COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

ごぶさたしておりました。
3年近くぶりの更新です。月光庵閑話です。
Beautiful Songs だとか、MOTHER だとかで
月光庵こと鈴木慶一さんが
「ほぼ日」に登場することは多々ございましたが
本家のこのページの更新がないことを
担当は気に病んでおりました。
2003年はこれまでになく多忙だったという慶一さんに
たっっっぷり話を聞きましたので
年末年始のお楽しみに、お届けします。
お楽しみになるのかなあ。なるといいんだけど。



今年の仕事の話、音楽の話から始まりますけど、
だんだんと、なんというか、まあ、
どうでもいいようなことも含まれつつ、
こんなこと言ってていいのか年の瀬に、
というような、ほんとうにくだらない内容に
なっていくような気がしますけど、
‥‥ま、いいや。
どうぞおつきあいくださいませ。

 1)座頭市の音楽。
 2)東京ゴッドファーザーズの音楽と
   5.1chサラウンド 。
 3)音楽の作り方が変わった。
 4)SACDの5.1chにするか!
 5)引っ越すんだよ。
 6)悪運のNY。
 7)シーット!!
 8)体力づくり。
 9)とあるところ、の手術。
10)芝居にも出たよ。

──という、全10回の予定です。
聞き手はわたくし武井でお届けしまーす。

座頭市の音楽。

── 今年めちゃくちゃ仕事してません?
鈴木 うん。
── してますよね。
占いの通りでしたね。
人生のピークと言っても
いいくらい忙しいって。
鈴木 そうね。
── 映画音楽だけで‥‥
鈴木 2本。映画音楽2本とミュージカル1本。
── えーと映画音楽が、
「座頭市」の音楽。
鈴木 うん。
── 慶一さんだって知らない人が見に行って、
テロップで名前を見て、
これってあの鈴木慶一さんなの?
って聞かれましたよ。
鈴木 うふふふ。
── うん、ほんとに。よかったって。
音楽がよかったってことを、
すごくいっぱい聞きました。
鈴木 うん。ありがとう。
── カタロニア映画祭で
最優秀音楽賞を受賞したんですよね。
鈴木 うん。うれすい。
そうねえ、あれは。
何って言ったらいいかな、
さまざまなアプローチの仕方して
あそこにたどり着いたの。
── さまざまなアプローチって?
鈴木 要するにリズムが重要な映画だったんだよ。
── うん。
鈴木 それこそ、お百姓さんの
鍬のタイミングが
リズムに合ってるとかね。
── あとから付けたんですか?
鈴木 あとから。
先に一定のリズム、クリックと呼ぶんだけど、
それに合わせて映像を撮られてるんで。
テンポ合わせて。
── 音楽を付けなきゃいけない。
鈴木 で、リズムをどんなものにしようかな、と。
さまざまなリズムループを試してみたりして
テンポは映像で全部決まってるわけ。
リズムのループってのは、2小節とか、
4小節とかのドラムやら
パーカッションやらの
パターンの繰り返しね。
それは、自分で作る場合もあるし、
サンプリングされたものもあるし、
そればっかり入ってるCDもあるし、
たくさんのループを同時に鳴らしたり、
引いたり足したりで、
グルーヴを作っていくわけ。
50人のドラマーと
50人のパーカッショニストを、
君は今叩け、君は今休め、
とやってるようなもんだなあ。
ちょっとためになっちゃったなあ。
── 映画音楽ってあとから付けるもの?
いろいろですか?
鈴木 そうだね、だいたいあとから付ける。
── だいたいあとから
付けるようになってるんだ。
鈴木 要するに監督から
ここに音楽が欲しい、
って言われてあとから付けるんだけど、
座頭市の場合はここはもう
絶対音楽とリズムが合わなきゃ
いけないっていうのが何カ所かあって。
── ああ。
鈴木 泥の田んぼの中でタップダンス踏んだり、
そういう音を先に仮に当ててあったから。
── うん。
鈴木 それを使いつつ、
そのテンポで曲を作っていく。
── ふーん。たけしさんとは
元々おつきあいというか、
お仕事してた関係?
鈴木 ひょうきんスペシャルで
YMOが出てくる
「三匹の侍」みたいなのをやった時に。
── 見ましたよ。80年代でしょ。
鈴木 私は山賊で出てました。
── 出てましたねえ。
立花ハジメさんとかと。
鈴木 あと、シーナ&ロケッツの。
── 鮎川さん。
鈴木

鮎川誠さんが山賊の大親分で、
俺たち手下なんだよ。
すぐ斬られちゃう。

── お正月か何かじゃなかった?
鈴木 そうそうそう。
だからたけしさんとは
時代劇つながりっていうかな?
── はははは。
鈴木 はははは。
── それ以来?
鈴木 以来。
── じゃあ、別に全然
関係ないってことですよね(笑)。
鈴木 そうみたい。
── あれ、たけしさんが選んだんですか?
慶一さんを。
鈴木 その前に、たけしさんの助監やってたかたの
映画音楽をやったんだよ、
チキン・ハートっていうやつ。
── ああ。それが去年。
鈴木 清水浩監督。てのがあって、
森プロデューサーからお話をもらった。
── 森さんってあの、ちょんまげの人だ。
鈴木 そうそう。
── ああ、そうかそうか。
その実績があって。
鈴木 うん、うん、実績だかなんだかなあ。
あと、今度の座頭市っていう映画は、
音楽上ね、何でもありだし
何が起きるか分かんないし、
タップダンスだし、
リズム中心になるだろうっていうので、私に。
── ふーん、そういうことができるのは。
鈴木 かなー?
── 日本のロック界だとこの人だと。
鈴木 と思われたかもしれない。
── たけしさんのダメ出しって厳しいんですか?
鈴木 厳しくはないけど、ダメ出しなんだか、
微妙なんだな。言葉が少ないから。
── へえ。
鈴木 うん。何か違うなっていうと、
これはたぶんダメ。
── ダメなんだと察する(笑)。
鈴木 要するに同時にいろんなこと考えてるから、
音楽のことに言及しつつ
違う映像の方に言及したり。
で、今これは音楽のことなんだなっていうのを
どんどんメモしとかないと。
── ああ、そうかそうか。
その時に彼が言う言葉は
何のこと言ってるかは、
一瞬分かんないんだ。
鈴木 SE(効果音)が入ってみないと
分かんないなっていうのが
けっこう大きかったよね。
── なるほど。効果音ですね。
鈴木 刀の音とかあるから。
── 音楽だけじゃなくて、
効果音と合わさって
映画の「音」ですもんね。
鈴木 だからどんどんたまっていっちゃったの。
曲ばっかし。
── うんうん。
鈴木 いろいろ出すんだけど。
── どんどんできちゃう。
鈴木 うんうん。最終的にいろいろ変更しつつ、
引き算になってたね。
音を引いてっちゃう。マイナスしていくと。
── 足し算じゃないんだ。
それがよかった?
鈴木 よかった。要するに最初
もっとちゃんとたくさん入ってたんだよ。
それをどんどん引いてって
ピアノだけにしたりとか。
それは、たけしさんの絶妙のセンス。
── あ、そういうことか。
鈴木 うん。リズムはずっと入ってるけどね。
── リズム的な映画だから
リズムが抜けることはないけど。
鈴木 ない。リズムはとにかく
大量に作ったけどね。
── うん。
鈴木 だから最終的にはリズムも
電子音と生音っぽいののサンプリングしたものを。
最初電子音で通そうと思ったんだけど。
── うんうん。
鈴木 生音っぽいもののサンプリングの方が、
採用されたの。
実は、この映画の音楽では、
生楽器ほとんど使ってない。
ピアノも含めて。サンプリングが95%。
── へーえ!
鈴木 刀の音とね、似ちゃうから。
たけしさんの意見で。
刀のぶつかる音、かなり重要だし。
── うん。
鈴木 で、リズムが入ってると
チャンバラシーンが
スポーツに見えちゃうのが
すごい嫌だったんだな、たけしさん。
── はあ。
鈴木 その分、すごいリズム抜いたし、
メロディーも全部抜いたり。
── はあ。それで引き算。
鈴木 うん。とにかく緊張感、
緊張感、緊張感、緊張感。
緊張感出すには
少ない音の方がよかったりする。
── なるほど。
鈴木 うん。たけしさんも音を合わせてる時に、
スタッフ全員いるわけだから、
約30人くらいいる中で意見を言うわけだから、
いろんな人に言うから、
音楽にいつ向いたのかが。
── 分かんないわけだ(笑)。
鈴木 うん。1対1でね、
「じゃ、音楽だけの打ち合わせですよ」
っていう時間がたぶん取れないんでね。
── そのくらい忙しいんだ。
鈴木 音楽だけの打ち合わせのつもりでも、
みんなスタッフがいるから
色のこととか。
── 別の話になっちゃう。
鈴木 その時間内にいろんなことを
全部決めるように。
── ちょっと特殊な感じですね。
仕事としてね。
鈴木 うん。だからどこが特殊かっていうと、
音響効果の人と音楽と
タップダンスの人が3つ組まないと。
── できない。
鈴木 うん。できない。
これ、音響効果の仕事ね、
これ音楽ねって分けられないんだよね。
── 分けられない。
鈴木 だから、その辺は全部俺のとこに来ちゃう。
最終的に来ちゃうの。
もちろん刀のぶつかる音や、
雷の音は来ないけどね。
でも、雷の音がゴロゴロ、
ドカーンのドカーンの中で
ストリングスに変わっていって欲しいって
注文があったら、来ちゃうけど。
── そうね。最後のアウトプットの人ですからね。
鈴木 音響効果の方はリズムは作らないわけだから。
── はいはい。
鈴木 で、リズムを作る元の音は
鍬の音だったりするわけじゃない。
── はいはい。
鈴木 音響効果の人は鍬の音は作れるけど、
鍬のリズムは作れないと。
リズムを作るのは
タップダンスの人「ザ.ストライプス」。
それを音楽にするのは俺なの。
ザ.ストライプスは鍬の音まで作ってたなあ。
で、録音のチーフのかたと相談して、
このままでいいとか、
もうちょっと重くしようとか。
あちこちで、個別でありながら、
リンクしている相談事が行われる。
── うんうん。
鈴木 これ、全部3つまとめて
納品するのは結局俺かなって。
── かなりしんどかったですね。
鈴木 うん。最後の方はね、かなりね。
いや、おもしろかったけどね。
元々音効さんになりたかったからね。
── そうなんですか。
鈴木 うん。
── 音効さんって、
映画とか芝居とかの効果音を
全部仕切る人ですよね。
鈴木 うん。
高校の時の演劇部時代、
ずっと音効さんだから、俺は。
── 夢叶った。
鈴木 音効さんと一緒に仕事すると
すごい興味深いの。
あっという間に出してくるからね。
── こういう音ないですかって言うと。
鈴木 こういう音。しかもこういうのは、
たとえばこのライターが、
ころんと転がって、
右に倒れてから二回ころがって、
カランコンコンコンって行くじゃない。
── うん。
鈴木 それを約5分以内で
全部合わせることができるんだよ。
── はあ!!
鈴木 あと、ひもを結ぶ。
── 衣摺れみたいな音が?
鈴木 全部コンピューター制御だけど、
映像を取り込んで、その映像に合わせて
そこに貼付けていく。
だからピッタシ合う。
── はあー。
鈴木 だから最終的な映像と
あらゆる音をミックスして合わせる
スタジオでの作業は、
俺それも行ってたけど、
音効さんのコンピューターと、
音楽が詰まってるコンピューターと、
全体を仕切るコンピューターなどなど、
5台くらい並んでて、
それがおのおの出して行く。
── あ、おもしろそう。
鈴木 で、最後のミックスするのは録音の人だよ。
録音の監督の人、堀内さん。
── あ、そういう人がいるんだ。
なるほどね。あ、そりゃそうですね。
バランスは任せるしかないですねえ。
鈴木 こっちは音楽を出すんだけど、
しかしタップダンスも入ってる。
── うんうん。
鈴木 タップの音
もっとあげてくれって言われた時に、
おれが決定版を作っちゃうと
バランスが決まっちゃうから、
コンピューターごと持ち込んだわけ。
エンジニアと一緒に。直せるからね。
── ほお。
鈴木 で、その時にすぐ出せるように。
で、ここのメロディーいらないな、
っていう時にカットできるようにね。
それは毎日あるんだけど、
持ち帰ってまた直して、現場で直す。
── はあ。そんなことしてたんですね。
鈴木 普通は納品して終わりなんだけど、
そこまでやりました。
── 素晴らしい。

というところで今日はここまで。
慶一さんの座頭市の音楽はCDになってます。


座頭市オリジナルサウンドトラック
ドリーミュージック - ASIN: B0000A8V3B

2003-12-19-FRI

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