COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

月光庵閑話、第3シーズンです。
先日、渋谷ジァンジァンで行われた
“あっこちゃん”こと矢野顕子さんのライブに、
ゲストで参加した月光庵と、そのライブを見たdarling。
まずはその話から、スタートです。


矢野顕子をほめる。(1)
あっこちゃんのリハーサルはすごい。


糸井 『矢野顕子をほめる』。
そんなタイトルを付けられる人が、ほかにいるだろうか?
今日はほめるぞ!
鈴木 あの人、実は、ライブでミスもしてるんだよね。
そんなこと絶対ないように、みえるけど。
糸井 あと、歌詞の間違いも平気ですよね。
俺、作詞家だから知ってるけど、
そんな歌詞はない! ってことがよくある。
鈴木 リハーサルでは、決してミスがないからさ。
糸井 えっ??
鈴木 リハーサルで、ないんだよ、ミスが。
だからこっちもすごい真剣になってくるじゃない。
それが本番でミスしてくれると、
すごくホッとするんだよね。
糸井 それってなんなんだろう?
鈴木 やっぱり本番だからかなあ?
糸井 リハって間違わないことをすごく重要視しますよね。
鈴木 リハは、「いい演奏」というものを
目指していくわけですよ。
それが、あっこちゃんだと、リハでも
最初から観客がいるかのごとくの様相を呈する。
糸井 顔もちゃんと作って歌ってるんだよね。
鈴木 僕はあっこちゃんのライブにゲストで出たことが
2度あるんですよ。
1回目は92、3年でPIT−INN、
2回目がこないだの渋谷ジァンジァン。
ピット・インに出た時は、ギター持ってリハーサルに
行って、ギターケースを開けたら、
さっそく演奏が始まっちゃって。
「この曲やらない?」
「あ、やりましょう……」
すぐ歌わなきゃいけない。
糸井 向こうはもうエンジンがかかっているんだ。
鈴木 こないだのジァンジァンのリハはね、
俺がたまたま先に到着していて、
ギターを弾いていたんですよ。
トレーニングしてたんだ。そしたら、
あっこちゃんに、来るなり
「チューニング合わせたら?」
って言われちゃって(笑)。
野田 (慶一さんの美人マネージャーさんです)
「さすが天才!」って思っちゃった。
糸井 着いた途端に?
鈴木 着いた途端に。
第一声が「チューニング合わせたら?」。
こっちも「あ、そうだね……」って。
糸井 「ヤバ……」って?(笑)
鈴木 本番よりリハのほうが、緊張するよ。
糸井 そういう話は今まで聞いたことがなかったよ。
なんだろう? ほんとに不思議だねぇ
鈴木 「どういうふうにしようか?」
って、アレンジを二人で決めていくじゃない?
「こういうふうにしない?」
「OK」って言っても、俺だとできない可能性もある。
たとえば、
「エンディングの終わり方を、スパッと終わろう」
というのを、忘れちゃったりしてさ。
そうすると、リハの演奏中に、
「ンッ?」って、こう(鋭い視線で)見られてさ。
「……大丈夫?」とか言われて。
糸井 ほうほう。
野田 「慶一くん、このキーだときつくない?
 一音、下げようよ」
とか言われてましたよね。
鈴木 と言っても、一音下げるってさ……。
糸井 弾き方変わるよね。
鈴木 すぐ下げられるかなあ? って。
糸井 簡単に移調できるのは、あっこちゃんが
ピアノの人だからでしょう?
鈴木 そうだね。
糸井 ギターって一音下げたら、
指変わっちゃったりするよね。
鈴木 押さえ方が変わって、弦の鳴りが変わっちゃったりする。
不完全な楽器だから、ギターって、ピアノにくらべると。
指が痛くなっちゃったりするし。
野田 でも矢野さんの言う通りに下げたら、
声がキチッと出るようになったんですよ。
糸井 あのジァンジァンの慶一くん、声、出てたね。
「俺ってスゴイ!」って思わなかった?
かっこよかったよ。
鈴木 いや、……そうすか?
俺、あっこちゃんとツアーをしたことはないんだけれど、
ユキヒロ(高橋幸宏)はしてるんですね。彼が、
「あっこちゃんのツアーはすごい。緊張する」
と言っていたのを思い出した。
で、終わった後に、ちゃんとその日のテープ聞いて、
反省会みたいのがあるんだって。
糸井 ……その割には本番よく間違えてるよね。
以前、ジァンジァンのライブで、俺、驚いたのは、
「もとい」って演奏中に言ったんだよ。
鈴木 (笑)。
糸井 弾いて歌いだして間違えて、
「もとい!」って言ってまた一から始めたんだよ。その時、
「これは新しい一つのコンセプトだな」って思ったんだ。
だって、小劇場だから客の数は少なくて、
お客さんも、完成品を求めているというよりは、
場の雰囲気を楽しみたいわけじゃない?
だったら「もとい」って言ってくれたほうが
嬉しかったりする時って、あるんだよね。
それって、演出としてやる人はいるかもしれないけど、
ああやってごく自然に「もとい」ってやっちゃう人って、
いなかったよね。
それってジャズ系のノリなんでしょうかね。
鈴木 そうかもしれないですね。
あの人、弾きながらしゃべってるでしょ。
あれって、なかなか難しいことだよ。
弾きながらしゃべって、スッて曲に行くでしょ。
あれってなんだろう?
ピアノと一体化してるんでしょうね。
糸井 荒木惟経さんにとってのカメラみたいなもんだね。
鈴木 まあね。
……じゃあ俺が何と一体化しているかっていうと……
ちょっとわかんないけど(笑)。ないような気もするし。

1999-09-03-FRI

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