Yeah!Yeah!Yeah!
マイクロソフトの
古川会長がやってきた。

17

糸井さん、昔アップルが、インターネットが出てくる前、
ハイビジョン放送とコンピュータを繋いだ実験というのに
糸井さんが出てらっしゃって、糸井さんが……、
糸井 くだらない、って言ったの?(笑)
いえいえ、「これだけたくさん情報過多になって、
これからもっとすごくなるんだろうから、
見てる僕達は、これからもっと疲れちゃいます」って。
それがすごく印象的でした。
糸井 何で俺があの場にいたのかも
実はよくわからないんだ(笑)。
その一言が印象的で。「疲れちゃうんだよなあ」って。
糸井 古川さんに会ったときも、似たようなことを言ったんです。
「選べる」って言ったって、
まずいものがいっぱい並んでるスナックに行った、
みたいになっちゃったらどうしようもないわけでしょう。
それこそ本当にコンテクストの問題で、
「必要なのは何?」
っていうことがね。
見る側は、見る歴史がない状態で見て、
皆、想像しているわけですよ。
そこに麻布高校で育った子はこれが好きだ、
っていうことの意味があるわけで。
皆がハンバーガー食べて、
皆がおんなじ勉強しているっていう前提でやると
コンテクストっていう発想にはならないわけです。
そこ、なんですよね。
ウチも、始めてみてやっとわかったんだけれど、
意地で、女の人に見せたい、っていうページを
つくったはずなんです。
最初に、散々助言されたんだけど、
最初のころのインターネットの資料に、
インターネットにつなげている人の円グラフがあって、
理科系で職業はコンピュータ関係って人が
ものすごいパーセンテージだった時代なんだと。
その資料を貰ってがっくりくるわけですよ。
「俺、この人たちと接点、ないもん」って。
友だちはいるけど。
その人たちが好きなのはこんなメニューですよ、
っていうのは皆が知っているわけです。
でも、それ、俺、つくりたくないもん。

たとえばの話、どこも天気予報やってない時代に、
天気予報のいちばん詳しいページを作れば
絶対に人気が出るけれど、それ俺、楽しくないもん。
天気予報をみんなに教えて何になるんだ!? って。
いっぱい助言を受けたときに、逆に、
「いま一番、いないのは?」
って聴いたら、女性だ、って。
「女性で、コンピュータが解らない人は、
 あんまりお客さんとしては当てにならないですね」
って言われたんです。
「じゃあ、そこが空いているんだったら、
俺、そこに行くよ」って。
ヘソマガリでほぼ日をスタートしたんです。
実は、女性も男性もないってことが
前提だったんだけど、理科系の男の趣味って枠組みは、
やったってできないし、同じになるのはもう、
ぼくにとって負けと同じなんですね。
俺は広告屋だから、ヘソマガリなだけじゃなくて
オリジナリティのないものは、
なんでもないってことなんだと、解ってもいたわけですよ。

ユーザーとコンシューマーと、側面が違うんですよね。
お客様として考えると、
ちょっと気に入るものがあればそれだけでいいし、
気に入るものがひとつもなければ、まったくだめ。
つまり、「わざわざ買う理由がない」ってことだから。
対象になる読者をそこまで覚悟して絞れたら、
別に、いくら人気があるからってアニメ絵もいらないし、
必需品のような週刊ニュースもいらないし、ウチは。
ただ、それがとっても好きだって人がいっぱいいることは、
ぼくも事実としては知っている、というだけ。
で、そんなに多くなるとは思わなかったんで、
こわごわ始めたら、いまほとんど50:50なんです、
男:女がね。いま一番多いのは20代女性かな。
次時代のコンシューマー像が、ウチに全部あるよ、って、
媒体としても言いやすくなってきたんですよ。
理科系技術者ばっかりで他と同じだったら、
ウチ、何も売りがないですもん。
怖かったですよ、正直言って。
先達たちが、「このままだと見ないでしょうね」とか
言うもんね。言うんですよ。

古川さんはいちばん最初に「ほぼ日」をごらんになって
どう思われたんですか。
古川 出版社、放送局だとか、代理店だとか、
そういうものをヌキにして、
直接メッセージを発信することの力強さ、
責任の取り方っていうことについて考えましたね。
過去のウエブのページを作ってきた人達っていうのは、
他の世界でメディアとしては、成功したことがない人が、
学級新聞つくるのに初めて自分に当番が回ってきちゃって、
ガリ版回して刷ってる、
そういうふうに、中身の無いやつが多かった。
ところが「ほぼ日」の場合は、メッセージの力強さが
ありながら、印刷の工程だとか、物流だとか、
広告をとらないとメディアとして来月号を出せないだとか、
そういう制約から一切外れた状態でね、
エネルギーを持った人が直接メディアを持ったら
どうなるか、というところが、すごくよかった。
奇をてらって、見掛け上、ゴテゴテに、きれいにしている
ホームページは他にもいろいろあるし、
インターネットくさいものを使おうと技巧に走っている
人もいるけれども、それって読んだときに、
かみしめても味がないような、ギミックな味の風船ガム
かんでるみたいな状態で。
スルメと風船ガムの違いといったらいいのかな。
これは「スルメをかんじゃったな」って感じでしたよ。
糸井 嬉しい。いちばん、言われたい言葉ですね。
早い話が、糸井重里っていう人が、
20歳くらいから仕事をしているわけですよ。
30年、同じことをしているわけだけれど、
これもまた「ブーム」ってあって、
そこには、ピークもあるんです。
誰でもそうだけれど。
そういう時には、「何を書いてもいいです」っていう
頼まれ方をするんです。原稿なんかでも。
「ナニナニについてお願いしたいんです」
ってときに、それこそ、売り手市場ですから、
「忙しいんだけど」って言ったら、
「もう、何でもいいんです」って。
そういう時期がまた、あるんですよねぇ。
その時に、ぼく、
「ああ、これは、俺は、死ぬんだな」
って気がついたんです。気が弱いから(笑)。
「何でもいい」って言われたときに、それやってたら、
流行に殺されるな、って思ったんですよ。
一番怖かったのがその時だったんです。
わがままだったし、まだ青春だったから、
生意気はやってましたけど、
「何でもいい」
って言われながら仕事をしているときって、
「何にもよくない」
って言われることがその次に絶対あるんで、
じゃあ、死ぬなあ、って思ったすよ。
僕は広告が本職だから、他のメディアの付き合いは、
やるものはやる、やらないものはやらない、って
選べたんだけど、
そのうち雑誌とかで発信する場所ってのが
どんどん代替わりしていくわけですよね。
僕が断った後は、誰が仕事してるかっていうのも、
だんだんわかるわけです。
芸人の言う「キャラがかぶる」ってやつ。
一同 (笑)。
糸井 もう笑っちゃうよね。
忙しいからゴメンね、って言うと、
山田五郎さんとかいとうせいこうさんに行く。
その逆も、きっとあるんだろうな。
俺はそれかなあ? って気分があるわけ。
おたがい、「ちがう」と言い張ればちがうのにねぇ。
泉麻人さんがいたり、みうらじゅんがいたり、
いろんな名前が「このジャンル」ってことで、出てくる。
なんか見えるんですよ、編集会議が。
一同 (笑)。
糸井 皆笑うけどさ(笑)、ほんとにそうなんだよ。
こういう消費のされ方してたんじゃ、
本当に面白いものって出せないな、って。
かといって僕は純文学の人じゃないから、
節を曲げてどうのこうの、ってことは
何も言わないわけで。
一緒に楽しくやればいいじゃない?
っていう発想だから、たとえば今「ほぼ日」に
書いているようなことを、たとえば仮にね、
「ポパイに書きたいんだけど」
って電話したとしたら、断られますよ(笑)。
雑誌ってそういうもので、「今は誰?」ってことで
発想するから。今は、たとえば、
僕が編集者だったらリリー・フランキーですよ。
リリー・フランキーだったら、
何書いてもらってもいいよね。
松尾スズキか、リリー・フランキー。
「イトイは?」ってのは、ない。
それは当たり前なんです。

俺ね、これはもう自慢なんですけど、
3回「アウト」って言われた人間なんですよ(笑)。
イン&アウトっていう図表があって、
インのところに誰かが入ってて、
アウトのところに俺が入ってるんですよ。
それ、3回、経験してるんですよ。
3回パージ(追放)されているんだから、
もう怖いもん、ない。いや、笑うけど。
でもつまんなくもないよ、って気もあるんですね。

たとえばこうして古川さんとしゃべっていても、
これをここのメディア(『BUSINESSコンピュータ
ニュース』)では受けてくれたけれど、
他の雑誌で30ページくれ、なんて言ったって、
断られますよね。
「6ページまでにしてください」とか、
「500字でどうでしょう」っていう話で。
30ページやりたい、っていうのはあるんですよ。
そうじゃないと、こぼれるものが多すぎる。
でもウエブ上だったら、30ページをコマ切れにして
ずうっと出していけばいい。
途中の麻布高校の話って、役に立つかって言ったら、
何の役にもたちゃしない(笑)。
でも、流れの中で、言いたいんですよ!
それを、ちゃんと伝えられるという場所がない。
たとえばさ、秘書の立野さんが、
古川さんの面白い話を知っているって、
別の会社のOL仲間に
「こういうこともあるのよ」って言ったら、
「いいなあ!」って言われますよ、きっと。

つまり、公式見解以外の、
「車立てた話」を知っている人の
ほうが、情報価値、高いんですよ。
でもメディアは、ない。
メディアも問屋と小売店の関係になってて、
問屋がウンって言わなかったら載せられないわけだ。
そしたら麻布高校で車立てた話っていうのは、
知っている人しか知らない。
でも本当はユーザーも知りたいし、
ウインドウズまちがって買っちゃった人は、
ここの会長は車立てたらしいよ、バカだよね、って
いうのがあって初めて、ウインドウズのカチンカチン
(クリック)が楽しいんですよ。
そのメディアをどうすればいいんだろう? と思ったら、
「インターネットなら、タダで出来るじゃん」
ってことなんですよ。
……タダじゃなかったのが、罠だったんですけど(笑)。
古川 うわっはっはっは(笑)。

糸井 そこが唯一の失敗。
俺は、一人でも作るって言ってたんですよ、最初。
で、みんなが俺に呆れて、月給も貰えないし、
みたいにして去ったときに、一人でも作れるようにって、
家族をぜんぶ入れたんですよ(笑)。
冗談でもあるんだけど、いっぽう、
これはね、「覚悟」なんですよ。
でね、家族って、マフィアみたいだけど、
「頼む!」って言えばいいわけじゃないですか。
で、最低ここまで貧乏したら倒れるぞ、っていう
ラインを決めてスタートして始めてみたら、
もっとやりたくなるわけですよ(笑)。
もう一人ほしい、とか。
最初は「1行替えただけでも『毎日』って言えるから」
って言ってたのに、今、
コンテンツが5本くらいずつ
回ってないと、読者が納得しない。
と同時に、自分たちが納得しなくなっちゃう。
おかげで、「タダだけどゴメンね」って言いながら、
古川さんもそうだけれど、ウチに来てくれてタダで、
っていうひどい条件をのんでくれた人、っていうのは、
それだけで性格が解るんですよ。
古川さんと、ホテル・オークラでね、
スイートルーム取って、
「古川様、ようこそ」ってね、会長様ですからね、
ということで聞こえてくる話って、
絶対に、こうならないんです。
とにかくゴメンナサイ、来て下さい、って言って
でも来てくれる人って、足のある人なんです。
その、人とのつながりだけでやっていきたい、と思うと、
このやり方、いまの貧乏な状態って言うのが、
すごく面白いんですよ。
篩(ふるい)があるんですね、一回。
たとえば黒塗りのリムジンで来て、出迎えが必要で、
っていう人は、今は来なくていいや、別に、って。
やりたいときには、テーマが合ったときにやりましょうね、
って。性格でページが出来ていく。
古川 それが裏のメディアとして、こっそりやるんじゃなくて、
その存在の重さが、きっと表のメディアに対する
何かになる。もう一度ね、
「あんたそんなもの見てたけど、果たして本当に
 良かったわけ?」
ってね。テレビの広告収入を一世帯当たりで割ってみると、
一世帯に5万円ずつ、商品の中に広告料が
埋め込まれていると言いますよね。
それが総額で年間2兆円ビジネスだっていうでしょう。
「私はその5万円を払いたくない。
 5万円のメディア代を払うんだったら、
 こういうものを作ることに価値がある」
って気がついたときに、本来あなたが見たかった
チャンネルはこれじゃないですか? って、
ちょっとデバイスの製法を替えちゃう。
さっきwebTVを見ていただいた中では、
時間軸とチャンネルのタテヨコの軸が
新聞の配置と逆だと感じたかもしれません。
これは何でやっているかっていうと、
チャンネルが増えたときに、100個見えるんだけど、
そのうち30個を選ぶ、っていうときに、
いちどになるべく多く表示できて、
よく見るチャンネルをすぐ選べるようにするには
どうしたらいいかということなんです。

僕、ふと思ったのは、「ほぼ日」っていうチャンネルがね、
NHKの隣にあるんだ、っていうこと。
自分が見たいチャンネルはこれなんだ、っていう状態で、
たとえば時間軸で横に流れていくとか、それから、
毎日届いたものを「昨日はどうだったっけかな?」って
いちいち思い出して、そこのページを検索するのは
面倒くさいから、一週間のうち3日しか見られなかった
ときがあって、残りの4日分は土日にゆっくり読みたい、と。
そういうときに毎日届いたものが少しずつ
たまっていって、旧いものから少しずつ消えていくっていう
状態になれば、週末「ほぼ日チャンネル」を開いたとき、
月火は読んだな、じゃあ水曜日から、ってボタンを押せば
読めるというような。そういう状態になったときに、
インターネットに行っているのとテレビを観ているのは、
いまは意識の差があまりにもあるけれど
インターネットのホームページが、テレビのチャンネルの
ひとつになる状態になったときには、
また面白いことができるんじゃないかと思うんです。

(つづく)

1999-12-08-WED

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