モノポリーエッセイ

第2回

――岡田さんは3年連続で
  決勝大会に出場していたわけですから、
  3度目の正直で「今年こそは勝負になる」みたいな
  手応えがあったんじゃないですか?

岡田
昨年までの2回の決勝大会では、
あと一歩の所で決勝テーブルには進出できなくて、
決勝テーブル進出の「壁」を破るためには、
私には「何か」上積みが必要なんだ、と感じていました。
その「何か」がはっきりとはわからないうちに、
チャンピオンになっちゃった、
っていう感じなんですが(笑)。

――岡田さんは、ご自分では
 「どういうタイプのプレイヤー」と思われますか?
 「爆発的に勝ちをまとめるタイプ」とか
 「安定した成績」とか…

岡田
今回の日本選手権や世界選手権では、
自分でも恐ろしくなるくらいの、
サイコロ運とか流れとかが来ていましたので、
そういう意味では「爆発的」なのかもしれませんね。
とはいっても、不利なときにも
結構粘り強く交渉するタチなんで、
順位はコンスタントに稼ぐタイプかとも思います。
ただ、上級者とやるときには、
私は最初に「リスクの高い交渉を受ける」ことが多いので、
裏目に出ることも多かったりするんですが(苦笑)。

――岡田さんのゲーム運びを拝見していますと、
 「面白い、クリエイティブな交渉をなさるな」
  という印象があったのですが、
  それが最近ではさらに「安定感」も加わってきたかな、
  と思うんですが、いかがですか?

岡田
それはほめすぎです(笑)。

――それでも、失礼ながら岡田さんのモノポリーは、
  現在も完成品ではなくて、
  まだまだ発展途上という気もしますから、
  4年後の世界選手権大会(※11)なんかは
  楽勝じゃないですか?

※11 4年後の世界選手権大会
    だいたい、モノポリーの世界選手権大会は
    4年ごとに行われる。
    次回は、まだ確定ではないものの
    2004年くらいでしょうか。
    岡田さんは、次回の世界選手権大会に、
   「現世界チャンピオン」として
    出場する資格があります。

岡田
いえいえ、次回は私以外にレベルの高い「日本代表」が
もう一人いるわけですから、
今回よりも厳しいんじゃないですか。
また、3年前に競技的なモノポリーと出会って
こうしてチャンピオンになれた私のことを考えると、
これからモノポリーをはじめる人でも、
4年後の世界選手権大会などで活躍するチャンスも
十分にあるんじゃないかな、という気がします。

――岡田さんの「クリエイティブな交渉」は、
  よく「踊るモノポリー」と例えられたりしますが、
  このプレイスタイルというのは、
  どなたかの影響があったりしたのですか?

岡田
特に、「誰かの影響」というほどでもないかもしれません。
上級者の皆さんはたいがいそうしていると思うのですが、
交渉の回数を多くするように心がけて、
得をする回数を増やす、というイメージでしょうか。
それで、やはり交渉というのは、
自分だけでなく相手も得をして、
相手にも多少なりとも勝ち目がある、
という方がまとまりやすいので、
「相手にも勝ち目がある」状態で
カラーグループ(※12)を揃えてもらう交渉を
多くしていると思っています。
たくさんの相手にカラーグループを揃えてもらい、
「他人が経営するカラーグループ同士の
 激しい潰し合いの中から活路を見出す」
ようなプレイスタイルが多いでしょうか。

※12 カラーグループ
   モノポリーの権利書は鉄道と公共会社以外は、
   8色の色にわかれており、
   それぞれの色の権利書の組みを
   カラーグループと呼びます。
   2枚もしくは3枚で1セットとなります。
   カラーグループのすべての権利書を揃えると
   家を建てられるようになり、
   家を建ててレンタル料を増やしていくことが
   勝利への道です。

――「踊るモノポリー」の秘訣は何なんでしょう?

岡田
私は、「負債交渉(※13)」とか
「破産救済交渉(※14)」とかを
重視していると思います。
そういう負債を負ったり
破産したりということになってしまった人は、
たいがい有効利用できずに
抵当に入れるしかなくなったような権利書、
--言ってみれば「遊休地」--を
何枚か持っているものなのですが、
そういう「不良債権化」している権利書を、
うまく活用してゲームに勝てたときなどはうれしいですね。
「遊休地の有効活用」といったところでしょうか(笑)。

※13 負債交渉
   誰かが、手持ちの現金では支払えない負債を
   負ったときに、
   負債を支払うためにする交渉。

※14 破産救済交渉
   誰かが、交渉がまとまらなければ
   破産する額の負債を負ったときに、
   破産を逃れるためにする交渉。
   
【2000年日本選手権決勝大会予選1回戦】

――では、これから具体的なゲーム内容なども
うかがっていこうと思います。

岡田
はい、これからお話する内容には、
私の曖昧な記憶に頼っている部分も
少なからずあろうかと思いますので、
その辺をご了解頂いて、
大まかな流れや雰囲気を
感じとっていただければと思います。

――わかりました。
  それでは、日本選手権の決勝大会のゲームについて
  うかがいます。
  予選の1ゲーム目は、どういう状況でした?

岡田
一言でいって「ひどい」状況でした。
私が無理やりグリーン(※15)を揃えたのですが、
手持ちの現金が$150くらい。
もうどうにもならない(笑)。
そこで、そのグリーンのセットを
長倉さんという方にお渡しして、
その代わりに権利書をたくさんもらってきたのです。
それで、もらってきた権利書を使って交渉して、
他の全員に何がしかのカラーグループを経営してもらって、
私が最終的には鉄道(※16)4枚と
ライトブルー(※17)のセットを持つ形になりました。
その結果、ライトブルー以外のカラーには家が建ち並び、
32軒ある家のすべてが売りきれてしまう状況でした。

※15 グリーン
   グリーンというのは権利書自体高額で、
   家の建設費も$200と高額のため、
   序盤では効率が悪く、敬遠されがちな権利書です。
   手持ち現金が$150では、
   ちょっと経営する状態ではないですね。

※16 鉄道
   鉄道の権利書は4枚あり、
   全部を揃えるとレンタル料が$200になるため、
   手っ取り早い現金収入が期待できる。
   ただし、それだけで勝利できるほどの
   パンチ力はない。

※17 ライトブルー
   資産が少ないときには、
   最も投資効率のよいカラーグループ。
   しかし、それだけで勝利できるほどの
   パンチ力はない。

――それは、うまいことやりましたね。

岡田
もちろん、最初は私の経営するライトブルーには
家があまり建たなかったです。
それでも、相手が負債を背負って家を売却する度に
少しずつライトブルーの家を建て増していくような
感じだったのですが、
さすがに1位にはなれずに、
1位は最初にグリーンをお渡しした長倉さん。
私は2位になりました。

【2000年日本選手権決勝大会予選2回戦】

――すると、予選1回戦で2位ですから、
  予選2回戦は1位でないと、
  決勝テーブルには行けない、という状況ですね。

岡田
そうです。
それなのに、2回戦が始まると、
早くも1位が難しい局面になってしまうのです。
私以外でいわゆる
「ツーペー(※18)」状態になってしまい、
高瀬さんという方がレッド(※19)を揃えて
経営されまして、
レンタル料もそこそこ稼いで、
「かなり1位が有望」という状態になったんです。
私は、1位にならないと
決勝テーブルに出られないわけですから、
「何とかしなくちゃいけないな」というふうに思って、
鉄道4枚をかなりお金をかけて集めました。
でも無理をしたため、
高瀬さんのレッドに止まった時には、
仮破産してしまう状況でした。
その場は、鉄道以外の権利書を切り売りすることで
事無きを得まして、
そうこうしているうちに鉄道で結構稼ぐことができました。
その儲けた現金を使ってライトブルーを集めてきまして、
追加経営をしました。
ライトブルーのセットを$800近くで
買ったんだと思います。
そうしたら、さらに運良く、
ライトブルーにもレンタル料が結構入ってきまして、
現金がたまりました。
その時点でもレッドを経営している
高瀬さんの1位は堅いという感じだったのですが、
その高瀬さんが持っていたイエロー(※20)の権利書を
私がもらう交渉をうまくまとめることができて、
私がイエローを揃えたことで、
高瀬さんを最後に逆転して、
1位になることができました。

※18 ツーペー
   二人で2色の権利書を持ち合って、
   互いに交換すれば、
   二人がそれぞれカラーグループを揃えられる状態。
   例えば、Aさんがオレンジ2枚、レッド1枚を持ち、
   Bさんがオレンジ1枚、レッド2枚を
   持っているようなケース。
   モノポリーの交渉は、交渉した二人が得をして、
   交渉を見ているしかない残りの人が損をするという、
   典型例ですね。

※19 レッド
    刑務所の後にあるため
    オレンジに次いで通行量が多く、
    十分それだけで勝てる力のあるグループ。

※20 イエロー
    レッドより若干権利書の価格も
    レンタル量も高いが、
    ほぼレッドと似たような特徴を持つ
    カラーグループ。

――お話を聞いていると、
  よくそんな展開で勝てましたね、というふうに
  思えるようなゲームだったんですね。
  
(つづく)

2000-12-13-WED

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