坂本美雨のシベリア日記。
一日一日が、かけがえのない一日。

12/30/2001
シベリア鉄道の旅 DAY 4
ハバロフスクともお別れ。


やっと3日間が過ぎた。
まだ4日目だということが信じられない。
不規則な生活のせいか、
もう一週間以上は居るような感覚。
時間が伸び縮みする。
昨晩の「早々と就寝」は、
自分の普段の生活からいったら
0時半就寝は早いというだけで、
実際は2時間しか眠れない。

夜中2時半、起床。
シャワーのお湯が出ない。
そのくらい我慢だ、と予想していたものの、
ついに来たか、という感じ。
雨宮さんの部屋でシャワーを借りる。
急いで用意して4:15Lobby Call。
ハバロフスクともお別れ。
短かった。
アムールはもう一度見たい。
これから2泊3日、車中だ。
いよいよ本格的な「シベリア鉄道の旅」といった感じ。
ずっと乗りっぱなしのまま、年も越すことになるのだ。



<ハバロフスク線>に乗り込む。
窓の外はまだ真っ暗で、夜明けが見たいけれど、
眠たくて・・。
今日私達は10時半起床予定なので、
それまで少し眠る。
記憶のあるうちは、空が白んでくることもない。
シベリアの冬の夜明けはとても遅い。



シベリア鉄道は、度々駅に停まりながら走る。
車内の廊下には、どの駅に何分停まるか、
水着の女性の後ろ姿という
極寒シベリアの両極にある
イラストの時刻表が貼ってあり、
時間がある時は少し降りて外の空気を吸うことができる。



午前中は、15分ほど停まる駅で
“ホームに降りて、食べ物売りの人から何か買う”
にチャレンジ、その光景を撮影。
冬だからか、ガイドブックなどで読んでいたほどは
種類がなくて、出店している人も少ない。
野菜などは姿が見えない。
パウンドケーキのようなものと、
魚(まるごとベロッと)の薫製と、
蒸かしたじゃがいもを買う。





おばさんが自分で朝作って鍋ごと持ってきたらしく、
白いホウロウの鍋を開けた途端
湯気がモクモクたちのぼる。
手をかざしたくなる。
ここには毎日売りに来ているらしい。
じっと立っている寒さは本当に辛いので、大変そう..
だけど、そんなところ微塵もみせない。
寒いのは当り前であり、これは長年の仕事だ。
辛いとかいう次元ではない、という感じ。
買う時「スコリカストイッド?」(いくらですか?)と
聞いてみて一応通じるものの、
返してくれる答えが解らないのであまり意味がなく、
指で8とか12とかやってもらう。
小さな薄いビニール袋に鍋から
直接じゃがいもを入れたのには少しびっくり。
車内に戻って、雨宮さんのコンパートメントで
早速じゃがいもを食べてみる。
ほんのりタマネギ風味で、すっごく美味しい!
フワッとしていて、豊かな味。
これが、この土地の味だ。
雨宮さんの持ってきてくれた塩を振りかけて...
あぁシアワセ。雨宮さんもニッコリ。



食堂車でのランチ。
一つのテーブルが4人がけなので、
2チームに別れて座る。
‘若者チーム’で座ったので、
杉山・藤井コンビの事を色々と聞く。
仕事、会社、学校、家族の事など。
こんなに何にもお互いの事を知らない人達同士が
3週間も四六時中一緒だなんて、なんておもしろい!
皆の事をもっと知りたいと思う。
例え仕事だとしても、
もっと個人的に知り合って行きたいと思う。
杉山くんがカゼぎみなので、
ビタミンとカッコントウをあげる。



一日中電車に乗っていると、
駅に停まるごとにホームに降り、
色々と物色するのが唯一の楽しみになる。
列車がスピードダウンすると雨宮さんと二人で
そわそわしだし、ダウンだけサッと羽織って、
さっそうと電車を降りる。
30分停車の大きな駅
(私の読み方が間違っていなければ
 たぶんベロゴルスク駅)はとくに印象的だった。
抜けるような青空をバックに、
駅ビル(?)の前に
レーニンの像が立っていて、
「これかー!」とはしゃぐ。
ロシア中あちこちに像はあるが、
ソビエト崩壊後も、壊すのにお金がかかるので
たいていは放ってあるらしい。



雨宮さんがアイスクリーム売りのおばさんを
めざとく発見し、5ルーブルでアイスを買う。
アイスがそのままダンボールに入れられて
売られている様は当たり前のように見えるけれど、
よくよく考えたら保冷剤とか何も無いのに
溶けないってどうなってるのよ..
しかも溶けないどころかすごく固いよ...。
でも寒い中アイスを食べるのは、
とても美味しい。
暑い日に鍋焼うどんで汗をかく、みたいなものかしら。



それから水ぎょうざのようなものを買う。
ウロウロしていたら、少し英語のしゃべれるおばさんに、
買ったのと同じ水ギョーザを
さらに20コくらいいただいてしまう。
何か気に入られたのかな?
うれしいけれど、そんなに食べられないです...。
でもなんとなくコミュニケーションしている。
松の実などを売っているおじさんもノリが良く、
隣の青年を「いい男だろ? デカイ手だ。」
と言ってニヤニヤしてくる。
大きな手は、仕事が出来るということなのかな。



雨宮さんはサラミやミカンなど両手に抱え、満足気。
抜けるような青空と、冷たい空気が気持ち良くて、
やけに楽しい。
氷の上で、スズメ達も元気そう。
皮下脂肪を蓄えているのだろうか、
日本のスズメよりもまるまるしている気がする。



再度列車が走り出す。
水ギョーザにちょこっとお醤油をかけて食べてみる。
皮がぶ厚くてほくほく。
でも多すぎるのでCREWと分け合う。
遠慮する人にもゴーインに
「いいからいいから」と水ギョーザを差し出す。
ベロッと水ギョーザ出されてもメーワク?(笑)

しばらくしてから、初めて他の車両も見てまわる。
私達が乗っている1等車は、
DAY 2の日記にもあるように
一つのコンパートメントに二つのベッド。
隣の車両の2等車は、
一つのコンパートメントの両脇に
2段ベッド、の4人部屋。
狭い廊下をぞろぞろと連なって歩く私達。
3等車は通路の両側にベッドだけが並んだ
むきだしの寝台車。
入っていくと、皆が「何なんだ」という目で
一斉に見る気がして、もの怖じしてしまう。
だけど向こうからしたら突然入ってきた
7人の日本人や巨大なカメラにも
びっくりしていることだろう。
乗客には家族ぐるみが多い。
「お歌がスキ」というのに歌ってみてと頼むと
すっごく恥ずかしがった、
ロシアのお人形さんのように可愛い子供や、
家族とモスクワまで旅をしている
童顔の18歳の兵隊さんもいた。
パグのような黒い犬を連れている夫婦がいる!
ペットも乗せていいらしい。
すばらしー。
すごくおとなしくて、かわいい!!
乗り合わせた人々同士喋ったり、
チェスに興じたり、
それぞれの過ごし方で時間をつぶしている。
ここ3等車が一番、一般のロシアの人々と
触れあえる場所だと思う。

夕方、夕陽が沈んでいくのを廊下でずっと見ていた。
あまりに美しい色彩に、
それだけで涙が出そうだった。
サーシャが通りかかり
「反対側に月が見えます」と教えてくれて、
反対のコンパートメントの窓から覗くと、
本当に水色の空に
うっすらと白い満月が昇って来ている。
低ーい所に。言葉をなくす。
私達は地球の上にいる。
平らな大地を走り抜けている。
左に夕陽、右に月。地平線ぎりぎりにある
両方の真ん中に居られることなんて、あるだろうか。
大きなサイクルの中に、生かされている、
と全身で理解する。
CREWのみんなも、それぞれのコンパートメントから
無言で眺めていたのだろうか、とても静かだった。

この月は、杉山くんがしっかりと
カメラを回してくれていた。
日本に帰ってきてから自分の写真を現像すると、
この日の夕陽と月の光景の写真が一枚も無い。
何故だろう。
たぶんもう、写真におさめようとすることすら
無駄に思えるくらい、美しかったのだ。

今日はちょっと全体的にテンションが
低かったかもしれない。
(一日中スッピンだったせいかな・・。)
身体も心も物事に付いて行けていなかったように感ずる。
大して動いていないのに、
いやむしろ動いていないせいで、
身体の芯が妙に疲れている。
みんな命がけでやっているのだから、申し訳ないと思う。
同じテンションでやりたいし。
良いものが作りたい。
今日は早く眠ることにする。
ディナーをスキップさせてもらって、
一人で早々と寝てしまう。横になると、
頭上の窓からポーンと浮かんだ月が見える。美しい。


坂本美雨オフィシャルホームページ
「stellerscape」
坂本美雨さんプロデュースのアクセサリー
“aquadrops”が誕生しました。
aquadrops(アクアドロップス)は、
坂本美雨さんがデザイン・製作、
トータルプロデュースを手がける
オリジナル・アクセサリーです。
美雨さんからのメッセージをどうぞ!
aqua drops...

揺れる水の粒。
したたる、春の慈雨。
冷たい水に触れる、指先。

透明感のある繊細なエレガンス、
毅然としたハードさ、フェミニンな揺らぎ。
耳から首筋、鎖骨へのしなやかなラインは
女性の美しさの象徴のような気がします。
そこを、水滴が一粒流れ落ちるような...。
そんなイメージを抱いています。

幼い頃から、母親や友人や自分のために
ビーズでアクセサリーを作るのが
好きでたまりませんでした。
最近、人を綺麗に見せるラインの洋服が
どんどん消えていき、
女性がドレスアップして行く場所も少なくなった。
そんな中で、おもわず背筋がピンと延びるような、
髪をキュッとアップにして出かけたくなるような。
生活の中で愛しい人や物を
真っすぐに見つめられるような。
自分が大切に作ったピアスを
耳にかける時に感じる、そんな気持ちを、
身につける一人一人にも感じてもらいたいと思い、
一つ一つ作り始めました。

坂本美雨

http://www.miuskmt.com/
 
限定通信販売もスタート!

aquadrops取り扱い店
<20471120>
東京都渋谷区神宮前3ー29ー11 
03ー5410ー2015
12時〜20時
<RICO>
渋谷区恵比寿西2ー10ー8 
03ー5456ー8577
12時〜20時

2003-07-24-THU

BACK
戻る