第9回 淀まないためのクリエイティブ

糸井 『Wii Fit』も『マリオギャラクシー』も、
宮本さんの立場はプロデューサーですよね。
宮本 ええ、プロデューサーです。
糸井 おおきな方針やテーマを決めて、
ある程度組み立ててもらったものを、
途中で入っていって確認していく
みたいなことをやってるんですかね。
宮本 そうですね。『Wii Fit』なんかだと、
基本設計の部分から決まってない商品だったので、
ハード自体もつくりながら、
簡単なテストとミーティングを
何度もくり返していって、
「こうつくろう」と決まってからは、
現場がダーっとつくるのを
半年くらい平気で放っておいて、
まとまってきたらチェックして
どんどん直していくという感じで。
糸井 その、「放っておく半年間」って、
口を出し過ぎるとよくないんですか。
宮本 あんまり最初からいろいろ言うより、
ある程度、現場が納得するまで
つくったほうがいいと思うんです。
とはいえ、気になるときには
現場に張りつくこともありますけどね。
糸井 あー、ぼくと同じようなスタンスですねぇ。
なんか、だんだんやってる仕事が
宮本さんたちとシンクロしてくるなぁ。
年のせいかな。
宮本 (笑)
糸井 あの、昔だったら、
「こういうことで行こうぜ」と言ってから
「どうなった、どうなった?」って、
2日後には訊いてたような気がしませんか。
宮本 はいはいはい(笑)。
だからね、わりと意図して放っておくというか。
とくに、今回の『Wii Fit』は、
任せておいて大丈夫なメンバーだったので、
原型がだいたいできてたら
もう大丈夫だろうというところもあって。
糸井 なるほど。そういうふうにやって
「つくっている気持ち」が減るかというと
そんなことはないですしね。
宮本 そうなんですよね。
だから、そこは説明が難しいところなんですけど、
『Wii Fit』にしろ『マリオギャラクシー』にしろ、
直接ぼくがつくっているところって、ないんです。
だから、こういうところでこうしてしゃべると、
「あなたはなにもつくってないんじゃないの?」
というふうに言われるようなこともある。
たしかに、それはそのとおりなんです。
でも、ぼくが決めることを決めてないと、
これはできていないぞ、というプライドもあって。
糸井 それはそうでしょう。
宮本 その意味からいうと
「これはぼくがつくりました」なんですが、
じゃあ物理的にどこをつくったかと言われると
「すいません、なにもつくってません」
っていうことになる。
糸井 ああ、わかる、わかる(笑)。
宮本 ファミコンのころのゲームならね、
細かいデータも自分で決めたし、
仕様も全部自分で書きましたから、
ある程度「つくりました」と言えたんですけど、
もうここ15年くらい、
自分で直接は作業してないですからね。
でも、どっちにしろゲームって
組織じゃないとつくれないし、
たったひとりが欠けてもそれは完成しない。
そういうものをつくってるわけです。
そうなると、全員のクリエイティブを
どれだけ引き出すかというのが
やっぱり自分の大切な仕事になるんです。
糸井 そうですね。
宮本 現場が淀まないように見渡しながら、
「淀まないためのクリエイティブ」をやる、
みたいなところがぼくの仕事で、
それは、ネタ出しもあるし、肩もみもあるし、
日によって変わってきますね。
糸井 「ちゃぶ台返し」も(笑)。
宮本 「ちゃぶ台返し」もあるし(笑)。
そういうことをやってるねんな、と
自分では分析しているんですけど、
なかなかうまく説明できなくて、
で、久しぶりに会う人なんかから
「最近、つくってないですね」って言われると、
「ああ、そう言われるとつくってないですね」
って、しょうがなく答えたりして。
糸井 つまり、プレイング・マネージャーじゃないと、
「つくっている」と思わない
タイプの人がいるんですよね。
宮本 そうなんですよね。
だから、最低限のこととして思うのは、
開発チームの中心メンバーがぼくを
「いてくれてよかった」と思っているかどうか。
ま、そこが、ぼくの存在価値かな(笑)。
糸井 わかる、わかる(笑)。
宮本 ただ、うちの組織としては、もう、
ぼくがいなくてもできる組織にせなあかんので、
そこが悩みどころなんですけどね。
糸井 いや、ぼくも、自分をどれだけいなくするかが
これからの自分の仕事だって本気で言ってますよ。
宮本 そうですよね。けど、やっぱりね、
「いてもらったほうがいいな」
と言われるほうがうれしいのが本音で(笑)。
糸井 いや、そりゃそのほうがうれしいよ!
宮本 (笑)
糸井 もう、オレなんかはね、
みんなの相談を受けるのとかね、
決してイヤじゃないね!
宮本 あははははは。
糸井 「しょうがないな」とか言いながらね(笑)。
あと、もうひとつ理想的な姿としてあるのは、
みんながすごくうまく回っているときに
わざわざ出て行ってジャマする役。
宮本 あ、なるほど(笑)。
糸井 物事がすごくうまく運んでてね、
「ワンといえば、つぎはツーですね」
みたいなところに顔を出して、いろいろ言って、
「糸井さん、ワンとツーの話をしているときに
 急にイロハのロを言わないでくださいよ」
みたいなことを言われたりする人。
そういう、わがままな人に
ぼくはなりたいですねぇ。
宮本 でもね、いちばんわがままなことというのは、
権力がある人が言わないとダメなんですよ。
そうじゃないと通らないから。
糸井 ああ、そうか。そうか。
宮本 だからね、年を取ったら、
わがままを言ったほうがいい。
糸井 そうですねぇ(笑)。
だから最終的にぼくは、
自分がまったく手を出さなくても
平気なチームができるのが理想で。
だけど、そのチームのメンバーが
「あいつにジャマされたいな」と思って、
来るのを待っている、という老人になりたい。
宮本 いいですねぇ(笑)。
糸井 ちなみに、
山内さん(元任天堂社長、現相談役)は
宮本さんたちにどういうことを言うんです?
宮本 ようするに、
素直なことを言われる人なんですよね。
それで、「そうなのかな?」と思って、
実際に物事をすすめてみると、
やっぱりそこに真実がある、というような。
あとは、わかってることでも、
あらためて言ってくれたりね。
そういうことって、言われないとダメでしょう?
糸井 そうですね。
宮本 言われると困るようなことを
はっきり言ってくれたりね、
あるいは「うぬぼれるな」とかね、
たまに言われないとダメだと思うんです。
糸井 うん、うん。

(続きます)
2008-02-06-WED