坂本美雨のシベリア日記。
一日一日が、かけがえのない一日。




1/11/2002
シベリア鉄道 DAY 16
最終目的地点モスクワへ


とうとう今日は、
この旅の最終目的地点モスクワに到着する‥‥。
4時半に起きて
(なんで4時半きっかりに起きることが多いんだろう)、
頭が痛くて焦る。
もしや、これが、二日酔いというものなのか?
まさかなぁ‥‥ヤバいなぁ‥‥と思いながら
無理矢理もう一度眠る。
7時半頃に再度起きると、けろっと治ってた。
午前中は色々列車内での最後の撮影をしている。
時間の経つのが遅い。



だんだんモスクワに近付くにつれて、
列車はスピードを落として走っている。
私は、何故かテンションが下がってきているのに気付く。
ずっと目指してきた場所でしょう?
やっと日本に帰れる日も近付いたでしょう?
何故だろう、ってずっと考えていた。

結果、まず第一に、
イナカモードと都会モードの切り替えが
出来ていないという事。
シベリアに2週間いたせいで、
ビルや車などの光景に目が慣れていない。
文明に対する、身体の軽い拒否反応。

第二に、
モスクワ近郊に入ってからというもの、
窓から見える雪やビルなども景色も、
全体的に灰色が多くなってあまり綺麗ではなくなった。
線路沿いの木々も薄く、切り倒されているのが目立った。
雪も行き交う車のせいで東京のように溶けて
べちゃべちゃしていそうだし。

第三に、
もうすぐ旅が終わる、さみしさ。
‥‥これが案外一番大きいのかもしれない。
四六時中一緒だったこのクルーと離れてしまうこと。
クルーはもう次の仕事がすぐに控えていて、
次へと切り替えていくこと。

そして第四の理由‥‥
曇り空に、飽きた。
(こんなことでは心の故郷ロンドンには住めないかしら。)



列車での最後のインタビューを撮影した。
素直にこの気持ちを言った。
でもそれだけ、
シベリアという広大な地区で教えられたことが
私にとっては重かったということだ。
列車から眺めるモスクワは、
全体的に、ロンドンのような灰色のイメージ、
でももう少し暗い。
いかにもモスクワらしいタマネギ頭の建物が
ところどころに見えてくる。
車内最後の昼食を食堂車に食べに行く。
ロシアチームが夜呑んでいる間に
いつのまにか仲良くなったらしい食堂車のコックさんが
私達のために腕をふるってくれるそう。
とにかくすごい量で、
ボルシチ、肉、ペルメニスープなど。
美味しかったぁぁ。お腹いっぱい。
クルーが最後の最後の撮影をしている到着までの間、
うたたねしたりしてまったりする。
まだブルーな気持ちを引きずっている。
ちなみに、到着一時間前からトイレは使えなくなる。
(ようは、通常は走りながらそのまま流していくので‥‥
 市内に入って速度を落とすと、
 流せなくなるということ‥‥。)

15時頃、ついにシベリア鉄道最終駅モスクワ到着。
列車の中でなんとなく感じていた空白は、
駅の建物に
大きな「MOCKBA」(=モスクワ)の文字を見た瞬間に、
ゆっくりとお湯が染みわたるみたいに満たされていった。
あぁ着いたんだ、横断してきたんだ、この列車で。
長い長い列車を前から眺めながら、
じんわりとそう感じる。
荷物を抱えてホームいっぱいの人々に流されながら、
モスクワのあったかくて、湿っている空気を吸い込む。
線路の一番終わりに建つ、
シベリア鉄道9892キロの記念碑。
自分で自転車をこいでいるわけでもないので
達成感はそんなにないけれど、
この地点から線路が9892キロも
ずーーーっと延びてウラジオストックまで繋がっている、
とイメージすると鳥肌がたつ。



しかし、記念碑で立ち止まっているのが大変なほど、
とにかくものすごい人の波。
これぞロシア‥‥!
渋谷のスクランブルなみ。
駅舎の中を通り抜けて、
人込みにまぎれ込んで歩いているうちに、
もう一人の都会の自分が戻ってきた気がする。
東京やニューヨークにいる時の、身体のリズム。
歩くリズム。
駅の外に出ると、
ニューヨークのPenn Stationとか
タイムズスクエアみたいな感じがする。
イルミネーションやネオンがキラキラしていて、
人々が無表情に淡々と歩いてゆく。
大きなカメラで撮影が行われていても
好奇心の目を一瞬むけるだけで
あまり動じずに通り過ぎてゆく。
広い道には、トローリーバスが走る。
クラクション、人々の足音、水がはねる音、
たくさんの人々の会話。
2週間聞いていなかった音が溢れる。



バスに乗って20分ほど走ってAerostarホテルへ。
なぜかエンヤの曲が頭をぐるぐる。
バスからの風景は、ニューヨークにも似ているけど、
もうちょっと地味な
ニュージャージー州という感じかな‥‥。
車のせいで雪は汚いけれど、
暖か過ぎて溶けてしまっているようで
道路の端に若干残っている程度。
気温は、マイナス2℃くらい?
シベリアの極寒で鍛えられた私達には、
コートいらないかな?
っていうくらい暖かく感じられる。
バスから外を眺めている間に、
ゆっくりとスイッチが入った。
もう大丈夫もう大丈夫。
モスクワ、好きになれる。


坂本美雨オフィシャルホームページ
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ジョアンのカヴァーを中心に、
ジョアンの歌声にインスパイアされた
オリジナル曲も収録予定です.

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宮沢和史・畠山美由紀+Cholo Club・
小野リサ・THE BOOM・
Nathalie Wise&坂本美雨・
Ann Sally・青柳拓次・
saigenji・CHORO AZUL・
ナオミ&ゴロー・Dois Mapas・
中村善郎・AURORA・
So Aegria(順不同・敬略)

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坂本美雨さんプロデュースのアクセサリー
“aquadrops”が誕生しました。
aquadrops(アクアドロップス)は、
坂本美雨さんがデザイン・製作、
トータルプロデュースを手がける
オリジナル・アクセサリーです。
美雨さんからのメッセージをどうぞ!
aqua drops...

揺れる水の粒。
したたる、春の慈雨。
冷たい水に触れる、指先。

透明感のある繊細なエレガンス、
毅然としたハードさ、フェミニンな揺らぎ。
耳から首筋、鎖骨へのしなやかなラインは
女性の美しさの象徴のような気がします。
そこを、水滴が一粒流れ落ちるような...。
そんなイメージを抱いています。

幼い頃から、母親や友人や自分のために
ビーズでアクセサリーを作るのが
好きでたまりませんでした。
最近、人を綺麗に見せるラインの洋服が
どんどん消えていき、
女性がドレスアップして行く場所も少なくなった。
そんな中で、おもわず背筋がピンと延びるような、
髪をキュッとアップにして出かけたくなるような。
生活の中で愛しい人や物を
真っすぐに見つめられるような。
自分が大切に作ったピアスを
耳にかける時に感じる、そんな気持ちを、
身につける一人一人にも感じてもらいたいと思い、
一つ一つ作り始めました。

坂本美雨

http://www.miuskmt.com/
 
限定通信販売もスタート!

aquadrops取り扱い店
<20471120>
東京都渋谷区神宮前3ー29ー11 
03ー5410ー2015
12時〜20時
<RICO>
渋谷区恵比寿西2ー10ー8 
03ー5456ー8577
12時〜20時

坂本美雨さんへの激励や感想などは、
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2003-10-23-THU
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