ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞 共同企画 中島みゆきさんとの、遊び時間。 『真夜中の動物園』をめぐる120分。
その3 20年経ってわかる歌もある。
糸井 歌詞、憶えてないんですね。
中島 そうなんです、ツアー中でも毎日忘れる。
一回、口に出すと出て行っちゃって、
次また覚えて、口に出したら忘れて。
よし、覚えた! って思ったころには
ツアーが終わってるんだもん(笑)。
クラシックの演奏のかたがたなんか、
常に何十曲も持っていて、
次のコンサートはこの曲にします、
って言ったら、
いくつかの中からパッとできるわけでしょ。
役者さんも、一回覚えた役を
またやれるんですものね。
糸井 でも自分が作ったことさえ
忘れてるってことはないでしょう?
中島 作ったことは覚えてる。
ていうか、なんにも予備知識なく、
自分の曲がポンと流れてきたら、
「オレの」ってことはわかるけど、
じゃあ、そこから先、
歌ってくださいって言われても、
歌えないな。
むしろお客さんのほうがわかるんだよね。
コアな人になると、その曲が、
どのアルバムの何曲め、
ってこともわかるでしょ。
私はわかんないですもん。
糸井 種類が違うんだね。
中島 今ね、ツアーで歌う
曲決めをしてる段階なんです。
それで、音楽プロデューサーと話していて、
「この曲は‥‥どんな歌だっけ?」って、
そこからですもの、私。
時間かかる、かかる。
糸井 いや、素晴らしい。
中島 「じゃあ、CDかけてみよっか」と(笑)。
糸井 で、ちょっと聴けば、
「あ、知ってる」って?
中島 「知ってる、聴いたことある」って。
糸井 そういう人のことだから、
きっと自分の曲を知らず知らずに聴いたら、
「いい曲作るなぁ、こいつは」って思うでしょ。
中島 思うし、昔歌ったのを聴くと
「うまいなぁ」って。
糸井 わかる! わかるわー、その気持ち!
俺、その感覚大好き。
中島 あはははは。
糸井 でも俺はみゆきさんよりもっとひどい。
自分で書いたことさえ忘れてて、
すっごい真面目な顔して
「これはすっごくいい!」
って言ったりするんです。
すると「これ、糸井さんのですよ」って。
「あ、そうか‥‥、そうだな」と。
中島 自画自賛って、そういう意味の解釈も
ひとつ付けておいたほうがいいんじゃない?
自分で描いた絵を自分で自慢するんじゃなくて、
自分で描いた絵を忘れて、
うっかり褒めるっていうのも、
広辞苑に載せたほうが。
糸井 その意味でぼくとみゆきさんは
平等なんです。
自分をも勘定に入れている。
中島 ああ、ですよね、ですよね。
糸井 客観的に良いの悪いのという時に、
自分の作ったものだからって除外しない。
で「これもいい」と言う。
あと自分の作ったものでも
悪いものは悪いって言う。
言うでしょう?
中島 (笑)ありますよ。
好き嫌いは日に日に変わりますしね。
糸井 あと「ここ、できてないんだよな」
ってことは、一生憶えてる。
ほんとは、もっといいのがあるはずだ、
と思って探したんだけど、探しきれなくて、
このまま行っちゃったんだ、
っていうようなところはよく憶えてる。
でも、かえってそのほうが
好きだと言う人がいるんだよね。
中島 それと、時期。
アルバムで出したときには
ボロッカスにしか言われなかったのが、
なんかの世の中の流れで、
ポーンとはまっちゃうときってあるのね。
突然、いいって言う評が出てくる。
でも前は、ボロカスに言ったじゃなーい、って。
これ、わかんないよ。
糸井 それはつまり、
自分ひとりで作っていない、
っていうことですよ。
中島 だね。
糸井 一緒に語るのはちょっと生意気ですけれども、
ひとりで作っているわけじゃないのよ、モノって。
なにか訳のわからないものと
一緒に歩いて作っている。
だから「俺が考えた!」って言うには、
ちょっと申し訳ないところがあるの。
降ってきているとまでは言わないけど、
できちゃうんだから。
だから忘れるし。
中島 忘れるし、そうそう。
糸井 みゆきさんのも、ぼくはそうだと思うな。
1番の歌詞があったおかげで、
2番の歌詞が
自然にできちゃったのってあるでしょう。
中島 ありますね。
糸井 それは自分で作ったんじゃなくて、
1番が作ったんですよ。
中島 うんうんうんうん。
糸井 実感を込めて言えますよね。
中島 そうですね。机の上でさあ書くぞって、
設計図を作って一行目二行目三行目って
やってないですもん。
順不同だったりもするし、
どうして書いたのかわからないうちに
書いてることもあるし、
なんでこうなるのかなあって
20年経ってわかる歌もありますものね。
糸井 特にみゆきさんはたたみかける作詞家なので、
Aと言ったら、Aダッシュ、
Aツーダッシュ、Aスリーダッシュ、
Aフォーダッシュって入れていく人だから。
嫌っていうほど、同様のたとえで
攻めてきますからね。
2番め以降なんていうのは神様の業ですよ。
秀才には作れない。
秀才は一所懸命考えるから、
整合性とかを考えて、
このたとえと、このたとえは、
本当は同じじゃないななんていうのに
気付いちゃうけど、みゆきさんは、
そんなの知りませんって。
中島 辻褄が合わないことが、えてしてね。
違うところに行っちゃったけど、
まあ、いいやと(笑)。
糸井 違うところに行っちゃったけど、
いい気持ちだ! とかね、
かっこいいですよ。
中島 言葉の師匠にそう言っていただけると!
糸井 いえいえ、ぼくはただ単に、
他の人のものを見ては
難癖付ける仕事ですから(笑)。

(つづきます)
2010-10-15-FRI
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