第7回 『ザ・マジックアワー』
三谷 うーん、今日は、なんだか勉強になりますね。
糸井 いや、変なこと言ってたら、すいません。
三谷 いやいやいや。
糸井 映画をね、すごく真剣に観ちゃったものですから。
いや、本当におもしろかったですよ。
三谷 うれしいです。ありがとうございます。
糸井 あの、真剣に観られて、しかも笑えるっていうのは
そんなにあることじゃないですから。
なんていうのかな、『THE有頂天ホテル』って
すごくおもしろかったんですけど、
僕はこんなに丁寧に観られなかったんです。
なんていうか、ジェットコースターに乗せられて、
どのくらいおもしろかったか
というのを感じてる間もなく、
つぎのシーンで笑っているというような感じで。
あの、これは完全に余談ですけど、
僕はジェットコースターを
設計している人に会ったことがあって、
いいジェットコースターというのは、
どのくらい怖いかというのを自分が全部
わかりながら怖がることができるんですよ。
ところが、ヘタなジェットコースターって、
「いま、なにがあったんだっけ?」というのが
わからなくなる怖さなんです。
僕は河口湖にある「フジヤマ」という
ジェットコースターが大好きで、つくった人に
「フジヤマはそのあたりが上手ですね」と言ったら
「それをわかっていただけると本当にうれしい」
っておっしゃってたんですけど。
三谷 へぇーーー。
糸井 で、映画の話にもどると、『THE有頂天ホテル』って
もう大ヒットする映画だったと思うし、
本当に大笑いしてたんですけど、
なにがおもしろかったかを味わう時間を与えられず
つぎの笑いに行ってた気がするんです。
でも今度の『ザ・マジックアワー』は、
味わいつつ、つぎに行けたんです。
まぁ、そこが、いまの若いお客さんなんかだと、
「それ遅い」って言うのかもしれないっていう
ちょっとした怖さもあるんですけど。
三谷 そうなんですよね。
それも、談志師匠との話に出てきたんですけど、
どんどん笑うタイミングが
早くなってきているというか、
もう、出てきた瞬間に笑いたい!
みたいになってきてるなかで、
こういう映画が成立するんだろうか、というか、
「観てくれるんだろうか?」っていうのは
やっぱり不安なところなんですよね。
糸井 あの、興行収入としてのランキングと、
それから、映画としてよくできてたねっていうのと
両方をやんなきゃいけないんでしょうけど(笑)。
三谷 はい(笑)。
糸井 「おもしろいよ」っていうことを
言ってくれる人が、ちゃんと街にいれば、
たぶん、大丈夫だと思うんです。
あの、すばらしく映画を味わいつつ、
最後のあたりは、泣いてるのか笑ってるのか
わからないっていうような時間を過ごしましたよ。
そのへんは本当にうまくいってたなあ。
三谷 ああ、うれしいですね。
糸井 あと、「喜劇です」っていう振る舞いというか、
喜劇の演出をこれだけしっかりと
ストイックに守り続けるって、
やっぱり相当ブレない、
強い意志が必要だったろうなと思ったんです。
「笑えちゃったからこっちでいいや」っていう
テイクの拾い方をしてるわけじゃなく、
ものすごく厳密にやってるように思えたんです。
三谷 やっぱり、1年半前に脚本を書きはじめたときに、
できあがったものをお客さんに
観てもらうことを想定しましたからね。
舞台の脚本って、そうじゃないんですよ。
幕が開いてからも、お客さんの反応を見ながら、
いくらでも変えられるんです。
そういう「あとでなんとかなる」という意識が、
いままで監督した映画3本には
ちょっと残ってたかもしれなくて、
映画はなんとかならないのにね。
そこが反省点だったんですけど、
今回の『ザ・マジックアワー』は、もう本当に、
「ここでお客さんは笑うんだ」
「そのためには、どうすればいいか?」
みたいなことを、カット割りを含めて、
全部想定しておいてクランクインしたんですね。
糸井 なるほど、なるほど。
三谷 それでもやっぱり予想しなかったことは
起こったりしましたけども、
少なくともこれまで撮った映画の中では、
もっとも台本に近いというか、
僕の頭に描いたものに近い形で
できあがったという気はします。
だから、それ以外のものは、
できるだけ排除したし、現場で盛り上がって、
ちょっとしたセリフを足したりもしたんですけど、
結果的にはほとんど編集でカットしました。
糸井 ああ、それはすごいですね。
「おもしろいだろう?」っていう映画は
世の中にいっぱいありますけど、
やっぱり不愉快なのは、現場の「酔い」が、
イヤな匂いとして紛れ込んでることなんですよね。
まぁ、知っててわざとやるという
そうとう高度なテクニックもあるんでしょうけど、
観るほうからしてみるとやっぱり
「どっちかにしれくれよ」って思いますから。
三谷 そうですね。
糸井 この映画では、それをかなり
意識的に排除しているってことですよね。
そのストイックさはすごいなぁ。
だって、資料で読んだんですが、
西田敏行さんに、アドリブを禁じたんでしょ?
極端にいえば、あの人のアドリブが欲しくて
オファーする人もたくさんいるでしょうに。
三谷 あの、西田さんって、禁じてるのに、
なにかおもしろいことを
ついおっしゃってしまうんですよ。
しかも、やっかいなことに、
それがおもしろいんです(笑)。
糸井 (笑)
三谷 だから、現場でみんな笑うんですけども、
今回は「本当にお願いします!」というふうに。
それでも、なにか言っちゃうんですけどね。
糸井 今回も、最後のほうでは‥‥。
三谷 あそこはもう、アドリブOKなんです。
ラストの10分だけはアドリブOKにして
思いっきりやってもらったんです。
(続きます!)

2008-06-16-MON



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