坂本美雨のシベリア日記。
一日一日が、かけがえのない一日。



1/6/2002
シベリア鉄道の旅 DAY 11
イルクーツクを離れる前に。



いつ眠って、いつ起きたのか、わからない。
起きたらまだ外は暗くて、
だけどそのまま起きていることにする。
ホテルの部屋に時計がないままなので、
いったい今何時なのか、よくわからないまま。
勇気を出して、バスタブのないバスルームで
シャワーを浴びる。
一応シャワーカーテンで人一人分
区切られるようになっているけれど、
やっぱり洗面所中水びたし。

夜明けを待ったり、河を眺めたり、
外を散歩してこようかと迷って
やっぱり寒いからやめたり。
朝ゆっくりできるのはうれしい。
9時半頃雨宮さんと朝ごはんへ。
2Fのただっ広いレストランには、いつも通り、
だぁ〜れも居ない。
いつもの木の実ジュースと、ハムなどの他に、
今日初めてトライする、どろどろのお粥のような
“カーシャ”というものが出てくる。
オートミールに近いのかな。
だけどもっとねばねば。
(味は‥‥ちょっと微妙‥‥
 けどこれもうちのお母さんが好きそうだ‥‥!)

11時、ロビーコール。
外は青空。
今日は外にいることが少ないので、
ダウンではなく黒いコートを着る。
もともと父親の物だった
赤く大きなマフラーでしっかりと首元を覆って、
外の冷たく張り詰めた空気へ飛び込む。



駅へと向かう前にまずは、
ホテルの目の前の小道を
歩いているところを撮影することに。
ずっと散歩したいなと思っていた
アンガラ川沿いのこの小道。
7Fの部屋の窓から眺めていたときは、
河から厚い煙がたちあがっているみたいに見えて、
なんだろうとずっと思っていた。



その小道から階段で下に降りてられるようになっていて、
河のそばまで降りていく。煙のように見えたのは、
水面からモワ〜っとたちあがる蒸気だった。
そこは雪が積もっていて、
地面と水の境目が分からなくなっている。
ドキドキしながら一歩一歩踏み出し、
水に近付いていく。
あたり一面水蒸気に包まれて、
なんともいえず、幻想的。
ところどころに浮いている凍りかけの氷のかたまりや、
その上に小さな島のように浮く雪。
枯れて折れ曲がった草。
行ったことはないけれど、死海のようなイメージ。
水蒸気がそのまま雲とつながっているみたいで、
本当に綺麗。
一面の白の世界は強烈に眩しい。



河沿いを気をつけて歩きながら、
そっと、アンガラの水に触れてみる。
ものすっっごーーーく冷たい。
瞬時に感覚が無くなる。
バイカル周辺のアンガラ河の水が
まだそのまま飲めるのだから、
このへんの水も飲めるのかな‥‥
下流の都会のほうはやっぱり汚くなっているんだろうか。
足元の雪はサラサラで、
パラパラ…と乾いた音が聞こえそう。





駅へ。また、長い列車の旅の始まりだ。
トータルで4日間滞在した
イルクーツク/リストリビヤンカ。
イルクーツクはとても過ごしやすく、
市内にはもっとたくさん
見に行ける場所もありそうだった。
日本人も比較的多くとどまっているのも分かる。
駅のキオスクでサキイカを買う。
小さい頃からサキイカとかジャーキーとか
乾き物が大好きで、御飯は食べなくても
そういうおつまみ系だけ食べていれば幸せなのだけど、
日本から持ってきた分はもう無くなってしまったので、
もっと買い込んでくればよかったなぁと
思っていたところ。
サキイカはロシア語で“カリマル”というらしい。
ホテルで50ルーブルだったものが、
駅ではたった17ルーブル。



私達が乗り込んだ青い車体のバイカル号は、
今までのロシア号の何倍もキレイで、
コンパートメントのテーブルには
お菓子まで置かれている。しかも、
私達の車両の車掌さんがすっごくカワイイ!!
Bjorkみたいで、本当に可愛い女の人。
その上、とてもよく働く。
キビキビ、無駄のない動きで。惚れる‥‥。

今日の事件。バッテリーのチャージャーが
また二つ壊れてしまったらしい。
列車の不安定な電圧はやはり機材には致命的らしい。
機材チームがハラハラしている。
ディナーは食堂車にて、チキンをいただく。
ピクルス、サラミ、
チーズとサワークリームのサラダが美味!
サワークリームは今まで好き好んで
食べるものではなかったけれど、
サラミとピクルスにかけると絶妙なコンビネーション。
シンプルな料理が一番美味しいのは、
素材が良いからなんだろう。
特に、漬け物好きとしては
ロシアのピクルスはサイコウ‥‥!

隣のテーブルには、カナダ人の女の子と
アイルランド人の男の子のカップルが座っている。
男の子はなんと東京に住んでいるとか
住んでいたことがあるとか。
(こういう風になら、自分から話し掛けたりも
 できるのにな…。)

コンパートメントに帰ってから、
雨宮さんと色々と仕事の話。なんだかハッとする。
考えてみたら、東京での仕事の亊は、
この旅が始まって一度も思い出していなかった‥‥。
喋っていても、遠い世界の話をしているようだ。
現実味がなく、重要な亊であるという実感も
薄くなっている。
日本での世界だけに視野を置いている時とは
全くもう価値観が変わっている。
東京で持っている物などはそんなに大切ではないのだ、
と思える。
物の無い国で、どれだけにシンプルに暮らせるかを
見てしまったら。
そしてそうやって大切なものだけで暮らしている人々が
どれだけ素晴らしい笑顔を持っているかを
知ってしまったら。


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2003-09-11-THU
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