「「冬の都会で」編  今回の先生/諏訪雄一さん プロフィールはこちら
名前その16 ヒメドコロかオニドコロ 

冬の青山、骨董通り。
小雨がぱらぱら降ってきました。
これ以上、雨足が強くなりませんように。

吉本由美さんと諏訪雄一さんのおふたりは、
骨董通りから、すこし細目の裏通りに入っていきます。

 
諏訪 ここ、曲がりましょうか。
吉本 こっちに行くんですね。
諏訪 ええ、その向こうに、
ちょっと植物がありましたので。
吉本 そうか、諏訪さん、
ロケハンしてくださったんですもんね。
諏訪 はい、日曜日に、
このあたりを歩いてみました。
やっぱりちょっと見ておきたかったので。
吉本 お休みの日にありがとうございました。
諏訪 いえいえ‥‥
あ、これですね、ちょっと気になったのは。
 
吉本 ここは‥‥花壇?
諏訪 そう。ほら、こんなのが‥‥。
 
吉本 ツタですね‥‥枯れかけているような。
諏訪 枯れかけてますけども、
ヤマイモの仲間だと思うんですよ。
吉本 ヤマイモ? ここにヤマイモ?!
諏訪 たぶん、ヒメドコロか、オニドコロではないかと。
 
吉本 それはヤマイモの一種なんですね。
ジネンジョですか?
諏訪 いや、残念ながら(笑)。
あのおいしいやつじゃないですね。
ヤマイモの仲間は
それなりに種類があって、区別が‥‥
吉本 難しい。
諏訪 でも、この葉っぱはたぶん、
ヒメドコロとかオニドコロだと思います。
吉本 姫か鬼‥‥その名前もすごい。
諏訪 はい(笑)。
吉本 これ、誰かがここで育てようと思って
植えたわけじゃないですよね。
諏訪 そうではないでしょう。
おそらく土を持って来たときに
タネが入ってたのかな。
吉本 ああ、そういう。
諏訪 ヤマイモの優れているところは、
増え方が3種類あるんですよ。
ふつうは、花が咲いてタネが落ちて
子どもができるじゃないですか。
ヤマイモもそうやって増えるんですが、
同時に「むかご」っていう‥‥
ごぞんじですか? むかご。
吉本 ちいさな玉みたいな。
おいしいですよね。
諏訪 そう、パチンコ玉みたいな身がいっぱい付いて
それが地面に落ちて、芽が出るんですよ。
 
吉本 へー。
諏訪 でも、ヒメドコロとオニドコロの場合は、
むかごはできないんです、たしか。
吉本 あ、そうなんですか。
諏訪 そのかわり、
イモ自身がこう、割れて増えたりも。
吉本 そうか、タネイモだ。
おいもってそうですよね。
諏訪 むかごからイモになるのに
だいたい2〜3年かかるんですね。
タネからだと5〜6年かかっちゃう。
吉本 わあ、たいへん。
諏訪 タネイモを植えれば
その年にはもう穫れちゃうんです。
だから早く増やすには
切ったイモを植えるのがいいんですけど、
その場合にはマイナス面があるんですよ。
吉本 それはどういう?
諏訪 自分の体の一部を太らせるので
遺伝子がまったく同じなんです。
クローンができるわけですね。
これは、むかごの場合も同じです。
吉本 おいもの、クローン。
諏訪 花を咲かせてタネから育てれば
遺伝子が混ざり合うので、
環境が変わっても、
どれかしらが生き延びる可能性のある
子どもたちができあるんですね。
吉本 でも、クローンでぜんぶ同じ遺伝子だと‥‥
諏訪 ひとつの要因で
ぜんぶダメになっちゃう危険があります。
吉本 ‥‥この子は、きっとタネからですよね?
だって、こんな場所で丈夫に育ったんですから。
諏訪 そうかもしれませんね(笑)。
 
 

青山でヤマイモの仲間を見つけたのも意外でしたが、
お話が「クローン」のことになったのも予想外でした。
実際に野菜を育てている諏訪さんならではの解説ですよね。

次のみちくさは、3月16日に。
月・水・金の更新でまいります。

 
吉本由美さんの「ヒメドコロかオニドコロ」
 

おおっ、来ましたね、すごい名が。
音もすごいが字もすごくって、
漢字では、姫野老、鬼野老と書くのだ。
姫に鬼。
字を見てすぐに、お嫁さんと姑さんの
ふたつの割烹着が諍う台所のシーンが浮かんだ。
二者ともヤマイモ属だから舞台はどうしても台所となる。
お嫁さんは新品の白い割烹着、
姑さんのほうは着古した藍のものを身に付けて、
ヤマイモの摺り下ろし作法かなんかで対決している。
その土間に、連子窓から縦長の薄い光が差し込んで、
嫁と姑の白と藍を美しく妖しく際立たせ‥‥。
みたいなことまで連想させるからすごい"名ぢから"だ。

日頃お世話になっている『牧野植物大図鑑』には、
オニドコロはトコロという名、
ヒメドコロはエドドコロという名で載っていた。
中年ギャグマーなので
「じゃダイドコロは?」と言いながら先を見たら、
タチドコロという名がたちどころに現れたから大笑い。
前の2つより葉っぱが野太い。男っぽい。
鬼がいて姫がいる以上、野武士がいてもおかしくない。

オニドコロの葉はハート型で、
ひげだらけの根は(中には食べる人もいるが)
苦くて「とてもとても」であるらしい。
ヒメドコロの葉はほっそりとして、
根茎は(摺るのか煮るのか判らないが)
食用にもなるそうだ。
ウチの庭のフェンスに絡まっているのはこっちかなあ。
まさかヤマイモの仲間とは知らず、
これまではバリバリ引っこ抜いていたのだけれど、
今年は冬まで我慢して、イモ掘りなんぞやってみるかな。

2009-03-13-FRI
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