COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

●月光庵閑話 第4シーズン その8
食えてるのが謎。

糸井 じゃあ何? 欲しいもの何? って言った時に、
欲しいものってクリエイティブですよ。
何でもないコーヒーカップはいらないけど、
これは「ジノリ」だよっていうと、
捨てるんならもらっとこうかなって思いますよね。
で、ムーンライダーズって、その意味で、
「うん、ライダーズね」っていう人がいるから、
何だかんだ言って食えてるわけですよね。
それはもう、ありがたいことだなあって。
鈴木 そう、そこでだめになることっていっぱいあるよね。
そこで解散になったりするから。名前が強すぎたりして。
そこでだめじゃなかったっていうのは何なんだろうなあ、
って考えたりしますよ。
糸井 そう、自分で考えたりするよね、
俺のブランド力って何だろうって。わからない。
人に訊くしかない。
鈴木 そう、わかんないですよ。自分の値段が。
値段で考えないけど。
糸井 値段じゃはかれないですけど、
このケースでこの人にいくら貸しますかとか、
このケースでこの人の約束って守りますか、とか、
単純にやってくと正直に答えてくれるんだよね。
鈴木 その質問状はおもしろいね。
銀行の営業の人とかの逆かなあ。
糸井 しばらくね、やったほうがいい。
でもメールではやらないほうがいい。冷ややかになるから。
質問されても困るから、みんなお世辞言うでしょう。
「鈴木さんが夜中の2時に電話で
今すぐ来てと呼びました、行きますか」
って訊かれたら「行く」って書くしかないじゃない(笑)。
質問を変化させるっていうのがまた
クリエイティブなんですよ。
「ほぼ日マーケティング局」もそこがちょっと
工夫なんですよ。正しい答えに行き着くためには
こうやんなきゃいけないっていうことはわかるから。
鈴木 具体的にいったら「食えてる」ってこと自体が
おかしなことかもしれない。それが何とかなってる。
借金もヒドイ量だけど。
糸井 そうですね。謎ですね。
鈴木 それ自体がそうですよね。
糸井 枚数で戦ってるはずないのに、そうだよね。
企業っていうのは帳面で見るから、
鈴木慶一にこれだけ投資するっていうのは
「ギャランティいくら出るわけ?」ってことになるから、
そこでは質とかが問われないんですよ。
企業ばっかりになっちゃうから。
鈴木 そういうのおもしろいね。コマーシャル出ると
俺っていくらかがわかるじゃない。
あとレコード会社変わる時。
レコード会社変わるときいは数字言われるじゃない、
過去の。それで予算決められる。
何ていうの、いろいろやりっぱなしだからさ、
その瞬間瞬間ではそのバンドの価値、自分の価値、
っていうのが数字で見えるわけだよ。
が、しかし、そうじゃないことのほうが多いじゃない。
別に数字であなたは350万円ですって言われても
別にショックでも何でもないし、
人と比較しようっていう考えが
価値というものを生んだのかもしれないね。
糸井 ほんとのことを言ってくれるだけで価値だからね。
俺ね、慶一君に言ってる人って、
明らかに騙してる人以外は
ほんとのこと言ってると思うんですよ。
鈴木 明らかに騙そうとしてる人? 俺に対して?
あまりいないですよ。騙そうとして騙されるかもしれない、
いいや、って。それもそれだって思ってると、
騙そうとしてる人も嫌だと思いますよ。
そういうポジションでリングに上がれないじゃん。
糸井 妙な、昔の感じの辣腕マネージャーだったら
「慶一の価値は」ってフカシでやる。
「それだけですか? もっと」って言うから、
駆け引きになっちゃう。だけど慶一君のとこだと、
「はーい」って言っちゃうから、
あんなこと言ってる人にこんなこと言うの悪いな、とか。
鈴木 そういうスタッフが集まって来るんだよ。
どこも莫大な儲けを出さないような。
それは、それで優秀な。
糸井 フカさない、の価値って、まだあるんだよ。
それかける年数なんだよ。
鈴木 フカさないのを続ける。
糸井 それでやってこれたっていう。
鈴木 だから、60歳になっても、おなじように食えててさ、
それが非常に価値を生むかもしれないですね。
だから、それが私のなかで見えてるから、
晩熟型とか晩年型とか自分で言ってるかもしれない。
糸井 今ね、俺、ようするにクリエイティブでやるっていうのは、
これまで話すのタブーだったような話だったと思うんだよ。
クリエイティブっていうのはある意味経営者でないと、
クリエイティブでありつづけないられないですよ。
つまり、施主の言うとおりの家作ってるような
もんなんですよ。それやってると来年食えないんですよ。
来年いいとしても再来年とか。そう考えると、
ちゃんと職を自分でプロデュースできないと、
ものつくることできないよ。だから、
文章がちょっといいとか、そんなのもっといいやつって
いうのはどれだけでも出てくるんですよ。
そうすると、この人だからできるっていうのが
どれだけあるか、で、それは個性じゃないんだよ。
早くできるってだけでもその人なんだよ。
我慢してくれる、とか。
要するに「男意気」っていうのは商品になるんですよ。
鈴木 そうだね、そのとおり。
ところで男と女、男女共学でずっときてるから、
男女平等がどうのこうのって染みついているけど、
男女って全然違うなあって思うようになった。
男性性を出すことは恥ずかしいことじゃないな、って。
糸井 だって女にも侠気(おとこぎ)あるもん。
「任しといてよ」って瞬間あるもん。
そこで、ヴイトンがどうだっていうブランドの研究は
みんないっくらでもしてるけど、
人もある宗教性というか、ブランド性を持ってるって
いうふうに考えると、意地だとか、誠実だとか……、
鈴木 覚悟決めるとか、志が高いとか。
糸井 自己犠牲とか。ほぼ日を書くことじゃないんだけど、
ほぼ日を何で毎日やるかって言うと、
それは単純に信用がないからですよ、僕に。
すっごくいい言い方すると天才肌なんですよ俺。
で、それは、「きまぐれ」って意味なんですよ。
鈴木 私も。
糸井 しょうがないなって思われてるから、誰も、
投資できないんですよ。俺に。
「慶一とか糸井とかってどうせ飽きたらやめるんだから」
で、そうじゃないっていうところを見せないといけない。
それはどんなに我慢しても毎日やろうと思う。
どっかでやめるとしたらものすごい理由があるんですよ。
病気になってもやるから。
そうすれば「俺は投げない」ってことを
わかってくるんですよ。俺は投げないんですよ、
増えてっただけなんですよ。それを証明すること、俺、
テクとしてできないんですよ。そうすると、
今のポテンシャルって俺らの思ってるのと全然違うところに
訂正できるじゃないかって思うんですよ、あとは。
鈴木 減ったって感じしないもんね、毎日。
減るんじゃないかって思いながらやるっていう
ケチな考えは、ね。
糸井 慶一は先進的な音楽やる割におんなじような所に
友達が多いでしょう。あれは毒なんですよ、単純に言って。
「知ってる?」っていわれたときに「知ってる」っていう
集団だから。あれさえ捨てればいいんだけどね。
鈴木 バンドがあることで救われてる。そして、過保護である。
その場では知らないっていえるんだよ。
糸井さんはこの場では知らないって言える?
糸井 俺どこでも言える。だから変われるんですよ。
鈴木 大事だね。何か、意地はあるけど見栄はないっていう。
糸井 だからね、見栄が人と違うんですよ、
違う見栄はってるんですよ。
鈴木 だいぶずれてる。
糸井 俺見栄っ張りだからそれしょっちゅう言ってるわけですよ。
鈴木 はははは。
糸井 俺のは、価値観の見栄だから、
相手はちっとも見栄だと思ってくれないんだよ。
鈴木 あんまり思わないよ(笑)。あんまり感じない。
糸井 いいよ、俺的には。
鈴木 ふーん。

(つづく)

2000-02-27-SUN

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