COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

悪運のNY。


── NYは仕事で行って?
鈴木 あれはCM音楽の仕事で
ゴスペルを録りに行ったんだ。
3泊5日だったんだよ。
── 強行軍。
鈴木 予定ではね、着いて1日打ち合わせして、
向こうで英語の歌詞ができてるんで、
それをメロディーに
はまるかどうかをチェックし、
次にゴスペルの人たち
10何人に来てもらって
コーラスを録って、
3日目にミックスして、
4日目の朝に帰ってくるっていう
非常にゆったりとした
スケジュールだったんだよ。
── うん。
鈴木 そしたら着いたその日の
夕方に停電だもん。
── はははは。
鈴木 何もしてないうちだもん、まだ。
夜打ち合わせして
歌詞チェックしようって言ってて。
── 打ち合わせも
できないじゃないですか、
暗きゃ。
鈴木 うん。で、着いたのが
午前中だったから
とりあえず買い物してたんだよね。
眠かったけど。
── あ、フリータイムでね。
鈴木 夕方までフリータイムだから。
で、買い物してて
買い物の途中で引っかかっちゃった。
── ははは。
鈴木 ちょうどタイムズスクエアの駅に
地下鉄が入った瞬間に。
── うわあ。
鈴木 それも地下鉄の中に
ストリートミュージシャンが
サックス吹いててさ、
子供がいっぱいいて、
ちょうど学校から帰るとこ。
で、何かバーバーバーバー吹いてたのよ。
── うん。
鈴木 そしたら、バンって消えてさ。
そしたら、そいつが演説始めて。
── え、ミュージシャンが?
鈴木 うん。Don't scare.
怖がんな、大丈夫だ大丈夫だって
言いつつさ、
「トワイライトゾーン」吹き始めるの。
── はははは。怖い(笑)。
鈴木 怖いよ。俺だって怖い。
何が起きつつあるのか、
まったくわからない。
── 真っ暗い地下鉄で。
パニック起こす(笑)。
鈴木 パニック起こすなって言いながら、
パラリラパラリラ〜っていう
ストリートミュージシャン。
音楽はパニック時に力があった。
より怖くは思うんだが、
伴奏が付く事によって、
映画かこれはって思っちゃう。
── 遊んでる。
鈴木 そしたら、何か分かんないけど、
たぶん地下鉄の関係者だな。
カード見せてたから。
それで“Shut up."
── ほお。
鈴木 黙れ。静かにしろ。
みんな今、
いろいろworryしてるんだから。
── 黙れと。
鈴木 静かにしろ。
そういうやりとりのほうが怖かったけど。
パラリラパラリラより。
そうこうするうちに10分足らずかね、
だんだんだんだん消えてったの。
── ふーん。
鈴木 ドア開かないじゃん?
── うんうん。
鈴木 で、非常灯点いて。
── ドアって地下鉄のドアが開かないの?
鈴木 うん。ホームに入ってんだけどね。
── うんうん。
鈴木 10分足らず、演説したり
叩いたり騒々しい中で、
突然ガンと開いたんだよ。
で、ドンとみんな出た。
意外と整然とみなさん、
混んでる時間帯にも関わらず、
闇の中を明かりを目指して階段上がって。
── 明かりを目指してったって非常灯を。
鈴木 ちょっと点いてたんだよ。
ずっとみんなの行く方に行って、
後ろでまだタラリラタラリラだよ。
トワイライトゾーンがまだ鳴ってる。
── 懲りない、懲りない。
鈴木 止めろ、とか言ってるやついたけどね。
そんで、改札出て階段上がって、
地上に出たの。そしたら地上は
人で溢れ返ってるわけだよ。
── 暗い上に。
鈴木 まあ、夕方だから、まだ明るいさ。
── あ、そっか。
鈴木 そっからですよ、2時間くらい歩いたかな?
タイムズスクエアで降りちゃったから、
一番混む駅じゃない?
歩いてる途中で、
歩道に金網はってあるでしょ、
マリリン・モンローのスカートが
ふわってやつ。
あそこから、人がたくさん救出されてるの。
よかった駅に着いててって思ったよ。
── そうですね。
鈴木 人が溢れ返ってる中を少しずつ歩いてって。
下の方に打ち合わせする人が住んでて、
その家へ行って
打ち合わせしようと思ってた。
── ふうむ。
鈴木 その近所にね、俺の友達夫婦がお店をやってて、
その人もその近所なんだよ。偶然にも。
その人と偶然成田からの飛行機が1本違いで、
1本あとだったの。偶然の連なり。
── うん。
鈴木 じゃ、着いたらお店行くわって言って、
洋服屋さんなんだけど。
そこ目指しましょうってことで。
── ほお。
鈴木 行ったのよ、とりあえず。
連絡取れないから歩いて。
携帯は通じないし、何も通じないし。
── そうか、携帯も通じなくなっちゃうのか。
鈴木 電話も。
── 元がダメなんだ。
鈴木 携帯通じてる人もいたけどね。
あと問題は信号だよ。
信号全部止まってた。
── あ、そうだ。
鈴木 それはね、普通のお姉ちゃんがね、
こうやって。
── 交通整理?
そういうとこはちょっとさすがだと思いますね。
鈴木 俺、絶対非番の警官だと思ったんだけど、
普通のお姉ちゃんだったらしい。
── そういうとこね、アメリカの都会の人のね、
何ていうのかな、マナーとかルールとか、
大したもんだなと思いますね。
鈴木 うんうん。ボランティアーな感じ。
── ボランティアの精神ですよね。
鈴木 うまいんだよ、それで。
交通整理が。
── 不思議だなあ。
鈴木 うん。で、歩いて途中でへばってさ、
水だけは偶然買っといたんだね、買い物中に。
── 助かった。
鈴木 でも、途中でへばって。
暑くてしょうがないんだよ。
── 暑い時期でしたっけ。
鈴木 真夏だし。
── あ、そうかそうか。
鈴木 公園でおれ、裸になって着替えてるの。
買ったTシャツに着替えて。
── 買ったTシャツに(笑)。
鈴木 で、さらに歩いて、
その店のそばまで行ったら、
店はもうクローズしてたんだけど、
デリがあって、そこにいたの。みんな。
── その洋服屋さんが。
鈴木 おおっとか言って、会えたの。
── 素晴らしい。
鈴木 会って、お店を見に来たんだけど、
暗くなって来たからもう見れない。
でも、冷房の名残があって涼しかった。
打ち合わせするのも連絡が取れないから、
とりあえず家に行きましょうと。
その友達の家に。
── うんうん。
鈴木 で、電話が通じたのかな?
通じる電話と通じない電話がある。
── そうみたいですね。
矢野さんの家は通じたって言ってました。
鈴木 ブロックによって消えてたり点いてたり。
── へえ。
鈴木 それで、へばっちゃって。
要するに飛行機で着いて
そのまま歩いてるわけだから。
── そりゃ疲れてますね。
鈴木 冷蔵庫ももうダメだけど、
まだ冷えてるっていうビールを飲んで、
カーッとみんな寝ちゃったんだ。
その初めて行った家で。
── うんうん(笑)。
鈴木 子供2人いる家でさ。
── あはは。
鈴木 で、起きて12時くらいになったのかな?
夜の。飯どうしよう、ったって、
ないじゃない、なにも。
たまたまそのダンナさんがね、
昨日釣った鯛があるぞって。
── ほお。
鈴木 で、鯛の刺身。
どうせフリッジ電気来てないし、
腐るのも時間の問題。
── そうか、そうか。
ちょうどいい解凍具合で(笑)。
鈴木 食っちゃおうって。
で、ご飯と刺身で。
あれはもう救われました。
ホントに感謝してます。
── はははは。
鈴木 それで僕、車でホテルに
送ってもらったんだけど、
俺ニューヨーク2回目だけど、
とにかく真っ暗。
月が見えるんだもん、ちょっとほぼ満月。
── すっごい。
鈴木 月が見えて、あと真っ暗。
バットマン。ゴッサムシティみたいな。
── ゴッサムシティだ(笑)。
ホテル大変だったんでしょ?
だって、けっこう高い階だったんでしょ?
鈴木 15階かな?
── 階段で?
鈴木 階段だけど、
エレベーター1基だけ動いてたんだよね。
── あ、ほんとに?
鈴木 従業員用の。
── それはね、たぶん蓄電システムが
あったからなんですね。
鈴木 そうだね。
で、着いて部屋入って、
トイレ使えないわけだよ。
── 水のモーターは動かない。
鈴木 うん。水が来ないっていうのは
気付かなかったね。
たぶん一軒家は、水道管直通だから
出たんでしょうね。
鈴木 一軒家は出てた。
友達の家はトイレの水も出てた。
── うんうん。
鈴木 ビルとかは全部ダメだったね。
── ダメなんだ。
閉じ込められてどれくらいいたんですか?
鈴木 ホテル?
── うん。
鈴木 丸々26時間くらいだったんじゃないかな。
27時間か8時間か。
だから、そのひと晩がたいへんで。
── うんうんうん。
鈴木 真っ暗で。ろうそくを入り口でもらって、
ろうそくを置いて、何にも聞こえないんだけど、
何故か電話の警告音がピッ、ピッ、ピッ。
── 怖いなあ。
鈴木 15秒に1回くらいするんだよ。
── 気が狂う。
鈴木 うん。あの一定の信号は嫌だね。
── あれ、拷問に使うんですよね。
鈴木 でしょう?
── 寝てる時に、頭の上に水を落とすんですって。
ポタッ、ポタッって、定期的に。
鈴木 定期的にね。
── 人は気が狂うんだって。
鈴木 だから、充電できませんっていう
合図だと思うんだけど、
ピッっていうのがずっと鳴ってるの。
寝れないんだ、それで。
── 寝れない、寝れない。
鈴木 でさ、何度も電話取っちゃう。
ダメなのに。

おもしろがっちゃ悪いんですけど、
落語聞いてるみたいでした。
つづきます。よいお年を!

2003-12-31-WED

 

BACK
戻る