糸井 | じゃあ、いちばんの資本は、はっきりと自分の腕だね。 | |
---|---|---|
友森 | まぁ、そうですね。 あとの資産は、気持ち‥‥気持ちっていうと、 なんかちがう感じがするけど、でも、そうです。 なんだかんだいって最初の1年は、 バイトしながら店やってました。 |
|
糸井 | バイトしながら? | |
![]() |
||
友森 | お店の定休日の木曜日に、 勤めていた広尾の病院の前、つまり、 最初に就職した病院で、 バイトさせてもらってました。 その病院は東洋医学。 食事療法とマッサージと鍼灸で、 けっこう有名な先生です。 その先生から 「開業したはいいけど、絶対食べていけないから、 休みの日、バイトに来て、店の電気代でも稼いで帰れ」 と言われました。 |
|
糸井 | そのくらいの加減って、ちょうどいいね。 | |
友森 | はい。ありがたいなぁと思いました。 「じゃあ、木曜日がお店の休みなんで木曜日に来ます。 月に1回は、仕入れや雑用のために休みたいから ここに来るのは月3回でいいですか?」 と訊いたら 「いいよ」 と言うので、月3回バイトさせてもらってました。 それだけだと足りないと思ったみたいで、 原稿打ちとか、先生が書いてる本の清書とか、 「英語の資料を、ざっとでいいから和訳」 とか、そういう内職ももらいました。 |
|
糸井 | 大活躍じゃん。 | |
友森 | はい(笑)。 最初の頃はお店にお客さんが来なかったから、 ひまなときに店で原稿打ちしたり、 辞書引いて和訳したりしてました。 それを次のバイトのときに持って行くと、 「じゃあ、これで」とお金もらってた。 |
|
糸井 | それで「ミグノン」が回っていくようになった? | |
友森 | 最初のひと月はお客さんはポツポツでしたけど、 2ヶ月目からは、 最初の月に来てくれたお客さんの紹介で 顧客が倍になって、 2ヶ月目は動物病院で働いた頃と同じお給料が 取れたんです。 「あ、これは食べていける」と思ったけど、 「まぁ、怖いから、バイトは1年続けよう」 と思ってつづけました。そして、1年で、 「ありがとうございました」しました。 |
|
糸井 | 雇ってくれた先生は、どう言ってた? | |
友森 | 「どうせあんたなんか、どんぶり勘定だし、 経営できないだろうから、 食べられなくなったら来なさい」 と言ってくれました。 「ありがとうございます」 と言って辞めました。 |
|
糸井 | それが、最初に就職した東洋医学の先生なんだね。 | |
友森 | いまだにおつきあいはあります。 次の広尾の院長も、いまもなかよしです。 |
|
![]() |
||
糸井 | 犬猫の東洋医学って、実績があるもんなの? | |
友森 | 最初はとんでもない病院に就職したと思いましたよ。 だって、学校で、 「皮膚病にはこういう薬を使う」とか 「癌は手術をして」とか習ったのに、 全身ボロボロの皮膚病の犬が来ると、先生は 「あぁ、もうステロイドやっちゃだめだからね、 薬、全部捨てなさい」 とか言って、病院でシャンプーしてお灸をすえて、 「サプリメント、朝晩何粒かこれ飲んで。 ごはんはこれにしてね。はい」 と言って何万円も取って帰しちゃうから、 「うわぁ、ヤバい」 と、勝手に詐欺だと思っていました。 だけど、大学病院でも手に負えなかった子が、 みるみる元気になっていきました。 私自身、そのときに、アトピーと喘息とで、 ステロイドと抗ヒスタミン剤を使ってたんです。 |
|
糸井 | 友森さんが。 | |
友森 | そう。薬が増えてきていたし、 もしかして自分は、あのボロボロになってる犬の 途中までの段階まで来てるかもと思いました。 そこではじめて 「西洋医学=唯一の選択肢、じゃないんだ」 と思いました。なぜなら、犬は、嘘つかないから。 |
|
![]() |
||
糸井 | 人間だと「気のせいで治った」なんてことがあるからね。 | |
友森 | 手かざしただけで 「もうこれで大丈夫ですよ」って言われたら、 そうなるかもしれないでしょう。 だけど、犬は、知らないで、ブイブイやって来て。 |
|
糸井 | ブイブイ来て(笑)。 | |
友森 | お灸とかされて「アチチチ」とか言いながら 帰っていって、元気になってる。 そのときに興味を持って、 先生からすすめられた本を読んだり セミナーに行ったりしました。 子どものときに治まってたアトピーが 動物のアレルギーがきっかけで一気に爆発して、 包帯巻かないと出掛けられないくらい、血だらけでした。 洋服が、漿液(しょうえき)でくっついちゃって バリバリになってた。 包帯巻いてミイラ女みたいになって 専門学校に行ってました。 学校でも、 「あなた、絶対動物関係進めないから」 「ペットフード会社に就職しろ」 と言われていました。 |
|
糸井 | みんな、いろいろ言ってくれるもんだね、しかし(笑)。 | |
友森 | でも、ペットショップでバイトしてたんだけど(笑)。 あまりにもひどいと思われたみたいです。 そんな状態だった私ですが、 その東洋医学の病院に就職して、 徐々に薬をやめようと思いました。 皮膚の免疫をあげるのは、 こういうサプリメントがいいとか、 食べものに気をつけるとか、ちゃんと寝るとか‥‥。 |
|
糸井 | 運命変わったね。 | |
友森 | あそこに就職しなかったら、危なかったかも。 | |
糸井 | 友森さんの話、聞いてると、 「それをしなかったら」っていうのばっかりだよね。 「学校辞めなかったら」とかさ。 |
|
友森 | そう。学校を辞めたから、大検受けて、 不思議な道入ったし。 |


友森さんは療養のため
1年間高校を休学し、その後復学したが
「年数がもったいないから」ということで
高校を辞めて大学検定に切り替えたのじゃ。

糸井 | 不思議な道、ねぇ(笑)。 | |
---|---|---|
友森 | 大検受けて、受験して浪人して、 浪人中、お金がないと困るから 長時間働かせてくれる熱帯魚屋さんで働いて、 熱帯魚屋さんのキャリアがあったから ペットのお店でバイトができて。 |
|
糸井 | あぁ、あぁ。 | |
友森 | ペットの販売の経験があったから、 動物病院ですぐ働かせてくれた。 全部つながっていってます。 失敗しても、そっちのほうが、 実はよかったってことばかり。 |
|
糸井 | それから、東洋医学の病院の院長のように ほかの人がいちいち 「そんなんじゃだめだ」 と手を差し出してくれてる。 |
|
友森 | そう。周りの大人に、私はすごく恵まれています。 いろんな人が助けてくれました。 逆にいうと、そのせいで危機感がないし、 よく「甘い」と言われます。 もちろん、自分で努力はしなくちゃいけないけど、 とことん限界だっていうくらいまで、 努力しなきゃいけないけど、 もう無理だと思ったら、いつも大人が助けてくれます。 震災後に福島行ったり、シェルター借りちゃったり、 すごく無謀なことをしても、誰かが助けてくれる。だから、意外と何でもできる。 |
|
![]() |
(つづきます)