ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞共同企画 中島みゆきさん、おひさしぶり。 ややこしくておもしろい、歌をつくるということ。
第11回 そのときは迷わずひらがなを。
中島 わたしが大学を卒業するとき、
学長講話があったんですね。
そこでどんなありがたいことを
言ってくれるのかなと期待してたら、
シスターなんですけどね、
「皆様は国文学科をご卒業になりますが、
 ご卒業されましたら、
 いろんな場面で文字を書くこと、
 文章を書くことがおありだと思います。
 これはどんな漢字だったろうかと
 疑問に思ったときは、
 国文学科を出たと思って
 漢字を知った振りして使わず、
 迷わずひらがなをお使いください
 ‥‥おわり」、だったんです。
糸井 それは拍手ものだねぇ!
中島 4年間、文学部で勉強させておいて
卒業するとなったら、
「ひらがな使いなさい。はい、さようなら」
ですよ。
今まで4年間学んだことは捨てろ、みたいな。
糸井 素晴らしい!
中島 はい。あれは肝に命じています、わたし。
糸井 ぼくもそうしようとしてますね。
できるかぎりダメな方の自分に従おうっていう。
中島 そうですねー。
知ったかぶりすると痛い目みますよね。
糸井 疲れているときとか、
知ったかぶりを、
たまにしてしまいますね。
中島 そりゃ人間ですから。
やっちゃいますよ。
糸井 あ、やっちゃいますか?
中島 しょっちゅうですよ。
急いでるとき、
頭に血がのぼったとき、
あせったとき、
見栄はったとき。
糸井 そうですね。
急いでるときは同じですね。
中島 危ないですね。
体力ないときも危ないですねぇ。
糸井 体力ないときはだめですねー。
中島 だめですねぇ。
糸井 それにしてはたくさん
曲を産み出してるっていう話に
一回戻りましょうか(笑)?
中島 いやいや、少ないですよ。
糸井 その“少ない”という
言葉の意味がよくわかりました。
これしかできないっていう分だけ
作ってるんですね。
それにしてはいっぱいになりましたという。
中島 あ、そうなんですかね。
糸井 うんうん。だってお客さんが
その足取りに付いて来てくれるから、
作る権利があるんですもん。
中島 うん。
糸井 作る権利ってやっぱりあるんで。
中島 そうですね。
書いてもいいよと言ってくれなきゃ
書けないですもんね。
糸井 そうなんです。
それを頼まれてないのに
書く状況っていうか、
聴いてもらえないかもしれないものを
書くってことが、プロの場合ありうるんですよ。
依頼されてない、
聴いてもらえないかもしれない、
読んでもらえないかもしれない、
けども俺は書けるぞっていう
自負で書いちゃうものが世の中には結構ある。
でも、みゆきさんの場合は、
聴いてくれる人が
ちゃんと見えてるんですよね、ずっと。
その歩みの長さがやっぱり素晴らしいと思う。
聴かれるために作ってるものって、
お客さんが一緒に歩いてきてるなと思わなきゃ
作れないはずなんですもん。
中島 そうですね。相手あってのことですからね。
糸井 みゆきさんは、その足取りが
一致している数だけ曲を作ってて、
ずーっとそのペースで歩いてきてらっしゃる。
あ、今急に尊敬語になってしまいました(笑)。
中島 あははは。
糸井 今、知らず知らずの敬意が。
中島 冗談ですか?
糸井 いやいや(笑)。
幸福なことだし、素晴らしいことですね。
中島 うん、そうですね、ラッキーだと思います。
糸井 こういう道のりじゃなかったら、
どっかで道を間違うってこともありますしね。
よくぞ、近眼を治さずに‥‥。
中島 治さずにねっ。
糸井 うん。よくぞ、そのシスターの教えも守って。
中島 えへへ。
糸井 いい教えだなあ。ぼくも覚えとこ。
わかってるつもりだったけど、
改めて言葉になると守りやすくなりますよね。
中島 ええ、言葉って不思議ですね。
糸井 何だか歌詞や言葉の話ばかりになっちゃったので、
ここで曲の話も‥‥。
中島 あ、曲の話はね、
今日はしなくてもいいんですよ?
糸井 曲の話はいいなんて、おもしろいねー。
中島 あ、でも何かおっしゃりたい?
糸井 うん。
 

(つづきます!)

2007-09-20-THU
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