COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

●月光庵閑話 第4シーズン その6
お金好きだけど、投げ銭きらい

糸井 びっくりシリーズでいうと、野田秀樹と対談したときに、
「芝居やんないと食えないしさあ」って言ったんだよ。
芝居しかやってないねえ、って言ったら、
「いやー、芝居やんないと食えない」って。
おいおい、それは芝居やってる人にとっては
衝撃的だと思うんですよ。芝居って、
やんないから食えてる人はいっぱいいるけど、
やると食えないって人はいっぱいいる。
でも、やんないと食えないっていわせた
野田秀樹ってかっこいいでしょ。
鈴木 ケラ(ナイロン100℃)とかもそうだよね。
芝居やんないと食えない。そのかわり芝居の量も
めっちゃくちゃ多いよ。年間こんなにいっぱい、
なんでできるの? って。年間6本とかやってますから。
糸井 あの人はオーソライズされたハンコもらいましたよね。
鈴木 欲しかったでしょうね、よかったですよ。
いわば、新人賞のようなものだから。
糸井 よかったね。例えばケラと慶一君が何をどうやって
やれるかっていうのは、お互いの考え方をぶつけあって
何ができるかっていうのを、
今までの興行の仕組みじゃなくて発想できるっていうのは
一つの考えで……、
鈴木 できるよ。
糸井 俺はケラって会ったことないけど、1個だけ俺が作詞した
『君はガンなのだ』を歌ってくれた人として、すごいって。
鈴木 ちゃんと録音もしてくれたよね。
糸井 ね、まんま出した人として、俺たちは今までの
枠組みにいたけど、あれ、潰したのも丸山さんですよ。
SONY社長ですよ。
鈴木 最後になってぜんぶ潰したね。レコーディングも全部して。
糸井 それを拾ったケラがいる。一方で丸山さんのやれることは
全部やってるんですよ。あの人やっぱり働きもので、
スニーカー履いた経営者ですから。で一方でケラが、
こんど丸山さんの側からのハンコをもらいながら
生きてるじゃないですか。俺らはどっちもOKだよね。
俺らが彼らとジョイントしたときに何を考えるかって
いうと、どっかのところでツーペー(差し引きゼロ)じゃ
ないといやなんですよね。共通してるのは、
俺も慶一君もお金もらうときに、
お布施じゃいやなんですよね。あと投げ銭嫌いですよね。
鈴木 きらい。お金けっこう好きだけど。
糸井 だったら、企画をアイデアにして組んで、
一緒に失敗しようぜってやるのが、
俺の来年のイメージなんだ。そのかわりお前、
俺といるとひどい目にあうかもしれないぞって。
このページ始めたときもそうだったんですよ。ほぼ日も。
ひどい目にあうかもしれないよ、って。
で、俺も遭う。で、慶一君来ても粗末に扱って
何の得があるってわけじゃないけど、
何かいいような気がするっていう
その匂いをかぎにくるわけじゃない。
鈴木 糸井さんの読みぴったり当たってて、
3月でパソコンつないで、そういうもんですよ。
なにかをかいだんですね。
糸井 そこは、ギャランティのやりとりはなくて、
あの、よくいうんだけど、机の下で情報っていう
大金が取引されているわけですよ、情報と考えですかね。
この時代をこのまま半端な見えやすいベンチャーとか
今までの枠組みのなかで何やってういくかっていうことを
考えてたら、これね、希望なんかありゃしないんですよ。
鈴木 そんなこと考えたくないですね、
おそろしくつまんなくなる。
私の場合、枠組みを覗いちゃ、他へいく。
でもその枠の中たるやみんな同じ。
糸井 つまんないでしょ。俺はもっと男の子になるしかないぞって
いうのを日々ね、やってるわけですよ。
だから今、クリエイティブと金についてっていうのを
2週連続で書いて、八谷さんが会いたいって書いて。
もともと八谷さんって知ってるんですけど、
ただ会ってゆっくり喋りたいって、
わかるよ彼は今、30代って一番見本になる年齢じゃない。
クリエイティブで食えるんだっていうのを証明したくて、
受け手の立場から作ったクリエイティブなんですよ。
あれ、売れるぞと思って作ったクリエイティブじゃ
ないんですよね。これは売れる可能性があるぞと思って
作ってるんですよね。
鈴木 あの人ほかで作ってるのってへんなのばっかりですもんね。
糸井 そう、あの変なジェット噴射みたいなの。
で、ポスペがちゃんとプロデュースの能力のある人と
くっついて、八谷さんは何にも節を曲げずに、
ちゃんとペイしてるんですよ。極端に言うとあの人、
おもしろいなあーって思うんだけど、
ポスペのホームページって有料サイトなんですよ。
ぼくはペイしてるって言えるんですよ、あの立場だと。
鈴木 うーん、有料サイトってすごいな。
糸井 俺には思いつかない。
アーティストでありながら実は食えてて、
何したいんだろうっていう、ジェット噴射みたいなの
ばっかりやってるっていう、そういうやつばっかになる
時代って、今までではありえないんで、
糸井さんがいいっていったから何か俺って
有望かもしれない、とか、名前が出るかもしれないとか、
きっとそんなやつばっかりかもしれないけど、
今、そんなやつあてにしてらんねえぞって。
どっかのところで実はライバルだぜっていうところに、
俺の会ってないところにいるわけですよ。
それは、敵じゃなくて大きい意味で味方なんですよ。
お互いに。そこがね、今お互いにリンクする匂いが
するじゃない。俺はケラって知らないけど、
レコードのことで覚えてるし、
でも向こうはそれを作った人ってあいつだよな、
っていうとこでつながってるんでしょうね。
おおげさにいえばクリエイター同士のつながりって
あるんですよ。で、慶一君はたとえば何かやるときに、
もう、ちょと手伝わせてっていったときに
できるかもしれない。そこで僕は彼に何が渡せるんだろう、
で、向こうは何が僕に与えられるんだろうっていうのも、
先生と生徒っていうんじゃなくて、
助手と大学院生くらいの関係かな。
この気分になりたいんですよ。わくわくするよね。
鈴木 そうだね。助手って、そうだね。
糸井 デジタルハリウッドの校長先生と話をしたら、
最初機械を入れたけど、先生がいないんだってさ。
生徒募集するんだけど、しょうがないから自分の友達の
助手連中とか院生とか集めて、バイトしないかって言って
そこに放り込んだら、人に教えたことなんてないやつ
ばっかりだからめちゃくちゃなんだって。
自分はできるんだって。
生徒はそういう人からものを教わるときって、
より前に行くんですよね。
で、あの学校をスタートしたらしいんだよ。
学校だけど寝泊りしていいっていうんだよ。
理由は簡単で、そんな高いマシンは自宅にないって
いうんだよ。これ使いたい人はいらっしゃい、
っていうのはものすごい魅力で、
先生に雇われた人もぜひそこに行きたがったし、
生徒もそうだったでしょ? 今でもそういうシステムに
なってるらしいよ。スタジオ借りまくってる
音楽家みたいなもんだね。
こういうことやってる人はそれはそれで助手やってたりさ。
それにくらべると俺なんかまだ慎重すぎると思ってる。
鈴木 子供にみえるけどなあ。失礼。
糸井 そういう言われ方はまんざらではないけど、
正確でない判断はよくないと思うんで、
俺は今、「慎重すぎる」が正しいと思う。
たとえばさ、こないだ俺は金ちゃんに負けてるんだよ。
金ちゃんは何にも考えてないと思うんだけど、
Tシャツっつったら儲かるっつったんだよ。
そしたら俺は「ものを売るのはどんだけ大変か」っていう
ことを含めて、説教がてら、5枚だったときには、って。
金ちゃんは最初に、1000枚だったんだよな?
1000枚売ったらいくらになりますよ、って言ったんだよ。
すっげえーって言って大笑いしてた。
で、夜中にここで集まって
「1000枚売るっていうのは、まあいいよ。理想にして、
1000枚にして在庫抱えたときも同時に考えなきゃいけない」
って言ったんだよ、おとっつぁんの考えだよ。
鈴木 おとっつぁんだよね。
糸井 おとっつぁんの考えはここからはじまって、
じゃあ買うって決めてる人からはじめりゃいいって
思ったんだよ。時間かかったなあずいぶんなあ。
買うっていう人何人いますかってアンケートとって。
300何人、400人……、
鈴木 それ無謀じゃない。ぜんぜん無謀じゃない。
糸井 そうでしょ? すごいんだよ。工場のほうも
受注生産看板方式だから、うちは在庫を抱えないで
一銭も使わないって決めてたから、
純粋にほぼ日Tシャツっていブランドだよ。
それを、金ちゃんが1000枚って言ったときは、
いや、そんなにあれだったらTシャツって物販は
いいと思うんですよねって言った時に、
そんなに考えはないと思うんですよね。
1000枚売れたときには200万なんですよね、売上で。
売上で考えたときに、今までの俺の経験で100枚売れる、
500円で100枚、いくら? 計算してみ、金ちゃん、
って説教モードよ。「そうですねー」って。
そうですねえって言うもののその提案があって、
慎重すぎる俺がいて、どうしたかっていうと
発明したわけですよ。質問して作るって。
これアイデアですよ。そしたらまあ300枚売れたら、
儲けにもなんないけどまあ損にもなんないし、
宣伝にはなるかな、って。で、やりましたよ。
で、俺ら仕入れとかぜんぜんまけてくれとか言わずに、
郵送はこうすればいいとかいうのを読者にきいたわけで、
宅急便より郵送のほうが安くなるとか
教えてくれるわけだよ。慶一君のメーリングリストのような
ものだよ。で、またここでこそこそっと話をして、
リスクはなんだろうって、また慎重に。
最初にお金もいらないし、300枚でも400枚でもいいやって。
ところが答えが3000枚と出たときに、
俺はもう滂沱の涙だよ。無力だと思っていたものがさ。
鈴木 うん。
糸井 クマちゃん(篠原勝之さん)の喧嘩の話もそうなんだけど、
クマちゃんって喧嘩の名人なんだけど、
昔はいつもカツアゲされてたんだって。
新宿駅の地下通るのヤだったって。
そこでいっつも有り金はたかされてたんだって。
もう払えないっていって、あるとき初めて殴ったんだって。
そしたら相手が簡単にへこんだんだって。
それ以来クマちゃんは喧嘩の強い人として
第二の人生を歩みだしたんだって(笑)。
それに限りなく近いんだけど。
鈴木 Tシャツってちょうどいい手ごろなもんなんだよね。
原価と売値と。で、そんなに何千万も儲かるもんじゃない。
でもTシャツ捨てないじゃない。
持ってるTシャツってさ。
糸井 でも俺ら販売に出た覚えもないし営業したこともない。
ただ正直に書いてた。いくら儲かるかも、
前から読んでるやつは計算してると思うんだよ。
これもスケルトンなんだよ。
こういうことは俺反則だと思う、って俺書いたの。
こういうことやると商品の市場を荒らすことになるから、
俺はしたくなかったんだけど、あんまりみんなが
ぶつぶついうから、こんなことだよ、あとは知らないよ、
売れたら俺たち御殿たてるんだってやったら、
こういう結果になったんだ。
鈴木 ダイレクトにやってて、ダイレクトにお金が入ってきて、
っていうのが商売かどうかわからないけど、
そういうのが増えてくるな。

(つづく)

2000-02-14-MON

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