モリカゲシャツのひみつ。着る人の、顔がみえる範囲でする仕事。
 
第2回  「状況」をデザインする。
── オーダーシャツのことについて、
うかがいたいのですが。
森蔭 はい。
── 自分だけのシャツを注文するというのは、
まさしく顔がみえるやりとりですよね。
森蔭 そうですね、話し合いながら、
生地を選んだりパーツをきめていくので。
── 一枚のシャツをオーダーするのに、
どのくらいの時間、話し合うのですか?
森蔭 それは、お客さまによってちがうので‥‥
作りたいシャツがはっきりしている場合は
早いんですが、
そうでないお客さまのときは、
数時間かかることもありますよ。
── あぁ、やはりけっこう時間はかかるんですね。
森蔭 ですから、ビジネスとしてだけ考えると
たぶん、かしこいやりかたではないんです(笑)。
でも、これはずっと続けていきたいですね。
── じつは先日、弊社の糸井重里が、
こんなことを言っていたんですよ。
「モリカゲシャツさんのところに
 オーダーにくるお客さんは、
 3時間みっちり相談したあげく
 “やっぱり今日はやめます”って
 帰っちゃったりするらしいんだよ。
 それって、すごいよね?!」‥‥と。
‥‥この話は、ほんとうなのでしょうか?
森蔭 無理におすすめはしないんです。
いろいろとお話しているうちに、
「今ここで決めずに、よく考えたい」
というお客さまも、いらっしゃるんで。
そういう場合は、
「どうぞ、ゆっくりお考えください」
っていうことになりますね。
そのかたが、またお越しになる保証は
なんにもないんですけど。
それはしょうがないかなぁ、と思ってます。
── そうですか、ほんとうだったのですね‥‥。
森蔭 まぁ、対応したスタッフにしてみたら、
じゃーっかん、
「なんやったんやろ? この3時間は」
というのはあるかもわからないですけど(笑)。
── そうでしょうねえ(笑)。
森蔭 ま、ま、ま、いいじゃないか、と(笑)。
それも多少はしょうがないというか、
まぁ、そういうこともあるやろ、と。
── でも3時間話し合って‥‥たいへんですよね。
‥‥オーダーは、予約制ですか?
森蔭 はい。
── つねにいっぱいなのでしょうか?
森蔭 いや、週末とかは埋まっている日が多いですけど
平日とかなら、空いてる日も多少‥‥
そこは、お問い合わせいただければ。
── そうですか。
‥‥あの、これだけ人気があるとですね、
たとえばデパートから
「うちに出店してほしい」というようなお話も
あるのではないでしょうか。
森蔭 それはありますよ。
東京からも、だいたいのデパートさんが
こられたんじゃないかと思います。
── でも、出店なさってませんよね。
商品の卸も‥‥
森蔭 そうですね、していませんね‥‥。
ぼくたちのやってることは、
「お店に来てくれたらなんとかしましょう」
みたいなことなんですよ。
オーダーもそうですけど、直すこともできるし、
トラブルも、いまの数なら直接対応できるんです。
ところが百貨店でたくさん売ってしまうと、
そういうことを管理しきれなくなってしまう。
‥‥なので、ありがたいお話なんですが、
お断りするしかないんですよ。
── なるほど。
森蔭 ‥‥あと、デパートでうちのシャツは、
そんなに売れないと思うし(笑)。
── いやいや、そんなことは。
森蔭 まぁ、そこそこは売れると思うんですけど、
それも最初だけだと思いますよ。
── うーん‥‥そうでしょうか?
よろこぶお客さんは多いと思いますけど‥‥。
森蔭 でも、たくさん買っていただいたとしても、
すべてのお客さまを追いきれないわけで。
── あ、そうか。
そうでしたね。
森蔭 そもそも、デパートさんが声をかけてくれるような、
ありがたい評判がうまれたのは、
やっぱり、京都にしか店舗がなくて、
そんなにたくさんのシャツを売っているわけではない
という、この状況があったからだと思うんですよ。
── なるほど。
森蔭 だいじなのは、状況だと思ってます。
── 状況。
森蔭 たとえばいま、ふつうの白いシャツなら
1900円のもあれば、
5万、6万するものもあるじゃないですか。
そんななかで、うちのものを選んでいただける、
「状況」をデザインするにはどうすればいいのか、
たぶんぼくは、
それをいちばんに考えているんだと思うんです。
── 状況をデザイン‥‥
シャツのデザインではなく。
森蔭 もちろん、シャツの構造を把握してたりとか、
生地のこととか、デザインのノウハウとか、
シャツ作りに関してはパーフェクトに
知ってなきゃいけないんですけど。
でも、そこだけで勝負できると思わないんですよ。
お客さんが「うれしい」と思ってくれるのは、
どういう状況なのかと。
ずーっとそれを考えてやってきました。
── お客さんがうれしいと思う、状況をデザインする。
森蔭 そうですね。
── あえて少数販売にしていたり、
オーダーを大切に続けているのは
すべてそのデザインのひとつなのですね。
森蔭 要は、コミュニケーションが好きなんですよ。
顔がみえていないと
こっちもたのしくない、というか‥‥。
── お客さんの「うれしい」だけじゃなくて
自分たちの「うれしい」も大切にしたい、と。
森蔭 はい。
‥‥あの、なんかけっこう
ビジネスの話になってますよね(笑)。
もっとこう、「こだわりのシャツ、一枚に込めた想い」
みたいな? 職人っぽい話がよかったですかね?
それか、ファッション寄りの話とか。
── いえいえ、
ご商売のお話、とても興味深いです。
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  (来週の、月曜日に続きます)
2008-01-31-THU