坂本美雨のシベリア日記。
一日一日が、かけがえのない一日。



1/4/2002
シベリア鉄道の旅 DAY 9
バイカルの見渡せるイルクーツクのホテルで。





起きてシャワーに入ると、水圧が低くて困る。
鼻にめんちょうと、口内炎が出来始めていて、
ピアスの穴も腫れてきた。
まずいなぁ..体調が崩れてきているのかな。
ホテルの地下にある、広いレストランで
無言の朝食をとる。一人分の席が空いている。
上野さんは今日も、朝の食卓にはあらわれない。
朝御飯は食べない習慣だそうだ。
シベリアでの朝食って何かの木の実のジュースが
必ず出て来るのだけど、
不思議な味でいつまでも慣れない。
普通にオレンジジュースとかでいいんだけどなぁ、
と思いつつ、妙な味覚を持つうちの母親なら
木の実ジュース好きかもな、と思う。
ブリニーというちょっと厚めのクレープは
すごく美味しい。
ちょっとでも甘いものがすごくうれしくて、
豊かに感じる。

8:10ロビーコール。
今日は空撮日。
ロケバスで一時間ほど走り、
イルクーツク空港へ向かう。



ウワサのスーパーマリオ(ワロウジャさん)に会う。
スーパーマリオに体形もヒゲも表情もソックリ!!
ヘリの手配をしてくれた、
パイプラインという旅行会社の人で、
この地域では権力ある人らしい。
空港はとても小さく、地味な長方形の建物。
天気は最初雪がちらついていて、
昨日から
「ヘリは絶対飛ばないでしょう」
と言われていたけれど、
昼に向けてだんだんと晴れてきて、
無事飛べることになった。
がっしりとした軍用のヘリで
13人くらい乗れるらしい。
乗り込んだのは上野さん樋口さん
杉山さん藤井君とサーシャの5人。
私も乗ってみたかったけれど、
何が起こるかわからないし、
空撮は飛んでいる最中
ドアを開けて撮影するので
危ないかもしれないということでやむなく断念。
西野さん、雨宮さんと私の3人は
まるで昔の特攻隊員を見送る妻達のように
最後の記念写真を撮って、切なく見送る。



ヘリが飛び立つのを塀の隙間から見送った後、
(写真の左側のちっちゃいのが飛び立つヘリ)



少し空港の中をウロウロし、
フィルムなど購入。
カラフルなキオスクには、
タバコ、お酒などに並んで
植物の種なども売っていて(写真左上)、
土と共に生きるシベリアに居ることが
妙に納得できてしまう。



その後、お昼ごはんを食べに行く。
バスで10分ほどの所にある、
グルジア料理のレストラン。
観光客にも人気のようで、
マリオは仕事でかなり来慣れている様子。
マリオ(といつのまにか勝手に呼んでいる)は饒舌で、
商売上手で陽気なロシア人という感じ。
息子さんが日本人と結婚して福岡で
車関係のビジネスをやっているそうだ。
マリオの助手のおじさん(ルイージ?!)は
英語とスペイン語も話せるので
ひさしぶりに英語を喋る。
照明が落とされてバーのような落ち着いた雰囲気の
グルジアレストランは貸しきり状態で、
味はとぉっても良かった。
ビーフバーリーのような煮込みスープ
(いわゆるボルシチとはちょっと違う)が
ものすごく美味しくて、
これまでの旅中で一番かも・・!
私達がお腹いっぱいになってる時に、
みんな空の上にいるんだよなぁ...ごめんね、
と思うが、向こうも羨ましい。
みんなはどんな景色を見ているんだろう。
空から見た大地は、そしてシベリア列車の線路は、
どんなに広大だろうか。

満腹になったところで、少し街を歩くことにする。
..といっても、お買い物!
という雰囲気でもなく、
とりあえずひっそりとお土産を探して見て回る。
大きな文房具屋さんを見つけ、
グリーティングカードなど何枚か買って、
あとはずっとそのへんをうろうろ。
鶏と卵のトレードマークの黄色いキオスクが可愛い!
木々が雪をかぶって重そう。
その下を重そうなコートの人々が行き交う。







また空港に帰り、
底冷えに耐えながら皆の到着を待つ。
約3時間ほど飛んで、ヘリは無事帰って来た。
みんなが歩いて来たのが見えた時、正直ホッとした。
男性達はとてもいいカオをしていて、
「すごかったよ!」と口々に言う。
「どんな?どうだった?」と一人一人の顔を
きょろきょろ見ながら聞いても、口をそろえて
「まぁ完成した映像を楽しみにしててよ」と言うのみ。
みんなニヤリとしちゃって、もぅ〜〜。

次はミュージアムへ。
バスで20分のところにある、
革命家デカブリストの妻達の家「トルベツキーの家」。
1852年の反乱後、
乱の首謀者の貴族トルベツキーの妻が
そこで、シベリア送りになった夫を追って
厳しい生活に耐えながら音楽学校を開いたという家が
そのまま保存されている。
中は暖かくて広く、下でコートを預けて、
たくさんの植物が置かれた2階への階段を上がると、
部屋は家具や雑貨や写真でいっぱい。
説明書きを見ると、妻達の多くはまだ20代。
その妻達の一人は同い年だった。
夫が革命派で、追われる身だったり
流刑や死刑になったりしていたら、
自分だったらどうするかな..。
この家では妻同士、
励まし合って暮らしていたのだろう。
居間には、世界に2つしかないという
ピラミッド形のピアノが、弾いてくれる人を待っていた。
特別に触ってもいいと言ってくれたので、
そうっとふたを開ける。
強く引かないと音が出にくく、
ピーンと張り詰めたぎこちなくて懐かしい音が
居間を満たす。

木の門をくぐってトルベツキーの家を出ると、
いつのまにか外は真っ暗。
また一時間かけてバイカルホテルに戻る間、
バスの電気が消されて、
みんなでぐーぐー寝てしまった。
あの感じは、すごく懐かしい感じがして、好き。
私が行けなくて憧れていた修学旅行とか、
あんな感じなのかな。
皆、寝てる。
あるいは、本当は目が覚めていて、
じーっと外の闇を眺めているのかもしれない。
ふっと目を覚ました時に、どこにいるのか、
あとどのくらいで着くのかわからなくて、
でもいつもの顔が周りにあって、
それぞれの世界にいる空間。
安心する。
しばらく窓から外を見ていたら、
星空がすごいことに気付いて、
それから到着するまでずーっと空を見てた。
見ているうちにどんどん増えていく。
怖いくらいに。

バイカルが見渡せるこのホテルが好きになっている。
ワクワクする。
スウェットに着替えてホゥッと息を緩める。
ホテルのレストランでディナー。
オツカレサマ、で一口、ウォッカを。



その後ちょっと外に出て、
高台から真っ黒なバイカルを眺める。
星がすごく低くて近いところにある。
星をずっと見ていて目が慣れてくると
どんどん宇宙の奥まで見えてくる。
オリオン座の中にも、明るい星がたくさん。
ゾッとするくらいの数。
上野さんが明日は晴れると言う。
真っ黒なバイカルは、吸い込まれそう。
よく見えないけれど、ブラックホールのように
引力を発しているような気がする。
変わらずザーッッゴーーッという
静かな音は聞こえている。
空をずっと見上げていたら、
大音量で音楽をかけている
2階のカフェのベランダに酔っぱらいの男性達が
3人出てきて、
「こっちおいでよー」と声をかけてきて、
ひんやりと静かな雰囲気を壊す。
英語で「もう部屋帰ってねるから行かないよー!」
と返事をして、ホテルに入る。
ロビーにいた上野さんと話しはじめる。
この旅はこのままでいいのか、という様々な事。
どうしたらもっと良い物ができるのか、
どうしたら自分自身もっともっと感動し、
うまく吸収できるのか、不安が襲ってきてしまった。
結局、自分と向き合うことになってしまった。
この旅を通して何と出会いたいのか、
どう変わりたいのかを考えていくと、
結局自分のコンプレックスやトラウマと
必然的に向き合うハメになってしまう。
“種族”が似ている気がする上野さんと話していると
それが明確になってきて、
同時にそれが辛かったりもする。
人との関係において欠落している部分が、
普通に暮らしている時は
別に向き合わなくてもいいのに、
ここに来て自分の常識も通じないし
自分を守ってくれる家族や友達も側にいない状況で、
見えてきてしまう。
人々をちゃんと好きになりたいし、
行動でもそれを示したい。
アガペー愛に憧れ、愛したくてしょうがないくせに、
人に会うのが怖くて、時にはめんどくさくもあり、
純粋な関心さえ持つのも大変、という矛盾。
社交はできるけど、
それ以上にはすぐ壁を作ろうとする。
大嫌いな自分が見えてしまう。
 
あと、もう一つの問題、
カメラに撮られるという事について。
カメラが回っている時、
私が無意識にカメラを避けて、
そっぽを向くらしい。
絶対意識的にはそんな事していないから、
自分じゃ全然気付かなかった!
(もっと早く言ってくれれば!)
すごくショックだった。
自分がカメラ嫌いだと思った事はないから。
スチールだといつも「撮られている」という事よりも
「そっち側に行きたい」というような意識で
撮られているけれど、確かに今回はそれとは違い、
カメラとのコミュニケーションよりも、
“普通の自分が景色や人々と
 コミュニケーションしている所を撮られている”、
という状態なので、
カメラとの距離感がよく掴めていない。
「普通であること」
「自然の自分」
「自然のリアクション」を
意識し過ぎているのかもしれない。
 
混乱しつつ、就寝。

坂本美雨オフィシャルホームページ
「stellerscape」
ジョアン・ジルベルトの
トリビュートアルバムに
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『フェリシダージ・トリビュート・トゥ・
 ジョアン・ジルベルト』


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東芝EMI/TOCT−25177/
¥3,000(税込)



9月に初来日が決まっているボサノヴァの神様、
ジョアン・ジルベルト初来日記念アルバムに
ナタリーワイズと一緒に1曲参加しました。
ジョアンのカヴァーを中心に、
ジョアンの歌声にインスパイアされた
オリジナル曲も収録予定です.

<参加アーティスト>
宮沢和史・畠山美由紀+Cholo Club・
小野リサ・THE BOOM・
Nathalie Wise&坂本美雨・
Ann Sally・青柳拓次・
saigenji・CHORO AZUL・
ナオミ&ゴロー・Dois Mapas・
中村善郎・AURORA・
So Aegria(順不同・敬略)

くわしくはこちらのサイトへ

坂本美雨さんプロデュースのアクセサリー
“aquadrops”が誕生しました。
aquadrops(アクアドロップス)は、
坂本美雨さんがデザイン・製作、
トータルプロデュースを手がける
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美雨さんからのメッセージをどうぞ!
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したたる、春の慈雨。
冷たい水に触れる、指先。

透明感のある繊細なエレガンス、
毅然としたハードさ、フェミニンな揺らぎ。
耳から首筋、鎖骨へのしなやかなラインは
女性の美しさの象徴のような気がします。
そこを、水滴が一粒流れ落ちるような...。
そんなイメージを抱いています。

幼い頃から、母親や友人や自分のために
ビーズでアクセサリーを作るのが
好きでたまりませんでした。
最近、人を綺麗に見せるラインの洋服が
どんどん消えていき、
女性がドレスアップして行く場所も少なくなった。
そんな中で、おもわず背筋がピンと延びるような、
髪をキュッとアップにして出かけたくなるような。
生活の中で愛しい人や物を
真っすぐに見つめられるような。
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坂本美雨

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坂本美雨さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「坂本美雨さんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2003-08-28-THU
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