「「冬の都会で」編  今回の先生/諏訪雄一さん プロフィールはこちら
名前その14 たぶんカモミール
※この回を更新した後に、読者の方から、
 「これはマメカミツレなのでは?」
 というご指摘のメールをいただきました。
 諏訪さんも「たぶん」とおっしゃってましたが、
 どうやらご指摘は正しいようでした。
 カモミールではなくて、マメカミツレ。
 それはそれといたしまして、
 この回の会話をおたのしみくださいませ。

「ほぼ日」のビルから数歩、
そとに歩みだした吉本由美さんと諏訪雄一さん。
左右に続く骨董通りには、
とぎれることなく自動車が流れています。
見上げれば、うすく曇った冬の空。
歩道を行き交う人々は、一様に先を急ぐ足取りです。
そんな中で、視線をついと下へ向ければ‥‥。
冬の都会での「みちくさ」がはじまりました。

 
 
吉本 いました、さっそく。
諏訪 もう、はじめていいんですか?
吉本 いいと思いますよ。
だって、あるんですから、ここに。
諏訪 じゃあ、ちょっとしゃがんで、
見てみましょうか(笑)。
 
吉本 この、街路樹の根元の、
鉄のわくみたいなのは何でしょうね。
もしかしたら隙間にみちくさが生えるために?
諏訪 いえ、たぶんあれですね、
樹の根っこに水がいくように
こうしてあるんでしょう。
草が生えるためではないと思いますよ。
吉本 そうか、そうですよね。
‥‥あ、これ、かわいい。
なんですか、これ。
諏訪 まだちいさいから
はっきり言えないんですけど、
たぶん、これはカモミールですね。
 
※他の植物である可能性もあるので、見つけても食べないでくださいね。
吉本 えー?
カモミールって、あの、ハーブの。
諏訪 その仲間だと思うんですよ。
そうですね、ほぼカモミールだと思います。
吉本 いきなり最初にカモミール。
諏訪 キク科の植物で、
日本名はカミツレです。
吉本 へえー。
諏訪 たしか「ほぼ日」さんでも
カモミールティーを販売してましたよね。
 
吉本 この子は、どこかからここへ
飛んできちゃったんでしょうか。
諏訪 そうですね、たぶん近くのプランターなんかに
植わっていたカモミールの
こぼれ種だと思います。
吉本 こぼれ種。
どこかからこぼれて、育ちゃった。
諏訪 はい。
吉本 元気ですねぇ。
どんどん増えそうですよ。
諏訪 基本的には、あまり人手をかけずにも
自然に育つ雑草なので、
と言うか‥‥強いんですよ。
吉本 カモミールが雑草。
なんだかもったいない(笑)。
 
諏訪 ほら、ここにちいさな白い花が
咲きそうになってるじゃないですか。
 
吉本 はい、はい。
諏訪 この花がもうちょっと大きくなると、
マーガレットをちっちゃくしたみたいな
花が咲くんですね。
それを乾燥させたのが、カモミールティーです。
吉本 そういえばカモミールティーって
花びらのお茶ですよね。
諏訪 鎮静効果というか、
気持ちを落ち着かせる効果も
あったりしますよね。
吉本 ‥‥うーん、信じられない。
ここにカモミールがあったとは。
諏訪 都会の真ん中なのに。
吉本 いつも通り過ぎてただけの道に、
こんな「みちくさ」があったんですねえ。
しかもカモミール。
‥‥で、このとなりにあるのは?
諏訪 ああ、これは‥‥。
 

と、おふたりは街路樹の根元に、
また別の「みちくさ」を見つけたようです。
それについては、また次回。

それにしても、毎日のように通っているビルの前に
カモミールが育っていたなんて‥‥。
最初からずいぶん驚きました。

次の「みちくさ」は、明後日に。
このシリーズも、月・水・金の更新でまいります。
 
吉本由美さんの「カモミール」
 

以前、中国へ行ったときのこと。
旅の疲れと大陸の乾いた空気に体が悲鳴をあげ始めた夜、
訪問先で菊茶をいただいた。
蓋つき茶碗の蓋を取ると、ぷう〜んと野原の匂いがした。
ひと口啜ると、
烏龍茶のまろやかな味に菊の苦みが交わって、
まさに野原の真っ直中で寝転んでいる気分になった。
まろやかで苦々の不思議な味が心身をほぐしていく。
聞けば菊茶には疲労回復と鎮静効果があるという。
でれでれとなって、「ほ〜っ」と幾度も息をついて、
おかわりもいただき、急須の中を見せてもらった。
茶殻とともに小さな白い菊の花がぎっしり入っていた。
帰国の日、市場に行って削り節みたいにして売っている
干した白菊花の大袋を2つ買ったのは言うまでもない。
それは半年で飲み干した。

東京の中国茶の店に探しに行くと、
高級品しか置いてなかった。
小さな袋にほんのわずかでお高いのである。
これじゃ4、5回淹れたら終わり。あきらめる。
同じフロアにハーブ屋さんがあるので念のため覗いたら、
カモミールが袋詰めにされて籠に入っていた。
決してお安くはないにしても
高級白菊花の何倍もの量である。
同じ菊科で、鎮静効果の薬効も似ていると聞く。
試しに1袋買って、烏龍茶とともに淹れてみた。
カモミールをお茶にして飲んだのは初めてだったが、
いや、まずいのなんの、みごと失敗。
烏龍茶は白菊花のような苦いヤツとはうまくやれるが、
カモミ−ルのような甘酸っぱいのとは合わないようだ。
甘いものは甘いもの同士ってことで、
友だちによると、カモミールにはハチミツらしい。
しかし私は残りのカモミールを足湯に使った。
これは良かった、深夜、足下から甘い香りが漂うのは。

2009-03-09-MON
次へ 最新のページへ 次へ
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN