたとして、
彼はA君と並んでいるとします。

そして、B〜D君とはつながっているけど、
A君とはつながっていない、そんな構成だったとします。
アンカーが二人いるという構成ですね。

この場合、B〜D君は興奮すると、
A君にもE君にも電気信号を送り出す約束になっています。
ただし、送り出す電気信号の量はA君とE君とで
違ってもかまいません。

例えば、B君は興奮するとA君には1Vの電気信号を、
E君には0.5Vの電気信号をと、
別々の量の電気信号を送ることができます。
A君との結合は比較的強く、
E君との結合は比較的弱いわけです。

このように、細胞の数や、そのつながり、
また送り出す信号の量などを調節する、
というところに、ヘッブ則が応用されているのです。


●NN天気予報、NN株価予想

さて、このような仕組みを持つNNですが、
具体的には何を学習したり、
判断したりするAIなんでしょう?

こちらの方が大問題ですよね。

詳しいNNの解説を行う前に、
NNが活躍している現場の例を紹介しましょう。
なぜならこの実例をご覧になると、
まずはなんとなくでも、
NNがどんなことを得意とするAIなのか
わかっていただけるはずですから。

◆天気予報:
その日の雲の様子、気温、気圧、
そうした気象データをインプットすると、
明日の天気を予測してくれる。

◆株価予想:
その日の株価、ここ1週間の株価の動向、
市場全体の動向などをインプットすると、
翌日目的の株が上がるか、下がるかを教えてくれる。

◆偽札発見:
札のいろんな個所の特徴、例えば色とか、
模様とかなどをインプットすると、その紙幣が偽札か、
本物であるか判断してくれる。

◆ソナー音解析:
潜水艦のソナー音
(ターゲットにぶつかって反射してきた音)の
波形をインプットすると、ターゲットがただの岩であるか、
敵の潜水艦であるか判断してくれる。

◆ロボットの行動判断:
例えば迷路を探索しているロボットなどについて、
ロボットの目(カメラ)に映る映像や
今までの経路をインプットしてやると、
次にどっちに移動すべきか指示してくれる。

まあ、枚挙にいとまがないとまでは言いませんが、
実用例はたくさんあります。

このような実例を見ると、
どんなことが得意なのか
だいたいわかっていただけたでしょう?

何かしらの情報をインプットしてやると、
その情報から推理して、予測や判断を出してくれる。

そういうことが得意なAIが、NNなんです。

覚えたことを思い出すだけでなく、
知らないことに対しても過去の経験(勉強)を生かして
うまく推理をする。
そういうことができるのがNNの特徴です。

2001-03-06-TUE

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